天皇杯で国立を満員に!
協会が腰を上げたのはいいが自分の足元を忘れている……
「天皇杯の決勝戦で元日の国立競技場を満員にしよう」
毎年、毎年、ぼくはサッカー・マガジンに天皇杯の総評を書くたびに、こう繰り返し呼び掛けていた。
「日本サッカー協会が、そのための専任のプロジェクト・チームを組んで、1年がかりで準備してはどうか」
と書いたこともある。
しかし、毎年、毎年、ぼくの提案は無視されていた。
それが、ようやく――。
日本サッカー協会は、元日の天皇杯決勝で国立競技場を満員にするための委員会を作り、キャンペーンの実行に踏み切った。だから11月22日のその発表を、ぼくは大いに期待して聞きにいった。
ところが――。
いや、ぼくの失望を述べる前に読者の皆さんに、お願いしておこう。
「1991年の元旦に、東京の国立競技場に行こう。この日を、日本中のサッカー関係者、選手、OB、ファンの集まる日にしよう!」
元日に国立競技場に行けば、自分たちの仲間の日本一のプレーを見ることが出来る。高校の時のサッカー部の仲間にも会える。大学のころにグラウンドで激しく争ったライバル・チームのOBの顔を見ることが出来る。
サッカー仲間が全員集合して、自分たちの中から生まれるチャンピオンを見守り、祝福しよう。そして、今後の日本のサッカーをどうしたらいいかを、皆で考えよう。
「天皇杯の決勝戦に集まろう」という呼び掛けの中核は、ここにあるべきだと、ぼくは思う。
しかし、11月22日の発表の中身にそういう哲学はなかった。
協会の対策は何だったか。
まず、決勝戦用のポスターを新たに作った。歌舞伎の場面をデザインしたもので、お正月らしい雰囲気は出ている。
これを電車の中吊り広告に使ったり、テレホンカードにしたりして宣伝するんだという。
振り袖姿のお嬢さんたちが見に来ても着物が汚れないように、座布団をプレゼントするプランもあった。国立競技場の近くに明治神宮があって、初詣の人々のなかに着物姿が目立つので、そのお嬢さんたちを呼び込もうというアイデアである。
ほかにも、いくつかの案が発表されたが、いずれも、サッカーに関係のない人たちに足を運んでもらうためのムード作り、話題作りのアイデアだった。
そういうアイデアが悪いというつもりはない。新しいファンを開拓するのは結構である。
しかし、肝心なことを忘れちゃいませんか、とぼくは言いたい。
サッカー仲間大集合!
まず加盟チームの協力を求めなくてはキャンペーンは無理
12月に母校のサッカー部の納会があったので、久しぶりに行って、部長と監督に聞いてみた。
「サッカー協会が、元日の国立競技場を満員にするキャンペーンをやっているが、知ってるか」
「聞いてないね。なんにも」
どうも協会は、自分たちのもっとも近い仲間である東京の加盟チームにさえ知らせてもいないし、協力も求めていないらしい。
ぼくの考えでは、天皇杯の決勝戦を見にきてもらうために、真っ先に呼びかけなければならない相手は、協会に加盟登録しているチームの関係者、選手、OB、および、その周辺のファンでなくちゃいけない。もともとサッカーが好きな人たちに、来てもらわなくては、新しいファンを獲得するのは無理である。
ところで、かねがねサッカー・マガジン誌上で「元日の国立競技場を満員に」と呼びかけていたとき、サッカー仲間を集めるためのアイデアをいくつか考えていた。その一部を披露することにする。
まず9月1日に、元日の決勝戦の入場券を、加盟チームと日本サッカー後援会の会員だけに売り出す。秋のシーズンが始まる前に、サッカー仲間の協力を求めるためである。
どのチームが出場するか分からない試合の入場券を、4か月も前に買ってもらうのだから、何か特典を考えなければならないが、そのアイデアは別に考えてもらいたい。
元日に雨や雪が降らないとも限らない。過去の例を見ると、その確率はそんなに高くはないけれど「雨だったらいやだな」と思う人もいるだろう。
そこでメーン・スタンドの屋根のある部分は特別席にして、その半分をキャンペーンに協力してくれるチームあるいは日本サッカー後援会の会員に優先的に割り当てる。
