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サッカーマガジン 1982年4月号

特別インタビュー/森孝慈・日本監督に82年の展望を聞く
シュートもパスもパワーアップ
アジア大会でメダルだ!!         (2/2)

やはり悩みはセンターフォワード 
牛木 ではポジション別に、問題点をきいてみようかな。まずゴールキーパーは? 

 田口は厚かましいのでいい。思い切りよくやるので、もっている。27歳だけどロサンゼルスまでは、やってもらわないと……。もう一人の坪田は感覚的にはいいけど。今回は筋力が落ちていたから使わなかった。本音をいえば、もう少し大きいゴールキーパーがほしい。
 
牛木 守備ラインはどうだろう。サイドバックは、ボカとの試合で、右は越田、西村、池内と試合ごとに違ったけど――。 

 あれは、最初から1試合ずつ使うつもりで予定どおりやった。決定的にいいのはいないから。越田は積極的にやっているときはいいが、ポジショニングが悪くて裏をとられてしまうようになるとマイナス面が出てくる。西村は守りのときの応対は一番安定しているが、攻めで多くは期待できない。池内は気が強くて体をはってすべれるのは魅力だけどパスの能力は足りない。それぞれ一長一短で………。 

牛木 左の都並も、攻めはよかったけれども、守りでは、マラドーナにいいようにやられていた。相手が相手だから、しようがないんだろうか。

 いまのところは、あれでいい。思いどおりにやらせたいと思ってます。経験を積むうちに攻守のバランスがわかってくる。中盤でポカをやってチームのリズムを狂わせるようでは困るが、攻めからかけ戻って守りにはいったときに、くるっとやられても、いまのところ、やかましくいう必要はないと思いますね。 

牛木 センターバックは? 

 加藤はいまや精神面でも、戦術面でも完全にバックラインのリーダーですね。ゾーン・ディフェンスをやって、ともかく、こなせているのは。彼の力ですよ。野村は加藤と息が合うので使っています。ゾーンで守っていて息が合わないと大変ですから……。

ゾーン・ディフェンス
牛木 そのゾーン・ディフェンスなんだけれども、日本のサッカーはずっと守りはマンツーマンしか知らなくて、国内のチームでゾーンをやったのは、ヤンマーが一時やったのと最近の読売クラブぐらいのものだ。それなのに日本代表チームで不慣れなゾーンの守りをやるのは、いろいろ批判もあるんじゃないかと思う。これはチーム作りの過程で、一時的にゾーンの守りの練習をさせているのか、それとも、ずうっと将来にわたってゾーンをやるのか、どっちのつもりなの? 

 いまは、ずうっとゾーンでやってきているわけですが、将来の問題ですね。最終ラインは、場合によっては、マンツーマンにする可能性はありますが、中盤から前は、そういうことはありません。中盤でもマンツーマンをやらせると、攻撃への意識が薄れてしまう。実際の試合では、マンツーマンをやっていても、ゾーン的に守らなければならない状況は出てくるのだから、要は状況に合ったいいことができればいい。ゾーンの守りに慣れることによって、どこが危いとか、どこへ味方を呼び戻そうとか、いうことを、みんながわかるようになってもらいたい。つまり、相手ボールになったときの判断力と協力ですよね。ゾーン・ディフェンスをやるようになってから、選手たちが、おたがいに、よく声をかけ合うようになった。これは収穫だと思います。 

牛木 鋼管の田中孝司を初めて日本代表に入れたのは? 中盤プレーヤーとして使ったわけだけれども、ほとんどバックラインにはいるくらい守備的になっていたが……。 

 これは攻めているときのバックヘの配慮でね。両フルバックには、思い切って攻めに出てもらう。逆襲への備えは、加藤と野村と田中の3人で考えようということになっていた。もともと田中を入れたのは、前田を前に出したいというニーズからです。田中の起用は期待どおりで成功だったと思います。
 
牛木 しかし前田は前ではあまり働かなかったように見えたけど……。 

 今回(ボカとの試合)は、たしかにフィニッシュは、もの足りなかった。1点とるのがお前の仕事だぞ、といっていたんですけどね。でも、もともとゴール前へ飛び込むのがうまく、ヘディングも強いんです。この次のシリーズでは、その良さを出してくれると思います。
 
牛木 金田はウイングに出たときは、足わざで抜いて、よくチャンスを作っていた。前田−金田のコンビは、なかなかいいとは思うんだけれども、今後、非常に大きく伸びるという感じは、ぼくは受けない。将来性に幅がないというか……。 

 外から行くのはいいんだが、まん中からの突破がほしいですね。 
牛木 点をとるほうには、課題がいろいろあるね。 

 右サイドで木村と金田のペアで、コンビを育てようと考えたけれど……。 

牛木 木村はボカとの第2戦で、フリーキックをカーブさせて見事な点をとったね。 

 あのときボカの守りの壁は5人だった。試合のあとで「おれがけるのに5人じゃ守れるはずがない」なんていってる(笑い)。そしたら第3戦ではボカは6人で壁を作っていた(笑い)。
 
牛木 フォワードは人材不足の感があるな。
 
 センターフォワードも、他にいいのがいないから尾崎を育てようということでね。もともと中盤的なプレーヤーなんだけれども。

牛木 柱谷はどうなの? 

