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サッカーマガジン 1991年2月号

最終回 日本プロ・サッカーリーグのビジョンと問題点

パートナー作戦で発車した
「JR古河」のねらいと構想     (2/2)

浦和
サッカーの町へ、市民レベルで誘致運動を展開

 「浦和にプロサッカーを…」という運動が、現在市民レベルで進行中である。 
 運動を起こしているのは、その名も「浦和にプロサッカー球団をつくろう会」で、現在92年のプロ・リーグ参加表明をしているあるチームに浦和をフランチャイズにすることを折衝中、併せて2002年のワールドカップ開催地をめざして、サッカー専用スタジアムの建設陳情を署名運動によって展開している。 
 「浦和にプロ・サッカー球団をつくろう会」発足のいきさつは、浦和市立高サッカー部OBで浦和のサッカーの低迷を危惧する吉田浩氏(同会事務局長)と街づくりを手がけている武正公一氏(同会前会長)が、サッカーを通じて浦和の街を活性化しようという意見でまとまったことに始まった。
 そして、ことしの4月21日には岡野俊一郎氏を招いて「サッカーを通じて街づくりを考える」というフォーラムを開催、新聞等にも取り上げられ、かなりの反響があり、日本リーグ側からの問い合わせも受けたという。
 その後、このフォーラムにパネリストとして参加した、浦和青年会議所理事長の山口斉氏(現会長)を中心とした青年会議所のメンバーが運動に加わり、9月3日に正式に発足した。 
 プロ・チームの招へいは、一時新聞に「本田技研が埼玉に」と報じられたが、後にこの話は流れたため、またチーム側からの要請もあって、現在折衡中のチームを明らかにはしないが、そのチームが浦和をフランチャイズとして、92年のプロ・リーグに参加する可能性は「かなり高い」(吉田事務局長)と言う。 
 その場合、当面は駒場競技場を使用し、専用サッカー場の建設が決まれば、将来的には使用したい意向だ。 
 浦和というところは、最近でこそ優秀な人材が市外、県外へ流れてしまうこともあり、やや低迷気味だが、かつては「サッカーの町」として全国に知られていただけに、浦和を中心とした埼玉県に、潜在的なサッカーファンは多く、先に駒場で行われた大宮東高と武南高の埼玉高校選手権の試合などでも、ほとんど宣伝活動もなく、有料試合であるにもかかわらず、スタンドはほぼ埋まったし、高校選手権では大宮サッカー場なども満員札止めになるほどだ。 
 また、プロ・チームの誘致、サッカー場建設とも地方自治体のバックアップが必要不可欠となるが、その最高責任者ともいうべき埼玉県知事の畑和氏は、サッカーに理解のあることで知られ、どちらの件にも積極的な姿勢を示している。 
 もし、浦和をフランチャイズとしたチームがプロ・リーグに参加できたら、これを頂点とした地域に根づいたクラブ組織を作る地盤が浦和にはありそうだ。少なくとも、日本国内では有数の地盤だということは言えるだろう。
(編集部)


プロ経営のため、独自の工夫を!
脱企業の趣旨には賛成、プロとアマの交流を大切にしてほしい

牛木素吉郎

★画期的なJR古河の新組織
 「高いハードルをこえることの出来るチームだけで、新しいプロ・サッカーリーグを作ろう」――こういう呼び掛けにこたえて、古い企業スポーツのぬるま湯につかっていたチームが、新しい工夫を打ち出してきた。これは明るい兆候である。この連載の第1回で紹介したプロ・リーグ準備委員会の川淵三郎委員長の狙いが成功しつつあるように見える。
 特に、古河電工とJR東日本による新しい組織作りは、まったく別の2つの企業が一つのクラブ作りに参画するわけで、これまでの日本のスポーツにない新しい実験だと思う。
 レポートが指摘しているように、JR側がチームを持つことの狙いとして「社員の一体感作り」を強調しているのは、プロ・リーグ化の狙いの「企業離れ」とは矛盾している。しかし新しい冒険に踏み出すにあたっては、社内のコンセンサスがいるから「社員のため」という大義名分も必要だったのだろう。 
 とはいえ独立した企業になる以上は、いつまでも親会社の事情に動かされるわけにはいかない。独自の創意工夫で、プロとして経営することが、これからの問題である。

★地域との結びつきは?
 「浦和にプロサッカー球団をつくろう会」の方は、レポートを読むかぎりでは、まだ行き先が見えないところがある。
 浦和に本拠地を置こうとしているチームとしては、三菱と日立の名前が上がっているが、現在のチームの力からみれば三菱が有力だろう。問題は、その企業が、どこまで本気で「浦和という地域と結びつこうとしているか」である。 
 「とりあえずホーム・グラウンドがないから浦和を本拠地にするが、東京のスタジアムが使えるときの試合は東京で」というのでは、地域のクラブとの結び付きは幻である。 
 浦和側は、地元の企業経営者の集まりである青年会議所のメンバーが加わって、地域のチームとして受け入れる熊勢を作ろうとしているように見えるが、企業の側が、それに応えられるかどうか。 
 プロ・スポーツは、同じファンに何度も本拠地のスタジアムに足を運ばせるのが経営の基本である。だから「ホームゲームは全部必ず見る」というファンを地元に育てなければならないが、その努力を企業側がするかどうかが今後の問題点である。

★プロとアマを結ぶ
 最後に「本当のこと」を、もう一つ付け加えておこう。 
 実は「プロ・サッカーリーグを新たに作る」という考えは、世界のスポーツの流れに逆行している。プロとアマチュアの垣根をなくし、専門家と大衆の結びつきを強化しようというのが新しい潮流だからである。しかも、この考え方は、もともと世界のサッカーの理念である。 
 にもかかわらず、ぼくは日本プロ・サッカーリーグの計画に総論として賛成である。というのは、日本のスポーツの進歩を妨げている企業アマチュアリズムを、この計画を起爆剤にして粉砕しようという川淵委員長たちの志を壮とするからである。 
 しかし、旧体制の粉砕を急ぐあまり、プロとアマの垣根を高くしてはならない。新リーグに参加できなかったチームが、今後、とり残されないように、そして、プロとアマの交流が出来るように、各論はしっかりと考えてもらいたいと思う。

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