古河がJR東日本と共同でプロ・リーグ参加を表明、またプロ・リーグ入りをもくろむ各チームの構想も徐々にベールを脱ぎ始めている。最終回となる今回は、企業と地域の思惑を探り、牛木素吉郎氏に解説をお願いした。
JR東日本と古河が共同で行った記者発表の会場は、約80人の報道陣で鈴なり。民営化以降、アクティブな経営方針で話題を提供しているJR東日本が、プロ・スポーツへ進出することのニュース性の高さをうかがわせた。
今回の発表の内容は、JR東日本と古河が共同で新会社を設け、そこを母体としたプロ・チームを、92年に予定されるプロ・リーグに送りこもうというもの。「JR古河」の仮称で呼ばれる新会社は50パーセントずつの共同出資(資本金未定)で、プロ・リーグ参加が決まりしだい設立される。
古河側はこれで「チームの法人化」の条件をクリアするとともに、抜群のアピール度を持つパートナーを得たことで、「総合力には自信があり、参加には楽観」(福田浩平・古河電工総務部長)するに至ったというが、一方JR側の狙いはどうなのだろうか。
奥寺氏のアドバイスがきっかけ
記者発表に出席した住田正二JR東日本社長は参加の狙いを次の3項目にまとめている。
@社員の一体感を深める
A会社のイメージアップ
B地域密着型の経営方針にマッチ
もともと、JR東日本の狙いは、プロ野球界進出だったといわれる。かつて山下勇会長が川島広守セ・リーグ会長に「球団数が増えるときはお願いしたい」と個人的に申し入れしたことがあったという。2年前の組合大会で住田社長が球団を持ちたい、という趣旨の発言をしたこともあり、新聞紙上をにぎわせたが、実現には至っていない。
しかし、そもそもプロ野球進出に限らず、スポーツチームを持つことが、社員の一体感を深め、企業のイメージアップを図るためには最適だと考えていたという。そこに、プロ・リーグ参加にあたって「理想のパートナー」をさがしていた古河が声をかけ、今回の新会社設立に結びついた。
サッカーであれば、ゲームの開催やスクール設立などで地域への貢献が可能で、それはBの狙いを満たすことになる。また青少年レベルへの企業イメージ拡大には、野球を超える普及度を持つサッカーがベストという考えもあった。
きっかけは1年前。民営化にあたって山下会長が各界有識者を集めてもうけたアドバイザリー・グループの1人に元古河の奥寺康彦氏がおり、会合の席上プロ・チームを持っては、と持ちかけた。
もともと山下会長は日本サッカー後援会会長を務めるなど、サッカー好きで有名で、ことしの8月以降、話が具体化し、数回のミーティングを経て合意に達したという。
動員力に期待する古河側の思惑
今回の合意で、JR側が企業イメージのアップに主眼を置いているのに対し、古河側は、「観客動員力」への期待を隠さない。福田総務部長がいう。
「古河オンリーでは資金はともかく、観客動員力に懸念があり、有力なパートナーとの提携を考えていた。JRに一番期待するのは、動員力です」
JR東日本の社員は、約8万人。そのほか東日本グループ各社(約50社)を含めれば、10万人は下らない。住田社長は古河の期待を受けて、今夏の都市対抗野球に約3万人を動員した実績に触れた。
しかし、このときの入場料は「全額会社負担」(JR東日本広報課)。プロ・リーグの試合にチケットを買って入場するとなると、話は社員の数だけの問題ではなくなってくる。
有料試合が大原則のプロ・スポーツで、会社が入場料を負担することは、趣旨に背くことになる。社員は、入場料を払ってまで応援にかけつけるだろうか。
「もちろん、社員にも入場料を払ってもらいます。ただし、プロとして定着するまでの初期段階では、会社が何割か負担することは考えられると思います」(JR東日本広報課)
いうまでもなく、プロ・スポーツの主たる財源の一つは、入場料収入である。その原則を前にしたとき、社員8万人のマンモス企業と手を組み、動員力アップを図ろうとする古河の行き方は、プロ・リーグ繁栄への近道なのか、逆戻りなのか。新会社設立の折には運営スタッフの一員に加わることになる古河の清雲栄純サッカー部副部長はこう話す。
「最初から面白いサッカーをして、それだけでたくさんの人が見に来てくれれば、それは理想です。しかし、現実は甘くない。当初は、JRさんの力を借りてやるのがベストだと思う」
本拠地は秋津、浦安に新事務所
新会社のスタッフは22人〜23人の予定。場所は古河サッカー部のある浦安近辺のJR保有の土地か、駅ビル内が考えられている。「現場のスタッフは古河から15人ほど、その他のスタッフとしてJRから7人〜8人になる予定」で、現場サイドは古河がイニシアチブをとる。しかし、広報、宣伝活動に関しては、現在約100億円ともいわれる年間広告予算を操り、多岐にわたってパブリシティを展開するJR側が豊富なノウハウでリードしていく形になる。
なお、初年度の資金は参加条件にある供出金を含め10億円程度になるという。
フランチャイズは習志野市営の秋津サッカー場で、すでに習志野市の了解をとりつけている。現在3千人収容のスタンドを1万5千人から2万人収容に広げる青写真もすでにでき上がっており、参加が決まりしだい着工の予定。その資金も市との共同出資で話が進んでいる。
秋津はJR京葉線の新習志野駅前で、2月の全線閧通によって東京から35分と便がよくなった。駅からも数分の距離にある。
京葉線は朝のラッシュ時こそ約200パーセントの乗車率になるが、一日平均で見ると、利用者数は少ない。収支も鉄建公団への多額のリース料が残り、黒字転換は先のことになるという。
その沿線にフランチャイズを持つことで、何らかのメリットが考えられるのだろうか?
「サッカーの試合の観客といっても本当に微々たるもので、しかも社員は無料パスですから、収益上のメリットはほとんど考えられません。直通列車を出すプランも将来的には出てくるかもしれませんが、現状の運行で十分対応できる数字です」(広報課)
ノンプロ選手の受け皿も用意
一方、チームの現場サイドでは、ドラスティックな展開に、期待は八分、不安二分、といったところだ。
チームの母体が新会社に移ると、当然のことながら、選手は新会社と年間の業務契約を結ぶプロ選手になる。もちろん監督、コーチも同様で、プロ契約を交わしてチームの指揮を執ることになる。
ただし、ノンプロ選手の受け皿も残す予定で、その場合はJRまたは古河と雇用契約を結び、新会社側へ出向扱いになる。JR東日本は17都道府県にネットワークがあり、たとえばA県出身の選手がJRの社員選手としてプレーし、引退後はA県のJRの支社に戻るというケースも考えられるという。
古河とJR東日本は、プロ・リーグ参加へ向け、一つのモデルケースとして大きく前進したかに見える。
しかし“蜜月”へ踏み出した両者の思惑には、微妙だが大きなズレがある。JR側が、狙いとして社員の一体感を強調しているのに対し、古河はそこから脱け出そうとしている。
「将来、やはりJRとか古河という名称を外して、地域性の強いチームにしていかなければならないと思います。それがプロ・リーグの本当の狙いでしょうから…」(清雲副部長)
その点で、両者に思い違いがなければいいのだが…。
(編集部)
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