アーカイブス・ヘッダー
     

サッカーマガジン 1990年12月号

連載2 日本プロ・サッカーリーグのビジョンと問題点
プロ・リーグ準備の5つのポイント     (2/2)

ポイントC
選手保有権をどう考えるか 

 「いまの日本リーグ・チームがそのままプロになるということではなくて、さらに強化されたものでなければプロとはいえない」 
 川淵三郎・委員長は前号のインタビューでこう話したあと、次のように続けている。 
 「移籍などの方法で積極的に強化してもらわなければ…」 
 積極的に強化して欲しいというのは、いい考えである。しかし、注意しなければならない点もある。 
 第一に、強化するのはプロ・リーグに加盟する前でなければならない。強いからプロになれるので、プロになってから強くするというのでは順序が逆である。 
 第二に「移籍などの方法」という場合に、選手の「保有権」についての考え方や規則が明確かどうかである。 
 ここのところは「プロになれば、他のアマチュアのチームから、選手を勝手に引き抜きできる」と誤解される恐れがある。プロ・リーグに加盟したチームが、引き抜きで、強化を図るようでは、スポーツの秩序か破壊して元も子もなくしてしまう。 
 だいぶ前のことだが、かつてバレーボールで、新しくチームを作ったサントリーが、日本鋼管(NKK)のエースだった大古選手を引き抜いたことがある。そのとき、アマチュア団体の日本バレーボール協会には、ちゃんと選手保有権についての規則があって、大古選手は1年間、サントリーから選手登録を認められなかった。それだけでなく、バレーボール協会は、規則を改正して、その後は登録禁止の期間を2年に延長した。 
 大古選手は、日本鋼管を退社してサントリーに入社したのだが、勤務先とスポーツ界での選手登録は別だという考え方である。スポーツの秩序を守るために、スポーツには、スポーツの規則が必要なのである。 
 日本のサッカーでは、この点の考え方も規則もあいまいなままだが、将来のために、ここで明確にしておく必要がある。
 この問題は、非常に複雑なので、簡単には説明できないが、ここでは特に重要なポイントをあげておこう。
 @選手を最初に登録しているチームの権利を保護しなければならない。元のチームの合意がなしに勝手に選手を引き抜いて移籍登録することは認められない。 
 Aトラブルが生じたときは(アマチュアの選手でも)一定期間、登録停止にする。
 Bプロの選手の保有権は、契約によって決める。 
 C選手と契約ができるのはでプロ・リーグ加盟のチームに限らない。
 これは、スポーツの規則であって、必ずしも法律の問題ではない。法律との関わりは、外国でも非常に微妙な問題になっている。

ポイントD
テレビの放映権をどこがもつか

 川淵委員長は「テレビの放映権はリーグが握って、各チームに配分したい」といっていた。これは、日本のプロ・サッカーの今後を決める大きな問題点である。 
 いま、プロ・スポーツの収入源は大まかにいって4つある。 
 @入場料収入
 Aテレビ放映権料 
 B広告・スポンサー料
 C商品化権(チームのロゴやマーク)
 このうち、金額としてはテレビの放映権料が、もっとも大きい。とくに米国では非常に巨額でテレビ抜きのプロ・スポーツは考えられなくなっている。 
 4つの収入源は、原則としては、それぞれのチームに属さなければならない。収入がなければ、プロは成り立たないからである。 
 したがって、日本プロ・サッカー・リーグでも、本来は各チームが、本拠地試合の放映権を持つべきものである。 
 その放映権を、リーグ自体が持とうと考えたのは、一つには米国の大リーグ野球やフットポール(NFL)の例が、頭にあるからだろう。米国では、テレビ放映権の一部(必ずしも全部ではない)をリーグのコミッショナーが持ってテレビ会社と契約し、その巨額の放映権料を各球団に配分している。 
 しかし、米国のプロ・スポーツでも、もともとは、放映権は各球団のものである。それをコミッショナーが、非常に苦労をして各球団から提供してもらい、非常な努力と工夫をして、テレビ会社に売り込んで、巨額な契約をかちとったという歴史がある。 
 テレビ契約をオーナーたちから任されているのだから、コミッショナーは、その権利金の配分を各球団に保証しなければならない。 その他に、選手会にも年金などの基金を配分する必要がある。十分な配分ができなければコミッショナー解任である。 
 日本プロ・サッカー・リーグも、リーグが放映権をとるのなら、責任者が、確実にテレビの契約をかちとり、各チームに何億円ずつ配分できるのかを保証する必要がある。 
 しかし、リーグはまだ結成されてなく、運営の責任者も決まっていない。だから放映権料について先走った交渉や約束をすることはできないはずである。今の段階では、放映権は、各チームのものであることを、まず確認する必要がある。 
 現状では、日本のサッカーを喜んで、テレビ放映してくれる局は、ほとんどない。放映権料も多額には取れそうにもない。 
 そこのところは、まず、各チームが権利を持ち。それぞれ営業努力をして、テレビ放映権を売る努力をすべきではないだろうか。 
 プロは、各球団の営業努力の競争で繁栄するものである。

もうひとつのポイント
リーグの自主的な決定、運営を

 日本プロ・サッカー・リーグは、もうジャンプ台を走り出している。助走の段階ではあるが、かなり加速度がついて、もう後戻りはきかないようだ。うまく踏み切れるか、失敗して転がり落ちるか、どちらかである。 
 具体的な問題点も多いだろうが、基本的な姿勢で、助走のうちに考え直してみる必要のあることも、いくつかある。 
 前回に触れたように、プロ・リーグの目的を「レベルアップ」だけだと考える視野の狭さも、その一つだが、もう一つ、プロ・リーグの構成チームがまだ決まらないうちに、運営の具体的な内容に、日本サッカー協会がはいり込み過ぎているのではないかと気になる。
 「リーグ」とは「連盟」の意味で、共通の目的を持った人たちが集まって、自分たちで決定し、運営するところに趣旨がある。 
 日本プロ・サッカー・リーグも、最終的には、リーグを構成するチームの代表者が相談して自主的に運営する方法を決めるのが筋である。構成団体が決まらないうちから、細かい問題にまではいり込みすぎない方がいい。 
 取り上げた5つのポイントについても、協会で扱う問題と新しいリーグが自主的に決める問題とを、分けて考える必要がある。 
 選手の保有権は、日本サッカー全体の問題で、プロだけの問題ではない。これは、日本サッカー協会が、全登録チームに共通の規則を整備しなければならない。 
 テレビ放映権や広告の扱いは、構成チームが決まってから協議して決める問題で、今の段階で、具体的な方針を決めるのは間違っている。ましてや取り扱う広告企業(代理店)が、すでに暗黙のうちに決めてある――というようなことは、どんな経緯があるにしろ不明朗と思われても仕方がない。(牛木)

前ページへ


前の記事へ
アーカイブス目次へ
次の記事へ

コピーライツ