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サッカーマガジン 1982年10月号

緊急提言
ワールドカップを日本でやろう!!    (2/2)

競技場の本当の問題はカネでなく心。しかしグッドアイデア!開催都市は公募して、各都市に競わせよう。
 さて、問題は、その競技場だ。日本には、ワールドカップをやれるようなスタジアムは一つもないではないか。
 「それは違うね。いまや日本には、どこの県に行っても、いいスタジアムがある。ただ有効に使われてないだけだ」
 「それは、国民体育大会なんかのために作った陸上競技場のことだろ。サッカー向きにできてないし、もちろんスタンドに屋根はない。それにワールドカップ用には、観客収容能力も小さすぎる」 
 「サッカー向き、ワールドカップ向きでなけりゃ、改装すればいい。いま新しく日本でサッカー場を作るのは、とてもむずかしいと思うだろ?」
 「うん、なにしろ土地が高いからな」
 「新しく土地を買って、スタジアムを作るのは無理だ。だけど現在ある競技場を改装するんなら、土地を探す必要はない。それに、東京の国立競技場をはじめ、そろそろ設備が旧式になって、改装の時期にきているところもある。それに新しく屋根つきスタジアムを作るなんて計画が、東京にも、各地方都市にも、いくつも出てきてる。それも利用できるじゃないか」
 「でも収容能力がね」
 「これからのスタジアムは、ブラジルのマラカナン・サッカー場のような、20万人も収容するものは必要なくなってくる。テレビで見る人が何億人もいるんだから、2、3万人多くてもしょうがない。見やすく、使いやすく、テレビ中継にも便利なもので、中都市なら2万人収容程度でいい。大きなものは、東京と大阪に一つずつあれば充分だ」
 そういうことなら何とかなりそうだし、12年といわず、5、6年もあれば準備は充分に間に合うだろう。
 ただ、こういう競技場は、ほとんどが各県か市のものである。ワールドカップを日本で開催することの意義を、各県、各市の知事さんや議員さん、それに県民、市民の皆さんに充分理解してもらわなければならない。いかに正しいことであっても、人の心を動かすことは、なかなかむずかしい。
 日本でサッカーのワールドカップを開こうとするとき、乗り越えなければならない最大の障害は、物や金でなく、心の問題である。これは、欧州や南米の国には、ない問題である。
 「ところで、スタジアムの数は、どれくらい必要だろうか」
 「そうだな」と、心の中でちょっと数えてみる。スペイン大会と同じように、24チームをまず6グループに分けて1次リーグをやるとして、1次リーグの会場都市が最低6から多くて12まで。
 札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、神戸、広島、北九州、福岡……と、思いつくままに日本列島の都市名を思い浮かべた。
 「よし。それは公募しよう。名乗り出た都市の中から条件に合ったものを選ぶ」と大会会長心持ちの友人。
 各地の読者の皆さん。自分の住んでる町が“ムンディアル・ニッポン”に乗り遅れないよう、がんばって!

代表チームの強化―― これがいちばん頭の痛い問題だ。1チームの強化でなく、日本サッカーの構造の問題だから…。
 最後に、日本代表チームを、どう強化するかだ。
 「日本で開く以上、地元の日本代表チームには優勝してもらいたい」
 と友人は、持ち前の愛国心を発揮した。
 「もちろん、勝負の世界だから、絶対に勝つなんてことはいえないだろうが、少なくとも優勝の可能性のあるチームならベスト4にははいるだろう」
 友人は楽観主義者でもある。
 「主力が25歳くらいだとすると、12年後に25歳になるのは、いま中学1年生か2年生くらい。若い方だと小学生になったばかりだろう。こりゃ、未来は洋々たるものだ」
 確かに子供たちの12年後の可能性は、はかりしれないものがある。
 しかし――。
 「いま日本サッカー協会のやっているトレセン方式の中央集権的選手強化方式では、ワールドカップ・クラスへのレベルアップはできないと思うね」
 「なんだ、それ? トレセンだなんて聞いたこともない言葉だな。ワールドカップはプロですよ。日本のサッカーだって、ワールドカップをやる以上、プロですよ。オリンピック予選に勝つための協会の強化策なんて、くそくらえだ」
 友人の鼻息が、急に荒くなった。本当は、友人も、これがいちばん、むずかしい問題だと思っているのだろう。
 これは、単なる日本代表チーム強化の問題ではなく、日本のサッカーの構造を変える難問である。
 プロを頂点に、広く大衆に根を張ったサッカー界を作りあげる ――そういう大きな理想を達成するためにこそ、12年後のワールドカップ日本開催という、時限をきった目標を設定する必要が、あるのかもしれない。

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