7月4日(火)
準決勝(ドルトムント)
イタリア 2−0 ドイツ (延長)
◆中田英寿の引退報道
前日に東京の読売新聞社会部から電話があった。「ヒデ引退の感想を」という。ドイツにいるぼくには初耳だった。記者会見をして発表したのではない。自分のホームページで公表したのだという。そういうのも「発表」というのだろうか?
新聞のような従来のマスコミなら、一通り目を通せば、そのニュースに気が付く。個人のホームページは、特にヒデに興味を持っている人でなければ検索しないので、多くの人は、すぐには気が付かないだろう。自分の立場の公共性を意識していれば、広く一般に報せるために従来のマスコミを通じて「発表」するはずだろうに、と思った。
「ヒデのエージェントのサニーサイドアップは、どう言っているの?」と問い返したら「いま、コメントをとろうと努力中です」ということだった。新聞社の社会部も、あわてふためいているらしい。
「限界を悟ったのだと思うけど、エージェントとトラブルがあったかどうか、確かめたほうがいいよ」と答えにならないことを言って電話を切った。「まだまだ、やれるのに惜しい」と紋切り型で答えたほうが賢かったのかもしれない。
実は前年の12月に「ワールドカップが終わったら引退する」と決心し、エージェントは、その当時、それをマスコミに伝えていたらしい。知らなかった。
◆ドイツ、敗れてさわやか!
フランクフルト中央駅発午後3時26分の列車でドルトムントへ。約3時間。準決勝は2日間に分けて行われるので、もう一方の試合のテレビ放映を気にしないで列車に乗れる。
ドイツ対イタリアの準決勝は、今回の大会ナンバーワンのいい試合だった。翌日のもう一つの準決勝も、9日の決勝も、おそらく、これ以上の試合にはならないだろう。
好試合になった原因はドイツの敢闘精神である。Team Geist (チームの精神)は、この大会のスローガンの一つだが、ドイ代表チームはこの精神を体現していた。
技術的にはドイツがよかったは言えない。
パスの乱れもあったし、シュートも枠をはずしたのが多かった。しかし、前半は激しい守りと運動量でボールを支配し、後半イタリアが主導権を握りはじめてからも、チーム一丸となっての激しい守りで譲らなかった。
おそらくドイツは、これより一つ前の準々決勝に照準を定めて、コンディションを整えてきただろう。その準々決勝でアルゼンチンを、延長、PK戦で退けてエネルギーを使い果たしているはずだが、この準決勝では、気力の限りを尽くして最後のエネルギーを搾り出した。
延長戦になり、0対0のままPK戦になれば、ドイツ有利だっただろうが、延長後半の終了直前にイタリアにゴールを奪われた。気力が最後に技術に屈した試合だった。
◆巧みなイタリアの試合運び
イタリアは引いて守り、ドイツの中心のバラックを比較的、自由にさせていた。ドイツはフリングスが出場停止、代わって出場したケールが、よく動いてパスを出した。
バラックは前半は引き気味だった。イタリアの守りを引き出す狙いだったのかもしれない。しかしイタリアは、その手には乗らず、ゾーンの守りの網で、ドイツの攻めを絡めとって、ほとんど攻めの形を作らせなかった。前半はドイツがボールを支配している場面が多かったが、チャンスは逆襲速攻のイタリアのほうが多かった。
後半はイタリアも攻めに出るようになり、ドイツはバラックにボールを集めはじめた。バラックのパスから、いい形もできたが、前半と同じように詰めがあらかった。
イタリアは延長に入ってから勝負に出た。シュートがポストに当り、バーにはね返された。ドイツは幸運だという感じだった。
延長後半の終了1分前に、イタリアはコーナーキックからチャンスをつかみ、ピルロの巧みなドリブルとスルーパスを受けて、グロッソが決勝点をあげた。このゴールは、この大会の「ベスト・ゴール」だろう。終了直前のデル・ピエロの2点目は、ドイツが総反撃に出たあとの裏側をついたものである。
イタリアのチームの守り、試合運びの駆け引き、そして個人のテクニックと戦術能力が、最後にものをいった。
|