日本サッカー協会のプロ・リーグ準備検討本部は、年内にも参加チームの絞りこみを終え、最終的な決定をする予定だ。参加希望チームが募られて以来、川淵三郎・準備委員長の言う「高いハードル」である「7つの参加条件」をクリアするべく、各チームは試行錯誤を繰り返していると言う。参加チーム決定まで時間もなくなってきた今日、その準備はどの程度まで進んでいるのか? 今回は、東西の2チームの現状をレポートしてもらい、それを読んで、問題点を洗い出してみたい。
全日空
チーム法人化の条件はすでにクリア
足を生かした準フランチャイズ構想
92年のプロ・リーグ発足に参加の意志を示したのは20チーム。プロ準備検討委員会では、当初8チームによるスタートを考えていたようだが、ここにきて、8ないし10チームとチーム数も増えそうな気配を見せている。
プロ準備検討委員会も種々の状況を考慮し、チームの絞り込みに苦慮しているようだが、参加に手を挙げたチームも、協会の出した7項目の参加条件のクリアに頭を痛めているのが現状である。
とくに、参加条件の第1にある「チームの法人化」については、どのような形態をとったらいいのか、時間の余裕がないだけに、各チーム共通の問題点となっているようだ。
そんな中で、いち早くプロ化への基盤を作ってきた全日空だけは、余裕の表情を見せている。プロ野球球団の経営図式を模した「全日空スポーツ株式会社」を作り、先を見越したプロ化への準備を進めてきた成果が、ここにきて表れてきた。
「全日空スポーツ株式会社」は、@社員(ANAグループ百数社)の士気高揚、A企業イメージアップ(宣伝)、B企業利益の社会還元、を目的とし、資本金5千万円で、昭和59年12月に設立された。3つの設立目的はともかく、活動のメーンとなるのは、サッカー・クラブにあることは言うまでもない。では、全日空スポーツが、どのような役割を担うのかを説明しよう。
ご存知のとおり、全日空は「全日空サッカー・クラブ」を所有している、「オーナー」である。その「オーナー」から「サッカー・クラブ」の運営を委託されているのが「全日空スポーツ」で、その存在はクラブ運営会社としてあるわけで、運営管理を業務としている。
協会が出した「チームの法人化」は、全日空の場合、「全日空スポーツ株式会社」により、その条件を満たしている。というより、もうすでに活動がなされているのだ。
全日空スポーツの雁瀬耕一・業務部長は、59年12月の会社設立当時、「プロ化がこんなに早くなるとは思わなかった」と語るが、“備えあれば憂いなし”の見本がここにあった。
全日空スポーツの活動としてはこのほかにも、ANAグループが扱うスポーツ・プロジェクトヘの参画がある。スキーの「スカイホリデー」や、沖縄でのマリン・スポーツをはじめANAの路線がある海外(グアム、オーストラリア)リゾートでのスポーツ・プランなど、業務は多岐にわたっている。
このように。プロ化に対する会社の整備がなされていることで、「オーナー」のプロ化への認識もとられており、参加条件の2つ目、1億4千万円の分担金に関しても、「社内の了承は取り付けてある」(雁瀬氏)と、万事、抜かりのない状況にある。
メーンは横浜、準本拠を地方に
7つの条件の中にある「フランチャイズ」の項目で、全日空に関しては、いろいろな憶測が乱れ飛んだ。全日空が航空会社であることから、他のチームが「フランチャイズ」として置く可能性が少ない、九州(北海道説もあった)をあてがわれるのではないかという、うわさが、まことしやかに流された。
しかし、フランチャイズに関しても、全日空はしっかりとした考えをもって行動した。
前出の雁瀬氏は、「メーンは横浜に決定しています。すでに横浜市とも話をし、三ツ沢球技場を使うことで決まりました。三ツ沢を使うチームはほかに日産がありますが、一都市に2つのチームがあってもいいと思います。諸外国のプロでも、たとえばミラノのようなケース(ACミランとインター・ミラノはミラノが本拠地)は多々ありますからね」と、語る。
