NHKはけしからん?
52試合を中継したのはいいが衛星では大衆は見られない!
1年半近く滞在したニューヨークを引きあげ、イタリアのワールドカップも終わったので「ビバ!サッカー」は装いを新たに2002年をめざして、明るく、楽しく、建設的なページにしよう――と張り切って帰国したのだが、ここへ来て気が変わった。
というのは、友人たちが「お前のワールドカップの記事は量も少ないし、内容もかったるい」と文句を言ったからである。
そこで編集長に懇願して、気の抜けたビールみたいだけれども、もう1回だけワールドカップについて書かせてもらうことにした。
さて、友人たちが口をそろえて訴えたことの第一は「NHKはけしからん」である。
ぼくは、たしなめた。
「NHKはイタリアのワールドカップの52試合を全部テレビ中継したそうじゃないか。それだけでも有り難いと思わなけりゃいけないんじゃないのか?」
「52試合全部やったのはいい」
友人たちも、その功は認めた。
「しかし、それは衛星チャンネルなんだよ。普通のテレビでは見られないんだよ。総合テレビでやったのは、4年前のメキシコ大会のときより少なかったじゃないか」
衛星放送を見るには特別のアンテナと機械を買う必要があるし、NHKに余分のお金を払わなければならないのだそうだ。
「NHKは衛星放送の契約を増やすために陰謀を企んだんだ。ひょっとしたら、アンテナのメーカーと結託していたのかもね」
聞くところによると、この問題は大会期間中に、すでに新聞などでも批判の的になったらしい。
ぼくはイタリアへ行って、毎日イタリア国営放送RAIの中継を楽しんでいたから、被害を受けたわけではないが、ここは将来のために一言しておいた方がいいと思った。
「52試合全部というわけにはいかないかもしれないけれど、毎日1試合ずつくらい、総合テレビと教育テレビでやるべきだね。甲子園をあれだけやってるんだからね。大会が盛り上がっていく様子が、国民の誰にでも分かるように中継するのは公共放送の義務だよ」
「それにアナウンサーも解説も、ひどいんだ。選手の名前もいわないし、ゲームを見ないで、自分勝手な雑談ばかりしてるんだ」
それは毎度のことで、十分に想像できる。
「そんなことを、ぼくに訴えてもしようがない。NHKに直接、文句を言えよ」
実は友人たちは、投書はしたらしい。NHKで働いている知り合いに直接文句を言った者もいた。
「解説者の人選には、サッカー協会の意向もあるとかなんとか、わけの分からないことをいってたな」
サッカー協会が、言論機関に干渉するようなことは、絶対にあり得ないと、ぼくは信じている。
ベスト11の選び方!
マラドーナを入れないなんて常識ある投票とは思えない!
「ベスト・イレブンにマラドーナを入れないのは、どうしたわけだ」
友人の1人が文句を言った。
各国記者の投票で選んだベスト・イレブンの中に、マラドーナが入っていなかった。それが「おかしい」というわけである。
ベスト・イレブンは、いろんな雑誌や新聞や通信社が勝手気ままに選ぶので別に権威があるわけではない。自分の好みにあった選手だけを並べたりする者もいるので、目くじらを立てることはない。
しかし、それにしても「マラドーナを入れないのは、おかしい」と、ぼくも思う。
ベスト・イレブンを選ぶには、いろいろな基準の立て方はある。
大会で活躍した選手を並べるのも一つの方法である。こういう基準だと、上位に進出したチームが中心になる。アルゼンチンは2位になったのだから、その主将であり、決勝進出の原動力だったマラドーナは、選ばれて当然だろう。
出場した選手の中で、技術と戦術能力を総合して、優秀選手を並べる方法もある。30年くらい前まではポジションが、かなりはっきりと固定していたから、ポジション別に最優秀選手を選んで並べることが出来たが、現代のサッカーでは、ゴールキーパー以外のポジションは流動的なので、いささか工夫がいる。しかしイタリアのワールドカップに出場した選手の中で、もっともすぐれた技術と戦術能力の持ち主は、疑いもなくマラドーナだった。だから、この基準でもマラドーナは、ベスト・イレブンに選ぶのが当然である。
