第4部 ブラジル、ジュール・リメ杯永久保持へ(1962〜1970年)
8.第8回ワールドカップ・イングランド大会 (1966) D
― サッカーと切手の母国で開催 ―
◆ワールドカップ切手濫発の兆し
1962年第7回ワールドカップ・チリ大会を機に、地域予選にも参加せず、FIFAにも加盟していない国からもワールドカップ記念と銘うった切手が発行されはじめたと述べましたが、それでも33種(無目打ち切手や小型シートを除く)に過ぎませんでした。しかし第8回大会からはその動きは加速され、この大会だけでおよそ240種類(同基準)近くにもなり、前回大会と比べ7倍を超えるまでになりました。サッカーの母国でワールドカップが開催されたというだけで増えたのでしょうか?その背景を探ってみました。
◆英領・保護領他の21カ国が一挙に42種類を発行
イギリス本国同様、エリザベスU世の肖像を採り入れた切手を多く発行している英領や保護領では、本国より先にサッカー切手を発行することはこれまで差し控えられていたと考えています。
しかし、本国の今大会開催記念切手発行(6月1日、同国最初のサッカー切手)に合わせ、
21カ国(英領・保護領20と仏領1)から類似したデザインの切手各2種、合計42種がオムニバス発行されました。その多くは7月1日発行ですが、8月や10月にずれ込んだ国もあります。1例を掲げておきます。
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大会記念カバー
(1966年10月1日発行・
トリスタン・ダ・クーニャ) |
*トリスタン・ダ・クーニャは南大西洋の中央付近にある絶海の孤島(火山島)。16世紀初めにポルトガル船により発見され、1816年からイギリスの領土となり、1952年に同島最初の切手を発行。なお、切手の発行企画はイギリスの<クラウン・エージェンツ・Crown Agents’? Stamp Bureau>によりなされている。(「続/ 世界・切手国めぐり」斉藤毅著 蒲X趣サービス社刊による)
*21ヵ国を地域別にみると、<ヨーロッパ>(1)、<カリブ海>(9)、<オセアニア・南太平洋>(6)、<アジア>(3)、<アフリカ・大西洋>(2)となっており、19ヵ国が
洋上の島か諸島である。そしてこれらの島々の大半が、現在でもサッカー切手の発行を続けている。
◆アフリカ新興国を狙った「切手の輸出商品化」企画
1960年代は「アフリカの年」といわれ、独立する国々が増えました。これらの国々を対象に国際的切手エージェントが「切手の輸出商品化で外貨獲得」を働きかけ、切手発行権を取得し企画・制作から販売までを取り仕切る事例が多く見られるようになります。そのきっかけとなったのが、ガーナだと言われています。世界の切手市場で人気のある図柄の切手が次々と登場しましたが、サッカーもそのひとつでした。
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大会記念 5種中の2種 (1966年11月14日発行・ガーナ) |
*切手自体の印刷はイギリスのHarison & Sons社であるが、「インターガバメンタル・フィラテリック・コーポレーション」(IGPC)(USA)により企画・制作されている。
(この項「事情のある国の切手ほど面白い」内藤陽介著・メディアファクトリー社刊を参照しました。)
◆アラブ土候国切手
1971年と1972年にかけてアラブ首長国連邦(UAE)が成立する以前にドバイ、アジマン、フジャイラ、ウム・アル・カイワン、シャルジャー、ラス・アル・ハイマの各首長国による切手発行がなされていました。このほか、北イエ―メンの王党派や南イエ―メンの首長国などを加えた切手は「アラブ土候国切手」とよばれています。これらの切手発行にも海外エージェントがからんでいました。その点ではアフリカ新興国と類似していますが、切手の題材が雑多で品位欠けるものや、金箔切手のように高価格のものなど玉石混交状態で、世界的に著名な切手カタログから除外されている場合も少なくありません。
ただしサッカー切手には魅力的なものも含まれていて、私は最初から除外せず選別して収集してきました。次のシャルジャーの切手7種もそのひとつですが、FA以前のサッカーからイングランドのワールドカップ優勝までが薄い金属箔(アルミ箔と思われる)上に描かれています。
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ギリシャのボールゲーム
(紀元前600年ごろ) |
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中国の的を通す形式の「けまり」
(紀元前175年ごろ) |
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教会堂の壁飾りに描かれた
プレイヤー(14世紀) |
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ボールに空気を入れている光景
(17世紀) |
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英国の街頭での
子どものボールゲーム
(1750年ごろ) |
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ケニングトン競技場での
イングランド対スコットランドの
試合風景(1879年) |
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イングランドチームのビクトリーラン
(1966年) |
大会記念切手 7種 (1966年11月24日発行・シャルジャー) |
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