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サッカーマガジン 1982年4月号
ビバ!! サッカー!!

ボカの選手は三流か
ゼロックス・スーパーサッカーに関する間違った情報

 「ボカ・ジュニアーズは、マラドーナのほかは、大半二線級で、2軍か3軍なみと言っている人がいるけど本当なの? 本当に、そんなひどいチームなの?」
 少年たちに、こう聞かれたので、ぼくは逆に聞いてみた。
 「君たちは国立競技場に試合を見に行ったんだろ。自分の目で見て、どうだったんだ」
 「面白かった。マラドーナもすごかったけど。9番(ガレカ)や11番(ペロッティ)もうまいなあ」
 「そうだろ。君たちが見たのが正解だよ」
 試合が面白かったかどうか、いいプレーだったかどうかはもちろん見る人の好みによる。マグロのトロだって、見るだけで気持悪いという人がいるんだからね。
 だが、事実に反した情報が流れているのであれば、客観的事実は正しておきたい。嫌いな人はあってもトロはトロである。
 1月にゼロックス・スーパーサッカーのために来日したボカのメンバーが、マラドーナ以外は大半二線級だったというのは、まったく間違っている。事実は、大半が、アルゼンチンのプロのトップ、1部リーグのれっきとしたレギュラーである。最終戦の先発メンバーでいえば、右のバックのイツリエタ(21歳の若手である)以外は、本来のレギュラーだった。
 ボカのカプ監督は記者会見で「主力選手で連れてこなかったのは?」
 と質問されて「テサレとスアレスとブリンディシが来られなかった」と答えていた。
 しかし、この3人の中で、明らかに他のプレーヤーより格上と思われるのはブリンディシだけである。ブリンディシとマラドーナのコンビが見られなかったのは残念だったが、ブリンディシの代わりに、昨年のリーグ戦中はサルミエントに行っていたガレカが呼び戻されて加わっているので、戦力的に非常に見劣りしているということはない。
 もちろん、顔ぶれが良かったことと、いいプレーをしたかどうかは、別の問題である。
 いいプレーをしたかどうかは、見る人によって意見が違っても、どうしようもないが、ぼくの見たところでは、ボカは非常にいいプレーを見せてくれた。これまで国際親善サッカーで来日したチームの中でも、出色だったと思う。
 今度のボカの遠征は、マラドーナのプレーの良さを見せるところに眼目があった。
 強行日程の中で、マラドーナに協力しながら、他の選手たちも一生懸命にやっていた。マナーも良い方だった。
 マラドーナの個人技とセンスがきわ立っていたために、引き立て役の他の選手が二流に見えた人が、あるいは、いたのかもしれない。

自主運営とは何か
入場料収入などをホームチームがとるのがポイントだ

 「自主運営て、なんやねん。ヤンマーなんか、とうからやっとるで。やっとらんかったんは、東京のチームだけと違うか」
 大阪の友人が、こういって、いきまいた。
 「ごもっとも」
 と、ぼくは一応うなずいたが「だけど、それは、ちょっと違うんだ」
 と説明も試みたくなった。
 日本サッカーリーグが、今季から「自主運営」に踏み切ることになった。これは、リーグの一つ一つの試合を、それぞれホームチームが、自分たちの手で運営する、ということである。
 ただし、それだけのことなら、大阪の友人に「ヤンマーなんか、とうからやっとるで」と言われても当たり前である。大阪には、日本リーグ1部のチームはヤンマーしかないから、リーグ試合の運営は、ヤンマーが一手に引き受けている。広島のマツダでも、そうである。
 東京のチームだって、本当は同じなのだけれど、東京には日本サッカー協会と日本リーグの事務局があるから、事務局の人たちが試合のときに、なにくれと面倒を見てくれる。手伝いに来てくれる熱心な学生さんたちもいる。あれやこれやで、東京のチームが「自分のことを自分でしていない」ように見えたのも、事実だろう。
 だが、今季から日本リーグが踏み切る「自主運営」は、そういう点を改めようということばかりではない。
 場内整理をしたり、記録をつけたり、アナウンスをしたりするのも、もちろん「自主運営」のうちだけれども、もっとも重要な点は、入場料などの収入をホームチームが管理することである。
 入場料などの収入で、競技場の借り賃をはじめとする試合開催の経費をまかなう。リーグ全体の共通経費にあてるための分担金を支払う。遠征試合のための旅費や宿泊費を出す(旅費、宿泊費については、広島や大阪のチームと、遠征の少ない東京のチームとの間の不公平を埋め合わせする必要もある)。
 さしあたっては、これでは赤字を免れないだろうけれど、それぞれのチームが、入場料などの収入を増やす努力をすれば、その分だけ、そのチームの赤字は少なくなるわけだ。つまり、努力するものが報われるわけである。これが、いま問題になっている「自主運営」の、もっとも肝甚なところである。
 こんなことは、欧米のスポーツ界では、プロ、アマを問わず、常識なんだけれど、日本サッカーリーグの中でも、まだよく分かっていない人が多いらしい。そのために、自主運営の具体策については、まだ、ごたごたしているという話だ。


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