実際に試合をすることを想定して11人を選ぶ場合もある。これは、チーム全体の構成を考えなければならないので難しい。しかし、この選び方は、ワールドカップのような大会のベスト・イレブンの趣旨からは、はずれているだろう。ワールドカップのベスト・イレブンは、顔触れを見ればある程度大会の様子が思い起せるようにした方がいい。
というようなことを考えて、ぼくなりのベスト・イレブンを選んでみた。自分の見た試合の選手が中心になるから、ある程度は独断と偏見によるのは仕方がない。
「大会の様子が思い浮かぶようにするというんなら……」
と友人が言った。
「あのカメルーンのミラはどうするんだ」
ミラは大会でもっとも話題になった選手だったが、試合の途中からしか出場しなかった。これを11人の中に入れるのは難しい。
しかし、ビバ!サッカーは自由自在である。
「よし、ビバ!サッカーのベスト・イレブンは、スーパー・サブを入れて12人にしよう」
選考結果は別表の通りである。
審判は目茶苦茶だ!
黄色いカードで権威を振り回すだけで基準は、ばらばら!
「審判が試合をつまらなくしていたな。何とか出来ないものかね」
友人がまともな意見を述べた。
決勝戦のとき、アルゼンチンは4人が出場停止だった。エース・ストライカーのカニーヒアも出られなかった。世界一を決める試合が、ハンデ付きでは面白くない。
「審判員の質が悪いよ。ゴールの判定を間違えたのが少なくとも3つはあったらしいよ」
「むやみに警告を出すのと、ほとんど出さないのと、人によってまちまちみたいだ」
「通算二つの警告で次の試合の出場停止は、厳しすぎるね」
いろいろ問題はあるけれど、今回のイタリア大会で、いちばん混乱のもとになったのは、FIFAが出した通達ではないだろうか。
(1)相手ゴールに向かって独走している選手を、シャツや腕を引っ張って止めたときは、即座に退場。
(2)フリーキックのとき、守りの壁を作る時間を稼ぐために、ボールの前に立って妨害したときは、即座に警告。
書いてあること自体に不思議はないのだが、主審は、この通達を守ろうと必要以上に緊張したようだ。
通達によれば、独走している相手のシャツを引っ張ったら即座に退場である。
ではシャツを引っ張るかわりに、足を引っ掛けたらどうだろうか。
わざとやったのであれば、シャツを引っ張るのと同じように悪質で、しかも、もっと危険だから、やはり重大な反則とみなして即座に退場にしなければ、バランスが取れない。
とはいえ、シャツを引っ張るのと違って、わざとやったのか、正しいタックルをしようとして足が引っ掛かったのか、見分けるのは難しい。
こういうような背景があって、抜かれそうなときに後から追い掛けてタックルしたときの反則は、むやみに黄色い紙が出た。
フリーキックのときに、守りの選手が10ヤードオフをぐずぐずしている場合についても、神経質だった。
けった瞬間に壁から飛び出そうとして、早すぎた場合に、厳しく警告した例もあった。ける方は、けるふりをして走り抜けるようなトリックを使うのだから、早すぎる飛び出しを、あまり律儀に警告するのは現実的でない。
というようなわけで、黄色いカードの氾濫になり、大会後半には、警告一つの選手がたくさんいた。
黄色カード二つで次の試合は出場停止だから、これ以上警告を出すとスター選手不在の大会になる恐れがある。
だから警告を出しにくくになった。したがって、審判の基準の統一性は無茶苦茶になった。
では、どうすればいいのか。
ぼくの考えでは、通算三つの警告で出場停止で十分である。
守りの壁から飛び出すのも、最初は注意するだけで、2度やったら警告でいい。
そして何よりも、FIFA自体があまりに律儀、むきにならない方がいい。 |