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サッカーマガジン 1990年11月号

連載1 日本プロ・サッカーリーグのビジョンと問題点
川淵三郎氏 ―日本サッカー協会プロ準備検討委員長― に聞く

プロ・リーグ設立の狙いと構想     (1/2)

 日本プロ・サッカー・リーグが、2年後の発足を目指して具体化しはじめた。すでに20チームが名乗りをあげ、日本サッカー協会の中に出来たプロ・リーグ準備検討本部が、各チームからヒアリングをはじめている。 
 しかし、何のために、どのようなプロ・リーグを作るのか、その青写真には、まだ明確でない点があり、多くの問題点も抱えている。
 この連載では「日本プロ・サッカー・リーグはいかにあるべきか」を、いろいろな角度から考えてみたいが、まずプロ・リーグヘの強力な推進力になっている川淵三郎氏(日本サッカー協会プロ準備検討委員長、日本サッカーリーグ総務主事)に、完全プロ化の狙いと構想を聞いてみた。 


来年3月に参加チームを決定


牛木 プロ・リーグの準備が、どのあたりまで進んでいるのか、まず現状から――。 

川淵 1992年秋からの発足を目指して、参加を希望するチームを募ったところ、20チームが手を挙げたわけです。そのチームが、プロ・リーグに参加できるだけの条件を充たしているかどうか、日本サッカー協会のプロ・リーグ対策本部で、各チームから状況を聞いて調査しているところです。 

牛木 プロ・リーグ設立は、財団法人日本サッカー協会がやるんですか?

川淵 そうです。私が日本サッカー・リーグの総務主事なものだから、誤解されやすいんですが、いまプロ・リーグの準備をしているのは、協会の内部に新しく作ったプロ対策本部で、長沼健・副会長が本部長です。その下にプロ・リーグ検討委員会があって、私はその委員長になっているわけです。だから日本リーグの総務主事ではあるが、プロ・リーグの方は、協会の方の肩書きで、いわば2枚看板です。 

牛木 日本リーグをプロ化しようというのなら、日本リーグの総務主事の仕事でしょうが、日本リーグとは別にプロ・リーグを作るのであれば、日本リーグの総務主事が、日本リーグを弱体化するような役目を引き受けているのは矛盾する。そのへんは、どうなんでしょうか? 

川淵 2枚看板がおかしいということは、あるでしょうね。しかし、これは、もともとは日本リーグの活性化ということから始まったのでね。日本リーグを20年以上も続けているが、観客動員にしても、レベル向上にしても思うように伸びない。この体制のままで、いつまでも続けても同じことじゃないか、というので、前の森健兒・総務主事のときに、第1次活性化委員会を作って検討して、プロ化への方向を打ち出した。そのあと私が総務主事になり、第2次活性化委員会でプロ・リーグ結成に踏み切った。ある程度、方向が固まった段階で、これは協会の仕事だからと、持っていったわけです。

牛木 もともとは日本リーグの再編成の狙いから始まっている。いまでも川淵総務主事が中心で、いちばんの推進力だと考えていいんでしょうね。現在、日本リーグにはいっていないチーム、たとえば静岡のPJMフューチャーズなんかも加える考えですか?

川淵 参加の希望は、日本リーグだけじゃなくて、全国的に聞いたんです。手を挙げている中には。まだ地域リーグより下にいるチームもある。マラドーナを呼んで強くしようと意欲的なところがある。そういうチームは、将来の見通しがあり、条件が整っていれば、いま下の方であっても、入れようという考え方もありますね。それくらいドラスティックな考え方をしないと……。 

牛木 来年3月までにチームを決めて、再来年にはスタートという予定ですね。いくつのチームで、どういう形のプロ・リーグにするのか、具体的なビジョンは? 

川淵 観客動員のことを考えると寒い時期を避けたいので、そうなれば93年春からになります。チーム数は、現在の考えでは8ですが、検討の過程で増減はあり得ます。基本的には少ないチームに、いい選手を集中した方がレベルアップに役立つという考えです。そして入れ替え戦はしない……。 

牛木 下の方は閉じている……。そうすると、プロ・リーグに入れてもらえなかったチームはどうなるのか?

川淵 いや、基本的には下の方ともつないだ組織にしたい。いい選手が多くて、レベルが高いというふうになれば、チーム数を増やしていくことになる。上からは落とさないで、少しずつ増やしていく。その場合にも、プロ・リーグでやっていける条件を充たしているかどうかを検討して、承認してから入れることになるでしょう。10年後に18チームに出来れば理想的です。 

牛木 最初8チームにしぼるのが難しい?

川淵 いま、参加するといって手を挙げているチームにも、いろいろあるわけですよ。完全プロ化を目指して不退転の決意で手を挙げているところと、バスに乗り遅れないために、とりあえず手を挙げたところとある。とりあえず手を挙げたところが、力がないかというと、そうではなくて、出された条件を慎重に検討して、真剣に考えているから、まだ決断が出来ないところもある。そういう内情をよく調べて最後には決断しないと……。
 
牛木 プロ・リーグ参加の条件として7項目が出てますね。1億4千万円を負担しろとか、1万5千人以上収容の競技場を確保しろとか…。

川淵 条件をやさしくして、じょじょにプロ化することも考えたんですが、実際には、なかなか進まない。思い切って、ハードルを高くして、高いハードルを一気に越えることで、プロ化を成功させようとしているんです。 

牛木 いきなりハードルが高くなったために、日本リーグの有力チームでも、手を挙げられなかったところがあると聞いています。東芝やNKKも手を挙げていない。2002年のワールドカップ誘致を目指して挙国一致体制を作らなければならないときに、財界の有力なところを切り捨てていいのか、という問題もあるし、強いチームを除外してプロといえるかという問題もある。 

川淵 どのチームが手を挙げているかについては、一切発表していないし、この件についてはコメントできません。ただ、読売クラブのように、はじめからプロ化を目指してスタートしているところもあるけれども、多くの会社は社内の厚生福利のためという名目でスポーツをやっている。しかし、そのままでは実態と合わなくなっているし、これ以上のレベルアップは望めない。そういう古いしがらみから脱皮できないところには参加してもらえなくても、止むを得ないと思います。
 


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