アーカイブス・ヘッダー
     

サッカーマガジン 1982年10月号

緊急提言
ワールドカップを日本でやろう!!    (1/2)

 たしかに“夢”のような話ではある。しかし、“夢物語”に終わらせたくはない。「ワールドカップを日本で…。」そのためには、現実に何が必要なのか、だれが、どのように活動し、準備しなくてはならないのか。そして肝心の日本協会はどう考えているのか――。近い将来の現実問題として考えてみた。<編集部>

ワールドカップ日本開催の青写真  ●牛木素吉郎

 貿易マサツだとか、教科書問題だとか、地球上、いたるところで、日本をめぐって、うるさいことが、いろいろ起きているようである。このさい、平和に繁栄し、世界中の人と仲よくしたいと思っているニッポンの姿を、世界中の大衆に知ってもらう方法はないものか。世界の大衆の共通の“言葉”だといわれるサッカーの世界選手権、ワールドカップを日本で開催するのはどうだろうか。テレビの宇宙中継を通じて、地球のすみずみまで、十億人以上の人たちに日本を知ってもらうチャンスになると思うんだが……。

ある日ひとりの友人が訪ねてきて突然こんなことを言いだした。「ワールドカップを日本でやろう。できるはずだ!!」
 友人が訪ねてきて言う。
 「ワールドカップを、日本でやろうよ」
 スペイン大会のNHKテレビ中継を見て、大いに感ずるところがあったらしい。友人は“愛国主義者”である。 
 「話によると、スペイン大会は、運営がめちゃくちゃだったらしいじゃないか。日本人なら、ずっと、うまくやって、すばらしい大会が開けるぞ」
 スペイン大会の運営は、たしかに、日本人の目から見れば常識はずれのところはあったが、なにからなにまで、めちゃくちゃだったとは思わない。それに、あまり整然と一糸乱れぬ大会をやられては、サッカーらしくない。とはいえ、日本人が総力をあげてやれば、もっとよい運営ができることは疑いない。
 「それに、あれだけの大会に、日本が出ていないなんて許せない。日本で開催すれば、日の丸をつけたチームがちゃんとテレビに映って大活躍するだろう」
 大活躍するかどうかは、ともかく、開催国で、予選免除で出られることは確かである。地元で出場する以上は、それ相当の活躍をするように、準備しなければならないが、どういう準備をすればいいかは別として、まだ時間はある。
 ただ日本は、欧州や南米に比べると、サッカーがそれほど盛んでない。だから専用のサッカー場もほとんどないし、大会収入も、そんなに期待できないんじゃないか……。
 「そんなことは絶対にない!」
 と、愛国者の友人。
 「テレビで見たら、スペインの競技場のフェンス広告は、3分の1が日本企業だったぞ。あれだけ、お金を出せるんだったら、日本でやるときには、もっと出せるはずだ。出さない企業には不買運動だ。お金ができれば、サッカー場だってできるし、お客さんも集められるんだ」
 友人の理屈は、だんだん怪しくなってきたが、ともあれ、そんなに熱心に主張するのなら――と、ワールドカップ開催の青写真を、2人で考えてみることにした。

4年に1度の大会で、しかも2回に1回はヨーロツパでやらねばならない。とすれば、いちばん近いのは1994年だ。
 まず問題は、いつ開催するかだ。
 「できれば10年以内にやってもらいたい」
 と友人が主張した。
 「それは、無理な注文だ。ワールドカップは4年に一度に決まっている。ことしスペインでやったから、次は1986年で、これはコロンビアに決まっている」
 「じゃ、その次は、8年後の1990年だ」
 「それも、むずかしい。これまでの大会は欧州と中南米が交代でやっている。欧州は国が多いから、まだ開催したことのない国がいくつもある。コロンビアの次は、どうしても欧州だろう。東欧でまだやったことがないのでユーゴスラビアかソ連が有力らしい」
 「なぬっ、アジアだって、まだやったことはないんだ。その欧州中心思想がけしからん。だけど、まあ、いいや。それじゃ1994年。これは絶対に譲れない線だな」
 1994年は、12年後である。ワールドカップ開催の準備のために、最短で12年は必要だと思う。したがって、1994年にはいますぐ立候補を決意しなければ間に合わない。 
 12年後ではとても準備できないという意見の人もいる。さらに先に延ばすとして、1998年は欧州の順番だから、次は2002年になる。
 「けっ、来世紀の話をしたらエンマ様が笑いころげて死んじゃうよ。そのころアジアでやるなら日本でなくて中国だよ。いますぐ立ち上がれば12年ありゃ充分だ」
 友人の強引な主張で“ムンディアル・ニッポン”は、1994年に決定した。
 よろしい。では1994年の何月にするか。
 これまでの大会は、だいたい6月だった。西ヨーロでの国内シーズンにひっかからないように、そうなっていたのだが、あいにく6月は、日本ではツユどきである。
 「これは6月でよろしい。他の時期を主張すると、日本開催に反対する国が出てくる。東京オリンピックは10月だったが、10月には台風の心配がある。サッカーには、台風よりも雨の方がまだいい。それに、むし暑いツユどきは、気候に慣れている日本代表チームに有利なはずだ」
 「でも、雨ばかりじゃ、お客さんは来ないぞ」
 「心配するな。切符は大会前に、みな売り切ってみせる。競技場のスタンドはみな屋根つきにするから、お客さんは、濡れる心配はない」
 友人は、もう大会会長になったつもりでいる。


アーカイブス目次へ
次の記事へ

コピーライツ