はじめに
今回、このホームページに連載する機会を得ましたことに感謝申し上げます。
サッカー切手にはじまり、次第に、記念消印、絵ハガキや記念封筒など、サッカーに関わる郵便物資料(郵趣の世界での「サッカー郵趣品」)に手をひろげてきました。それらは断片的に、ビバ!サッカー研究会や他の場所で紹介してきましたが、今回すこしまとまった形で詳しく述べてみたいと思います。
今では、サッカー切手だけで1万点を超えるまでに至っており、その全てを収集することは極めて難しく、その全貌の情報を把握することすら多大の労力を必要とします。どこから始め、どこを軸に収集を続ければいいのか、迷われる方も増えているのが現状です。
また、サッカーと郵便の結びつきのはじまりやその後の展開についての文献や資料の登場を長年待っていましたが、なかなか現れてきません。
今回はこの辺りにも目をくばりながら、郵便物資料に見られるサッカーのあゆみをたどってまいります。これらの郵便物資料は、おおむね手のひらの上に乗ることから、タイトルを「手のひらの上のサッカー史」としました。
ご感想、ご指摘をいただきたく存じます。
小堀俊一
第1部 初期のサッカー切手
1.サッカー切手の誕生 (1924年)
1924年6月9日、第8回オリンピック・パリ大会のサッカー競技の決勝戦は、この大会のために建設されたコロンブスタジアムで行われ、ウルグアイがスイスを3対0で下し優勝しました。
オリンピックのサッカー競技に初めて参加し、優勝したウルグアイは、およそ50日後の7月29日に、優勝記念切手3種類(デザインは同じですが、印刷色が異なる)を発行しました(図1・2:画像クリック→拡大)。これが世界最初のサッカー切手です。
<図1>
最初のサッカー切手 1924年7月29日発行 (ウルグアイ)
サッカーの図柄が描かれているのがサッカー切手と思われがちですが、この最初のサッカー切手に描かれているのはギリシャ神話に出てくる「勝利の女神・ニケ」で、サッカーの場面ではありません。近代スポーツの競技場面を切手に描いたものは、このころまでには発行されていません。
1896年に第1回オリンピック・アテネ大会を記念して、ギリシャが発行した12種類は「最初のスポーツ切手」ですが、描かれたのは古代オリンピック競技場面や芸術作品、遺跡(神殿)などで、その後もこの傾向が続いていました。最初のサッカー切手の図柄も、ウルグアイの優勝をギリシャ神話の「勝利の女神・ニケ」を描き込んだ象徴的なものといえます。
象徴的図柄のこの切手ですが、発行時に用いられた記念消印が押された封筒を見ると切手の発行意図がよりはっきりと分かります。
記念消印の右側の四角い部分には
「
URUGUAY/CAMPEON MUNDIAL /DE FOOTBALL」
と記され、左側の丸い部分には「RECOMEDADAS」(「讃えて」または「記念して」の意)と明記されているからです。
<図2>
最初のサッカー切手3種類を貼った記念カバー(封筒)
記念消印が押されていて発行意図が明確。
なお国名表記などは、「URUGUAY」でなく「VRVGVAY」としています。これはUとVば未だ分離していない頃のアルファベット表記にすることによって、ギリシャ時代の姿に見せようとする擬古的?手法だと考えます。
デザイン的にはどうでしょう?
ルーブル博物館に1884年以来展示されているこの像を選んだのは、パリ大会を意識したものと推察できますが、切手デザイナーの視点はもう少し広く、また深いように思われます。
ルーブル博物館の像は「ダリュの階段」の上の踊り場に展示されています。階段下から眺めると、その上に台座を含めると3メートルを超える高さの像がそびえ立っている様で壮観です。
しかし切手に描かれているのは、像が発見されたエーゲ海最北部に近いギリシャのサモトラケ島の聖域に立つ姿です。
1937年8月にフランスが発行した切手<図3>では、この像は縦長に収められていますが、ウルグアイのそれは横長方向になっていて空間的に大きな広がりをもたらしています。また、簡潔に書き込まれた雲の流れは、この地域特有の強い潮風がこの有翼の像に音を立てて吹き当たっているかのような迫力を感じさせてくれます。
見る機会の多いものですが、「小ぶりながら最初のサッカー切手にふさわしい風格を備えている」と思わせてくれます。
<図3>ルーブル美術館のニケの像の記念切手を貼った同館絵ハガキ(一部分)
1937年9月17日印 (フランス)
― ちょっと寄り道 ―
映画「パリの恋人」(1957年)の中の一シーン。オードリー・ヘップバーンが、ジバンシーがデザインした真っ赤なイブニングドレスを身にまとい、この像の背後から現れ、かなりなスピードで階段を舞い降りてくる姿は圧巻でした。 |
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