それに加えて、全日空ならではの“足”を生かした策もある。「メーンとは別に、準フランチャイズという考えで、北海道、東北、北陸、九州での興業を考えています。東北、北陸の都市はまだ未定ですが、北海道は札幌、九州は福岡、長崎、熊本、鹿児島で、各地の関係者にも了解を得ています。横浜と準フランチャイズの各都市で行う“ホーム”ゲームは、半々くらいと見ています」(雁瀬氏)。
フランチャイズとする横浜市ではいま和泉地区に総合スポーツ施設を建設する予定があり、将来、全日空もここに作られるスタジアムを使用する可能性も十分にあるという。
ただ、準フランチャイズとされた地域(協会)との利益分与に関しては、今後、検討していかなければならない。現在の日本リーグでは、譲渡ゲームという形で一つの規定があるが、いまの形態をそのまま移行するかは、プロ・リーグ全体の問題になってくる。
下部組織などの体制は万全だが…
参加条件の5番目にある、ファーム・チーム以下、2種、3種、4種チームの保持も、全日空には大きな問題ではない。全日空スポーツ株式会社設立後に、横浜サッカー・クラブと契約し、「全日空横浜サッカー・クラブ」として、これを下部組織に組み入れているからだ。
現在、同クラブにはユース(2種)以下のチームがあり、あとはファーム・チームを作るだけとなっている。
「今後、プロ・システムの中では下部組織は重要になってきます。横浜クラブとは、従来どおりの関係をさらに充実させていきたい」(雁瀬氏)考えだ。
だが、これだけ環境面で整った全日空でも、プロとしての経営となると、明るい見通しは立っていないという。「収入源としていま考えられるのは入場料収入とテレビ放映権料しかありませんが、92年からの5カ年計画を立てても、黒字は難しそうです」(雁瀬氏)と、悲観的だ。
プロ・リーグとはいっても、この点になると全日空に限らず、企業への依存度は当分、続くことは間違いない。
それでも、全日空に関して言えば、企業イメージとサッカーが十分に合致し、将来へのビジョンも開けていると見ていいだろう。
「1部に戻ってまだ3シーズン目です。これからさらに強いチームを作らなければなりません。そのために多額の企業投資もしています。社の方針である国際化に、ワールド・ワイドなスポーツであるサッカーはマッチしていますので、世界レベルの強いチームを作り、海外へ出ていきたい」と、雁瀬氏も情熱を込めて語っている。
指導者も含めたプロ化を、この機にさらに推し進める全日空は、プロ・リーグの優良企業と言えるかもしれない。(編集部)
プロ・リーグ参加条件
@チームの法人化
この組織に参加する団体は、法人格を持つものとする。
A分担金の供出
予定額は1億4000万円(初年度のみ、以後は協議のうえ決定)
Bフランチャイズ
リーグ戦、リーグ・カップ戦の80パーセント以上を行うフランチャイズ地域(都道府県・市町村)をもつこと。
Cスタジアム施設
リーグ戦、リーグ・カップ戦の日程に合わせ、自由に使える15000人以上収容可能で夜間照明のあるスタジアムを確保すること。
Dチーム組織
参加団体、トップチーム−ファームチーム、2種、3種、4種のチームを保持しなければならない。
E選手、指導者のライセンス
(1)トップチームは、原則として18名以上のライセンス・プレーヤーを、保持しなければならない。
(2)プロ・リーグ所属チームの監督及びコーチは、(財)日本サッカー協会の認可するA級コーチ・ライセンスを有する者とする。
(3)ファーム・チームの監督は、(財)日本サッカー協会の認可するB級コーチ・ライセンスを有する者とする。
(4)2種、3種、4種チームの監督は、(財)日本サッカー協会の認可するC級コーチ・ライセンスを有する者とする。
F参加希望チームは、(財)日本サッカー協会の指示、決定に従わなければならない。
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