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サッカーマガジン 1991年1月号

連載3 日本プロ・サッカーリーグのビジョンと問題点
「7つの条件」クリアへ
参加希望チームの現状と展望     (2/3)

マツダ
企業の世界戦略と地域振興が合致
会社と行政の全面協力で着々準備中

 「だいたい、7項目の参加資格をクリア出来るメドがついたといっていいでしょう」――今西監督の表情は日ごとに明るさを増してきている。 
 昨年、日本協会がプロ・リーグ構想を打ち出すと、マツダは素早く反応し、名乗りを上げた。強い日本サッカーの再建に貢献するのはもちろん、野球に続く広島のシンボルスポーツを作る。さらにマツダのイメージアップのためと、中四国地域の振興と還元が目的である。 
 今西監督の言葉を借りるまでもなく、準備は着々と順調に進んでいる。9月には社内に広報、総務などから人材を集め、8人からなる「プロチーム設立プロジェクト」をスタートさせた。会社のバックアップを得るための素案など資料づくりと、フランチャイズ制確立のための県、広島市への協力働きかけが主な任務となる。ことしいっぱいには、会社の全面的了解と、行政サイドのOKを取りつけ、来年から設立に向けて拍車をかけたい意向を持っている。 
 行政の了解は、最大の課題ともいえるスタジアムの優先使用のクリアにつながる。既存の県営競技場のほか、アジア大会主会場として建設中の広島広域公園競技場(仮称)を使う計画である。ナイター設備を完備し、収容能力1万5千人の条件を両スタジアムは十分に満たしている。 
 法人化に関しては、マツダを主スポンサーに資本金2億円程度の株式会社組織が考えられている。当然、行政や地域の協力を仰ぐのはもちろんで、現在のクラブを中心にスタッフ、フロントを派遣する予定だ。  

スター選手招致でファンにアピール
 参加条件の一つ、ファームづくりも、すでに体制づくりが始まっている。現クラブメンバー35人のうち、プロは12人を数え、18人は問題ない。ファームも残りでまかなえるし、2、3、4種チームを抱える準備は万全だ。10月から小学生のスクールを開設し、来年は中学生、再来年は高校生にまで層を広げ、それぞれの選抜チームを作っていく。 
 しかし、なんといっても欠かせないのが、チーム強化。まず4シーズンぶりの1部カムバックを果たすことが最低条件。「とにかく成功のカギは、観客にアピールするゲームが出来ること」という今西監督。現在のチーム力を土台に、個人技と組織力を巧みにミックスした独自のチームづくりの青写真を描いている。 
 その中でも、ファンヘのアピールには、スタープレーヤーの存在を忘れることが出来ない。構想の一つに、ワールドカップ出場選手クラスの大物の補強がある。ネームバリューと同時に、チーム内への好影響と、一石二鳥の効果を狙っている。 
 「これまでは選手よりもコーチの外人招へいを重視してきたが、今後は方向転換して、指導者のほか、選手の導入も図っていきたい」と今西監督は強化方針を口にする。 
 それは、とりもなおさず、マツダの世界に向けた企業戦略にも貢献したいためである。まず1部復帰、そして国内制覇、終局的には海外でも通用するチームの養成という遠大な青写真である。 

総合スポーツクラブ構想をサッカー一本に 
 マツダサッカークラブには、元来、大きな夢があった。サッカーだけに限らず、陸上やラグビーなどいろいろな競技を包括した「スポーツクラブ」構想だ。ヨーロッパ各国が採用しているクラブ組織の誕生というわけだ。 
 しかし、プロ・リーグ構想を打ち出した時点でとりあえず、サッカー一本に絞ったクラブ育成に切り替えた。スポーツクラブ案は縮小したように見えるが、まず土台をサッカーに求めたといっていい。だから、今回のプロ化に当たっての体制、チームづくりには、これまでの路線を踏襲していけばいいという“好環境”が育っていたといえる。言い替えれば、すんなりと軌道修正できる。 
 ともかく、当面はサッカークラブに全力投入の構えだ。その第一弾(もちろん代表チームの強化は当然だが)が青少年育成などを絡めた地域への協力、還元、振興である。 
 確かに首都圏などと違って地方には指導者、トレーナー不足などのハンディがある。だが、そのハンディをむしろメリットに変えようというプランも考えの中にある。 
 「指導者の育成、養成はもちろんだが、トレーナーの育成も手がけていきたい。例えば、けがをした場合、いかに早く治して、また頑張るかということをドクターと協力して地域の人に手助けをしたい。身体面も含めて、本当に正しい指導が出来るように、ウチとしての組織を強化したい」――今西プランは、プロ・リーグ誕生へ向けて地域性、フランチャイズ制度に大きな比重を置いている。 
 それは、プロ・リーグの収支決算面への支えでもある。面白い試合、スリリングなゲームでのファン動員のほかに、地域を重視した巡回指導である。チームに対する親しさが増せば、グラウンドに足を運ぶこともふえるはずだ。いわば「親近感」を植え付ける役目も果たそうというわけである。 

運営スタッフは15人から20人で 
 また、青少年のモデルになる試合を心掛けることも、肝に命じて取り組んでいる。汚いプレー、審判にクレームをつけない試合などマナーを大切に、とは現在のチームに対しても口うるさく言っている。当然、外人選手も同様である。フェアプレーで、青少年ヘサッカーの魅力を浸透させる狙いでもある。 
 幸い、94年アジア大会、96年国体開催というスポーツイメージ・アップの好環境もある。「このチャンスを生かさない手はない」と夢は大きく広がっている。 
 「恐らく15人〜20人のスタッフ」(今西監督)での運営になるはずだ。マツダは女子ゴルフ、世界の名選手を抱えた陸上にスポンサーになっている。しかし、チームぐるみは、今度のプロ・サッカーが最初である。「スポーツセンター都市広島」の位置付けを確実にしたい、という切なる希望が基本にある。 
 カクテル光線に浮かび上がる中での激しい戦い、1万5千人の観客が狂喜乱舞。地域の期待を一身に背負ってのプロチーム・マツダのプロジェクトはいま、希望の船出に熱気と興奮をおぼえずにはいられない戦いをすでに始めている。
(中国新聞・早川文司)

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