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ドイツW杯観戦日誌・目次
 
マルタとの強化試合に意義はあった(6/5)
開幕は静かに迫っている(6/6)
入場券は本当にないのか?(6/7)
ストライカーの決め手は判断力(6/8)
ワールドカップ開幕(6/9)
日本の敗因を考える(6/12)
フランスは復活するか(6/13)
「東欧の速攻」は滅びたのか?(6/14)
監督の用兵が勝負を決める(6/15)
米国が見せた9人での戦い方(6/17)
「決定力不足」を考える(6/18)
ドイツのサッカーの底力(6/20)
日本の敗退を考える(6/22)
ドイツは燃え上がる (6/24)
イングランドの放り込み(6/25)
カメラマンの戦い (6/26)
アフリカのサッカーを考える (6/27)
準決勝・ドルトムント (7/4)
準決勝・ミュンヘン (7/5)
決勝・ベルリン (7/9)
 

※このコンテンツは、ドイツ・ワールドカップ期間中に、同名のブログに掲載していた記事に加筆、転載したものです。

 

 


 牛木素吉郎のドイツ・ワールドカップ観戦日誌
 1970年メキシコ大会から10大会連続現地取材をしている
 スポーツジャーナリスト・牛木素吉郎のリポートです。(協力:ビバ!サッカー研究会)

6月25日(日)
イングランドの放り込み

イングランド 1対0 エクアドル (シュツットガルト)

★「放り込み」は難しい
 日本のサッカーファンには「イングランドびいき」が多い。シュツットガルトでは、イングランドを応援に来ている日本人が目に付いた。話を聞くと、おおかたはイングランドが優勝できると信じている。他の国の試合を見たうえでの比較ではなく「イングランドのサッカーはいい」と信じこんでいるようである。
 グループ・リーグでのイングランドの戦い方は、結局のところ「放り込み」だった。ゴール前へ高いクロスを上げて、ヘディングをねらう。イングランド伝統の戦法である。
 ワールドカップ・クラスの試合では、単純な「放り込み」では、なかなか得点は生まれない。うまくいって90分間に1点だ。長年の取材経験から、ぼくは、そう信じている。守るほうも、たいていはセンターバックに長身選手がいる。ゴール前の競り合いなら迎え撃つほうが有利である。そのうえに手を伸ばせるゴールキーパーがいる。「放り込み」が成功する確率は低いはずである。それでも、「放り込み」はゴール前でスリリングは場面を作り出すから喜ぶ人が多いのではないかと思う。
 イングランドはグループ・リーグの3試合を「放り込み」で勝ち取った。3試合ともベッカムのおかげだった。
 スウェーデン人のエリクソン監督を迎えて「イングランドのサッカーは変わった」といわれているが、いざとなると伝統の「放り込み」は変わらないのではないか。
 
★苦肉のワントップ 
 イングランドは、南米3番手のエクアドルを相手に、1トップを試みた。オーエンは第3戦のスウェーデン戦でケガをして、すでに帰国している。第2戦のトリニダード・トバゴとの試合で得点した身長約2メートルのクラウチはベンチに置いて、トップはルーニーだけだった。エリクソン監督の狙いは「放り込み」に頼るのを防ごうという苦肉の策ではないかと憶測した。
 ルーニーが、後方からのパスにあわせて走り出る。そういう攻めも目立った。ルーニーが走り出るスピードは速い。しかしスピードが速いと正確さは落ちる。速さと正確さのバランスは難しいところだが、スピードに正確さがついていけないことも多かった。
 エクアドルは、引き気味の守りの網で、イングランドの速攻をからめとった。守りの態勢からの逆襲で、チャンスも何度もあった。中盤のメンデスから、いいパスが出た。イングランドは、激しい体当たりで防いだ。
 前半0対0で終わったあと、イングランドは長身のクラウチを出す準備をしていた。いざとなれば、多よりは「放り込み」である。
 そのときに、イングランドが1点をあげた。後半15分、左45度、約30メートルのフリーキックである。ベッカムのキックは、みごとなカーブを描いて、左ポストぎりぎりに入った。
 エリクソン監督は、準備させていたクラウチの交代出場を取りやめた。

★ベッカムにやられただけ
 エクアドルは、南米予選3位で出場権を得た。しかし、ワールドカップの実績から見れば、ほかにウルグアイやペルーがいて実力的に南米3番手とは必ずしもいえない。個人のテクニックや戦術能力はブラジル、アルゼンチンより一段、落ちる。それでも南米独特の足技を生かしたサッカーでいい試合をした。コロンビア人のフェルナンド・スアレス監督のチーム作りも成功しているようだった。フリーキックからベッカムの芸術的なキックで決勝点を奪われたが「イングランドに負けたんじゃない。ベッカムにやられただけ」と言いたいところだろう。
 イングランドのエリクソン監督は、前日の記者会見で「エクアドル戦の敵は暑さだ」と言い、英国の新聞はそれを引用して「ふつうに戦えば問題になる相手ではない」と、失礼なことを書いていた。しかし、普段着のサッカーをしたのはエクアドルのほうで、イングランドはリードしてから「遅延行為」で2人が警告を受けるなど、あまり立派な戦いぶりた言えなかった。
 暑さのほうは、気温31度と表示されていたが、フィールドは全面、屋根の日陰にはいっており、比較的しのぎやすかった。それでもベッカムは後半終了近くに交代して退くときぐっしょり汗をかいているようだった。体調が万全でないのかもしれない。 

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