|
牛木素吉郎のドイツ・ワールドカップ観戦日誌
1970年メキシコ大会から10大会連続現地取材をしている
スポーツジャーナリスト・牛木素吉郎のリポートです。(協力:ビバ!サッカー研究会)
|
6月24日(土)
ドイツは燃え上がる
ドイツ 2対0 スウェーデン (ミュンヘン)
★ドイツ全土で気合い
前日の23日に、フランクフルト市内のスポーツクラブ見学に行った。案内をしてくれたクラブのトレーナーが「いつ日本に帰るのか」と聞くので「ドイツが優勝するのを見届けてから」と、お世辞のつもりで答えたら「明日からドイツ中が燃え上がるぞ」と張り切っていた。
翌日、ミュンヘンでドイツはスウェーデンと対戦。ラウンド16(決勝トーナメント)の1回戦である。
ドイツは本当に燃え上がっていた。
試合の前のメンバー発表で、選手の名前がアナウンスされるたびに、スタジアムの大半を埋めたドイツのサポーターが、こぶしを振り上げて、いっしょに名前を叫ぶ。おそらく、全国400ヵ所に設けられたというパブリック・ビューイングの会場で、同じようにサポーターが気合いを入れたに違いない。
選手たちも気合いが入っていた。
ドイツのサッカーの最大の特徴は、チームの団結である。チームとしての結束が強くなり「勝つ意思」が強固になっていくようすが、見た目にもわかる。「ゲルマン魂」というような言葉を安易には使いたくない。しかし、ドイツが過去のワールドカップで好成績を残してきたのは、実力を最大限に発揮するための精神的な強さがあったことは確かである。
その「チームの精神的結束」が、戻ってきている。
★多彩なスピード攻撃
試合は前半14分までにドイツが2点を先行して、簡単に勝負がついた。得点はともに、前線2人のコンビによる速攻で、どちらもクローゼがお膳立てし、ポドルスキが決めた。スウェーデンは34分にディフェンダーのルチッチが、2枚目のイエローカードで退場になり、後半7分のPKをラーションがはずして、勝機はなかった。
ドイツは、試合を重ねるごとに、よくなっている。今回のチームの特徴は、得意のスピード攻撃の組み立てが多彩なことである。この日は前線の2人のコンビによるすばやい攻めがゴールを生んだ。この2人はドリブルによる攻めもいい。
中盤はバラックだけが頼りのように見えていたが、この日は、フリンクスの労働量の多さがバラックをフリーにし、またシュナイダーからもいいパスが出た。
両サイドの中盤とディフェンダーのコンビによる攻め上がりも武器である。グループ・リーグのときは、右サイドのフリードリッヒとシュナイダーのコンビが目立ったが、この日は左のラームとシュバインシュタイガーのコンビからの攻めもあった。
このような多彩な攻撃のスピードと正確さのバランスに磨きがかかってきている。
はやばやと2点取りながら、追加点がなかったが、これは不安材料ではない。早い段階で点を取りすぎたチームは優勝できない。それが、これまでのワールドカップの例である。
★クリンスマン監督への評価
ドイツが勝ち進むにつれて、クリンスマン監督への評価は、うなぎ登りである。
大会前には批判が多かったということだが、開幕試合に勝ってからは、地元のマスコミの姿勢が、がらりと変わった。
批判が多かったのは、この2年ほど、主要な国際試合で勝てなったためである。しかし、クリンスマンにとっては、ワールドカップで勝つことが目的で、その前の強化試合の勝敗は問題ではなかっただろう。ワールドカップ開催国として予選がなかったのだから、この2年間は、勝負よりも強化が大切だった。
批判の材料になったのは、米国のカリフォルニアに移り住んでいて、監督を引き受けたあとも住居を移さなかったことである。「米国に住んでいては、選手とのコミュニケーションがとれない」ということだった。
また米国の体力トレーニングやメンタル・トレーニングのやり方を取り入れていることについて「ドイツの方法が世界的に高く評価されているのに、米国のまねをすることはない」といったたぐいの批判もあったという。
スポーツ・トレーニングの理論と実際について、ドイツにはすぐれた伝統がある。しかし、だからといって、他のやり方を取り入れるのが、よくないとはいえない。
クリンスマンが、実際にどういうやり方をして、それがどういう結果をもたらしたかについては、大会後に検討しなければならない課題だろう。 |
|
|
|