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ドイツW杯観戦日誌・目次
 
マルタとの強化試合に意義はあった(6/5)
開幕は静かに迫っている(6/6)
入場券は本当にないのか?(6/7)
ストライカーの決め手は判断力(6/8)
ワールドカップ開幕(6/9)
日本の敗因を考える(6/12)
フランスは復活するか(6/13)
「東欧の速攻」は滅びたのか?(6/14)
監督の用兵が勝負を決める(6/15)
米国が見せた9人での戦い方(6/17)
「決定力不足」を考える(6/18)
ドイツのサッカーの底力(6/20)
日本の敗退を考える(6/22)
ドイツは燃え上がる (6/24)
イングランドの放り込み(6/25)
カメラマンの戦い (6/26)
アフリカのサッカーを考える (6/27)
準決勝・ドルトムント (7/4)
準決勝・ミュンヘン (7/5)
決勝・ベルリン (7/9)
 

※このコンテンツは、ドイツ・ワールドカップ期間中に、同名のブログに掲載していた記事に加筆、転載したものです。

 

 


 牛木素吉郎のドイツ・ワールドカップ観戦日誌
 1970年メキシコ大会から10大会連続現地取材をしている
 スポーツジャーナリスト・牛木素吉郎のリポートです。(協力:ビバ!サッカー研究会)

7月4日(火)

準決勝(ドルトムント)
イタリア 2−0 ドイツ (延長)

◆中田英寿の引退報道
 前日に東京の読売新聞社会部から電話があった。「ヒデ引退の感想を」という。ドイツにいるぼくには初耳だった。記者会見をして発表したのではない。自分のホームページで公表したのだという。そういうのも「発表」というのだろうか?
 新聞のような従来のマスコミなら、一通り目を通せば、そのニュースに気が付く。個人のホームページは、特にヒデに興味を持っている人でなければ検索しないので、多くの人は、すぐには気が付かないだろう。自分の立場の公共性を意識していれば、広く一般に報せるために従来のマスコミを通じて「発表」するはずだろうに、と思った。
 「ヒデのエージェントのサニーサイドアップは、どう言っているの?」と問い返したら「いま、コメントをとろうと努力中です」ということだった。新聞社の社会部も、あわてふためいているらしい。
  「限界を悟ったのだと思うけど、エージェントとトラブルがあったかどうか、確かめたほうがいいよ」と答えにならないことを言って電話を切った。「まだまだ、やれるのに惜しい」と紋切り型で答えたほうが賢かったのかもしれない。
 実は前年の12月に「ワールドカップが終わったら引退する」と決心し、エージェントは、その当時、それをマスコミに伝えていたらしい。知らなかった。
 
◆ドイツ、敗れてさわやか!
 フランクフルト中央駅発午後3時26分の列車でドルトムントへ。約3時間。準決勝は2日間に分けて行われるので、もう一方の試合のテレビ放映を気にしないで列車に乗れる。
 ドイツ対イタリアの準決勝は、今回の大会ナンバーワンのいい試合だった。翌日のもう一つの準決勝も、9日の決勝も、おそらく、これ以上の試合にはならないだろう。
 好試合になった原因はドイツの敢闘精神である。Team Geist (チームの精神)は、この大会のスローガンの一つだが、ドイ代表チームはこの精神を体現していた。
 技術的にはドイツがよかったは言えない。
 パスの乱れもあったし、シュートも枠をはずしたのが多かった。しかし、前半は激しい守りと運動量でボールを支配し、後半イタリアが主導権を握りはじめてからも、チーム一丸となっての激しい守りで譲らなかった。
 おそらくドイツは、これより一つ前の準々決勝に照準を定めて、コンディションを整えてきただろう。その準々決勝でアルゼンチンを、延長、PK戦で退けてエネルギーを使い果たしているはずだが、この準決勝では、気力の限りを尽くして最後のエネルギーを搾り出した。
 延長戦になり、0対0のままPK戦になれば、ドイツ有利だっただろうが、延長後半の終了直前にイタリアにゴールを奪われた。気力が最後に技術に屈した試合だった。
  
◆巧みなイタリアの試合運び
 イタリアは引いて守り、ドイツの中心のバラックを比較的、自由にさせていた。ドイツはフリングスが出場停止、代わって出場したケールが、よく動いてパスを出した。
 バラックは前半は引き気味だった。イタリアの守りを引き出す狙いだったのかもしれない。しかしイタリアは、その手には乗らず、ゾーンの守りの網で、ドイツの攻めを絡めとって、ほとんど攻めの形を作らせなかった。前半はドイツがボールを支配している場面が多かったが、チャンスは逆襲速攻のイタリアのほうが多かった。
 後半はイタリアも攻めに出るようになり、ドイツはバラックにボールを集めはじめた。バラックのパスから、いい形もできたが、前半と同じように詰めがあらかった。
 イタリアは延長に入ってから勝負に出た。シュートがポストに当り、バーにはね返された。ドイツは幸運だという感じだった。
 延長後半の終了1分前に、イタリアはコーナーキックからチャンスをつかみ、ピルロの巧みなドリブルとスルーパスを受けて、グロッソが決勝点をあげた。このゴールは、この大会の「ベスト・ゴール」だろう。終了直前のデル・ピエロの2点目は、ドイツが総反撃に出たあとの裏側をついたものである。
 イタリアのチームの守り、試合運びの駆け引き、そして個人のテクニックと戦術能力が、最後にものをいった。

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