この特別席の残り半分は、10月1日に一般向けにも売り出す。
サッカー界以外の方々にも協力してもらわなければならないからである。
つまり、9月1日はサッカー界内部のキャンペーンのスタート、10月1日を一般向けのキャンペーンのスタートにするわけである。
一般向けのキャンペーンのアイデアは、ここでは、ひとまず置くとして、サッカー仲間のためのキャンペーンのために、元日に国立競技場の付近に、体育館のような大きな会場を借りて「サッカー仲間の賀詞交歓会」をやるのはどうだろうか。
その会場の中に、××高校サッカー部、OOサッカークラブの受付けを作る。
「天皇杯決勝戦を見た後で(あるいは見る前に)受付けに集まろう」と呼びかければ、ここで顔合わせが出来るわけである。
ぼく個人としては、ここで「お屠蘇」と「おせち」が頂ければ有り難い。
例の友人が「そんな夢みたいな」とバカにするのは目に見えている。しかし、これは単なるアイデアの例である。
サッカーの好きなすべての人々が、自由にアイデアを出せるように、そして手間を惜しまず、それを実行できるようにしたいものだと思う。
トヨタカップの教訓!
マスコミ対策は、きめ細かい配慮が必要!天皇杯には…
今回のトヨタカップは、見事だった。ACミランは、これまでのトヨタカップで来日したチームの中で、もっとも充実した顔触れのレベルの高いチームだったと思う。
ぎっしりと埋まったスタンドの雰囲気も、すばらしかった。天皇杯の決勝戦も、こういう雰囲気の中でやってもらいたいものである。
だから、11年目を迎えたトヨタカップの成功の陰に、さまざまな地道な努力があったことを、天皇杯の関係者に知って欲しい。
12年前、欧州と南米のクラブ・チャンピオン同士の世界一決定戦を、トヨタカップの名前で日本で開催する発表をしたときのことである。
この計画を推進していたPR企業「電通」の友人が、発表の前日、ぼくの勤め先の新聞社に訪ねで来た。
この計画のアイデアに、ぼくが多少関係していたので、発表前に、ちょっと挨拶に来たということだった。
「他の新聞社と通信社の主要なサッカー記者にも、あらかじめ説明しておいた方がいいよ」と、ぼくはアドバイスした。
「これは事実上の世界選手権を初めて日本で開催するので、ただの親善試合とは違う大きな意味がある。知らない記者には、そこを理解してもらえないおそれがあるし、逆にサッカーを知っている記者には、本当にしてもらえない心配もある。だから一人一人、あらかじめ訪ねて説明して、協力をお願いしておいた方がいい」と、ぼくは主張した。
発表の前に、あらかじめ一部の人だけに説明しておくことには問題もあるが、ここでは、その点は置いておくこととして、とにかく、そのPR大企業の担当者は、手分けして、その日のうちに他の新聞社も回って事前の説明をしてくれた。
それが、うまくいったことは、発表の翌日の各新聞の記事の内容と、扱いの大きさを見てくれれば、分かる。
これは、ほんの一つの例である。
マスコミへの配慮と信頼関係が、どんなに微妙で重要かを、ちょっと知ってもらいたいと思って一例をあげたわけである。
今回の天皇杯のキャンペーンも、実はサッカー協会が電通に頼んで、やってもらっているのだが、電通が頼りで、協会自身にしっかりした方針ときめの細かい配慮と実行力がないのが見え見えである。
PR会社に依頼するのがいけないというのではない。餅は餅屋だからポスター作りなどは、専門家に任せるのがいい。
しかし、天皇杯の運営は、サッカー協会自身が、汗を流してやらなければならない、協会の重要な事である。
たとえば、サッカーの専門雑誌の編集長を招いてアイデアを求めると同時に、協力を依頼するくらいのことは、サッカー協会自身が汗を流してやるべきではないか。
しかし、そういう努力はしていないらしい。
協会は天皇杯のキャンペーンに2000万円の予算を組んだという。その2000万円がむだ使いでなかったかどうか、元日に国立競技場で、しっかり見極めることにしたい。
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