 ガマ(ヤンマーの釜本監督)は柱谷を推薦してました。負けん気が強いし、ボールもったら強い。当たられても、もちこたえる。シュートがヘタなんで気にしてたんだけど、この間の練習で、不得意な方の左足で、すごいシュートを決めた。もともと、ゴールへの嗅(きゅう)覚はあるんです。いままで代表チームで5点ぐらいとってます。全部へディングだけど、せった裏へはいって、ヘディングを決めたりする。 

牛木 感覚はいいわけだ。
 
森 ドリブルが好きで、スピードもある。ただ、一人でやり過ぎるくせがあって……。試合中にボールにさわったとき、何かいいことやらなあ、という気になるんだと本人が言っている。それが良さでもあり、欠点でもある。あと、ひと皮むければ、期待できるんじゃないかと思ってます。

日韓戦、アジア大会は勝負だ 
牛木 さて最後に、これからの構想を聞いておきたい。目標は来年のロサンゼルス・オリンピック予選にあるわけだけど、その前にことしは、3月に日韓定期戦があり、6月のジャパン・カップのあとヨーロッパ遠征があり、11月にはニューデリーでアジア大会がある。これに、どう取り組むのか……。
 
 3月の日韓戦は、勝負にこだわりたいですね。選手もそうだと思います。敵地のソウルでの試合だけれども、ぜひ勝ちたい。
 
牛木 ボカ・ジュニアーズとの試合では、そうじゃなかったでしょう。神戸の第2戦では、前半リードしていたから、後半に守備策を考えたら勝てたかもしれなかったけど、そうはしなかった。 

 あのときは、横山に代えてバックを入れて、マラドーナをマークするという手もあった。だけどそうはしないで、ハーフタイムにも、後半も守りにはいかないと強調した。でも、いまになって、やっぱり守って勝っとくべきだったかな、という気持もしてるんですよ。マラドーナのボカに勝てば、選手はやれるぞ、と自信を持ったんじゃないか、とね。

牛木 勝ち方を覚えることも、これからの課題だからね。
 
 そうですよ。時間帯によって戦い方を変えるとか、試合の流れを変えるにはどうすればよいかとか、リードされているとき、ディフェンダーをあげて何を狙うかとか、そういうことは、いまはまだやっていないことです。
 
牛木 ヨーロッパ遠征では、スペインのワールドカップの後半戦を見ることになっているね。 

 これは、いいサッカーを見てイメージを広げてもらいたいという狙いです。スケールの大きいサッカーをやるための、視野の広さ、キック力や動きの大きさを見て、サッカー自体のイメージを大きくしてもらいたい。ボールをもてること、つなぐことも大事だが、逆ヘポーンと大きく展開して突破するプレーがないと、いい試合はできないことを、高いレベルの試合を見て感じてもらいたい。 

牛木 そして11月のアジア大会。これはもちろん、勝負になるだろうけれど、この間のボカとの試合のあとの記者会見で「アジア大会の目標はメダルだ」といっていたね。ふつう、ああいうときは「目標は金メダル」と大きなことをいうもんだけど(笑い)。
 
 正直にいったもので(笑い)。本当のところ、いまの力で金メダルはむずかしい。メダルというのは、アジアのベスト3にということですね。どういうチームが出てくるか、どういう組み合わせになるか、まだわからないから、具体的なことはいえないわけだけど、来年のオリンピック予選を勝ち抜くためには、ことしの末のアジア大会で3位になる力があれば、見通しが立つ。そういう意味です。 

牛木 どういう国がライバル? 

 韓国、中国、朝鮮(北)、それにイラクなど中近東の国でしょうね。ニューデリーのアジア大会では、地元のインドもがんばると思う。昨年のムルデカ大会では、日本が3−2で勝ったけど、中盤のボールコントロールのいいチームだった。若い選手の強化に力を入れているというから、うるさいでしょう。 

牛木 勝つための課題は?

 組み立てを大きく、いじるつもりはありません。ボカを相手にやったことを、相手が変わってもやれるんだという意識をもたせたい。課題は、シュートチャンスを作るための前の方のコンビネーションとフィニッシュ、ディフェンス面では、体をはって守ることです。
 
牛木 どうも、ありがとう。期待しています。
(おわり)

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