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サッカーマガジン 1991年1月号

連載3 日本プロ・サッカーリーグのビジョンと問題点
「7つの条件」クリアへ
参加希望チームの現状と展望     (3/3)

「2つのポイント」の意義と難しさ
 日本プロ・サッカーリーグの設立には、2つの大きな狙いがある。一つは「企業内スポーツ」から脱皮することで、もう一つは「地域に根を降ろしたクラブ」へ変貌することである。マツダと全日空のレポートを読んで関係者の努力に感心すると同時に、まだまだ道は険しいだろうとも思った。2つのポイントを、もう一度考えてみたい。(牛木素吉郎)

企業内スポーツからの脱皮
★社員チームの殼を棄てる!

 「企業内スポーツからの脱皮」には、具体的には2つの意味がある。 
 第一は「社員のためのスポーツ」という殼を脱ぎ棄てることである。 
 日本の会社スポーツは、たいていは「社員の福利厚生のため」が建前だ。対外試合での活躍を望むのは、「社員の士気向上のため」である。
 だから、選手は社員でなければならないし、チームの運営費は会社の厚生予算の中から落とされる。
 いまプロ・リーグを推進している人たちは「この体制のままでは、強いチームは作れない」と考えた。
 読売クラブ、日産、全日空などは以前から、社内スポーツの建前を、かなぐり棄てている。選手は社員ではなく、大部分はクラブとの契約である。経費は、実質的にスポンサー企業の宣伝費である。最近の日本リーグでは、そういうチームが、上位を占めている。
 一方、古河や三菱のチーム関係者は、企業内スポーツの建前の中で、なんとかやり繰りしてきたが「これ以上は、ごまかしはきかない」と思いはじめた。そこで、プロ・リーグ設立を材料に、読売クや日産と同じような体制が作れるように、会社を説得しようと狙ったようである。
 プロ参加条件の7項目の中に「プロ登録の選手を18人以上含む」という項目があるのは、その狙いを示している。この条件を「社員チーム」から飛び出すための踏み切り板にしたわけである。

★独立の営業部門に
 「企業内スポーツからの脱皮」には、もう一つの意味がある。
 それは脱皮したチームが、今度は自前で営業していかなければならないことである。厚生費を「使う」立ち場ではなく、営業部門として「稼ぐ」立場にならなければならない。
 飛び立った蝶は、自分で蜜を探さなければならないわけである。
 プロ参加の7条件の中に「プロのクラブは独立の法人組織にする」という項目がある。「親会社を離れて別の会社に」という意味である。
 この条件に応じて、各チームは、それぞれ「全日空スポーツ」のような別会社設立を準備しはじめた。
 三菱は、これまでは機械メーカーの三菱重工が運営の中心だったが、「プロ・スポーツは、重厚長大型の企業のイメージに、似付かわしくない」と、選手も運営関係者も全部、三菱自動車に移してしまった。今後は「消費者産業」である自動車の会社を株主にして、スポーツのための新会仕を作るらしい。
 古河電工も、ケーブルなどを製造している重厚長大型の会社である。ここは、消費者に結びついた別の企業と合弁でサッカーのための別会社を作る話が進んでいる。「JR東日本」と組むという噂である。
 こういう新会社も、大きな収入源は、企業の宣伝費に求めなければならないだろう。しかし、それには、サッカーが親会社の出す宣伝費に見合うだけの宣伝効果を生まなければならない。これまでのように、大企業のぬるま湯につかっているわけにはいかないはずである。

地域に根を降ろしたクラブ
★フランチャイズ制

 「地域に根ざしたクラブ」の集まりにする狙いについては、マツダと全日空のレポートは対照的だ。
 マツダは、もともと広島に根を降ろしたチームである。地元との結びつきは以前から強い。自動車会社のチームではあったが、クラブ組織への衣替えも、ずっと前から手がけている。地域性の点は優等生である。
 全日空は、すでにプロのための会社を発足させている。「脱企業内スポーツ」の先駆者の一つである。しかし、本拠地横浜への思い入れは深くない。航空会社だから、宣伝のためにも各地へ飛んでいって試合をしたい思惑がある。
 しかし、ホームゲームを本拠地で行うのは、プロ・スポーツの地域性の基本だろう。半分をよそへ持って出ようというのでは「地域に根を降ろすこと」は覚束ない。
 試合を他の都市に持って出ることには、別の問題もある。
 それは、その都市にある別のチームの地域権(フランチャイズ)を侵害することである。
 プロ・リーグ加盟の他のチームがフランチャイズを持つ地方には進出しないにしても、そこにはプロに未加盟の他のチームがあるはずである。
 「プロは別の組織だ」というのなら、それでもいい。しかし日本プロ・リーグと日本サッカー協会に加盟している他のチームとの関係を、どう位置付るかという、組織の基本的な考え方にかかわってくる。

★地域との結びつきの強調を!
 プロ参加の7条件の中には、地域性を作り出す狙いの項目がある。その中で首都圏のチームにとっては、競技場の確保が難問である。
 読売クラブは、プロ野球の巨人と同じように東京を希望しているが、必ず確保できるスタジアムはない。とりあえずは、これまでも優先的に使っていた川崎の等々力競技場を抑えることになりそうである。
 古河は千葉、三菱は埼玉に、競技場を求めて出るといわれている。日産と全白空は横浜である。
 東京に競技場がなくて、千葉や埼玉に出たチームが、本当にその県に根を降ろすチームになるつもりかどうか、これは重要な問題点だろう。
 地方の場合は、競技場の確保は、それほど難しくはない。
 静岡県には、日本リーグ1部のヤマハと本田があるが、ヤマハが静岡を本拠にプロ加盟するらしい。
 愛知県にはトヨタがいる。最初はプロ加盟を希望しなかったが、協会のある関係者が「名古屋にチームがなくては」と手を挙げてもらうように働きかけたといわれている。
 関西には松下とヤンマー、日本リーグ2部の京都紫光も手を挙げている。広島はマツダである。
 とりあえずは10チームくらいを、予定を早めて1990年中に決める予定だが、顔触れは今の日本リーグの1部と、そう変わらないことになりそうだ。そうなると内容的に新しい点を、しっかり強調する必要がある。
 フランチャイズ制確立とともに、地域との結びつきをどう訴えるかがポイントだろうと思う。

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