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サッカーマガジン 1977年10月10日号

全日本・二宮寛監督にインタビュー
初の欧州長期遠征合宿から帰って

「自分のチームで
    “代表選手”の力を示せ」    
 (2/2)   

再評価された奥寺の能力 
牛木 選手たちに対する評価はどうだっただろう。 

二宮 試合を通じての評判は、向こうの人たちの間では奥寺が圧倒的だ。それから金田も。小さい体でよくやるといわれた。 

牛木 田口の評判も外電できてたね。 

二宮 オランダ・リーグ1部上位の力をもつローダに勝った試合で、すばらしいセービングをやってね。あの試合は、『サッカー・マガジン』には、押されっ放しでいて勝ったと書いてあったらしいけど、そんなことはない。時間的にも、こっちが攻めている時間が長かったし、チャンスも多かった。こっちの完勝だと思っています。

牛木 なるほど。じゃあ、ここで訂正しておこう。 

二宮 バック陣では、清雲の激しさをフォクツがほめていた。藤島もケルンの合宿にはいってよくやっていた。永井はスペインの試合では、駿足を飛ばして走ると拍手かっさいだったけれども……。 

牛木 奥寺の評判がいいのは心強いね。釜本のあとを継ぐ日本のストライカーを、みんなが求めているところだからね。

二宮 奥寺はよかったですよ。遠征に行った選手が、みんな彼の力を見直した。もっともっと高いところに到達できる能力もまだもっているし、合格点です。奥寺くらいの能力のやつを、もう2、3人ほしい。トップは奥寺以外は、まだ、もうひとつで、永井あたりは能力があるんだから、精神的にもうひとつ、強くなってほしい。杉山がかなり、いい面を出してきたけれども。まだ波がある。若いんだから。失敗してもいいから、自分のやれることを、ぐーんとやれ、といってるんだけれども……。もっと、はつらつさを望みたい。

牛木 バックのほうは? 

二宮 前にもお話したが、後のほうはややメドが立ってきている。まあ、人数はそろってきた。これを今後どこまで引き上げるか、もっと激しさを出せるか、というところです。荒井、清雲、石井、斉藤、落合、今井……。それに早稲田の加藤も候補だ。それぞれが特徴を伸ばして、一人、一人でやれることのレベルか上がってきた。

牛木 中盤は?

二宮 藤島、金田、西野の3人を中心に組んでいく。それに、ある時間帯の中なら古前田がやれる。 

牛木 これで日本代表チームは一応解散して、これから6カ月は日本リーグと天皇杯で国内のスケジュールが続くわけだね。せっかく2カ月のヨーロッパキャンプで積みあげたものが、その間になくなってしまわなければいいけど……。 

二宮 今度の遠征が、チーム作りというかチームをまとめるためのものであれば、今後6カ月の間にバラバラになる心配もあるだろうけど、そうじゃなくて、今回は一人、一人の能力を高めることがねらいでしたからね。むしろ、もって帰ったものを。自分のチームの中で、国内の試合で出していくことができると思う。そういう気持で精進して、さらに能力を伸ばしてもらいたい。6カ月間、離れていることは、いっこうに問題でない。ぼくは、その間、各チームの練習と試合をじっくり見せてもらって、見守っていきたい。 

牛木 次の目標は来年12月のアジア大会かな。

二宮 夏にムルデカもありますね。来年も武者修業をして、その成果をタイトル・マッチでためしてみたいな。 

牛木 今年のような長期遠征を来年もやるつもりなの?

二宮 やりたいですね。こういうものは継続してやって成果を見るべきだと思う。ヨーロッパ長期キャンプといっても、そんなに経費はかかっていないんですよ、往復の飛行機賃以外は、向こうで試合をやって、滞在費に見合うくらいは、だいたい出してもらってるはずです。

中盤のゾーン守備が一般化 
牛木 ところで、せっかくの機会だから欧州サッカーの近況をレポートしてください。 

二宮 ええ。技術的、戦術的なことをいうと、サッカーはますます流動的になっている。1974年のワールドカップでオランダが見せたような考え方は、ますます浸透している。

牛木 ローテーション・サッカー? 

二宮 そうですね。たとえば西ドイツのサッカーは、伝統的にマンツーマンの守りでしょう。その考え方は変わっていないけれども中盤のプレーヤーの守りは、完全にゾーン・ディフェンスになっている。右サイドでいいことのできる選手は、守りにまわったときに、相手のトップの攻め込みに対する“つかみ”を右サイドでする。そして、その相手が逆サイドに走ったときには、マークを渡して、自分がついて走るということはない。ブラジルなんかと違って、最終バックラインは、はっきりしたマンツーマンのマークで放さない形で、これは前と変わらないが、中盤は完全にゾーンの守りの考えに徹してきている。 

牛木 中盤のゾーンと後ろのマンツーマンの併用だね。 

二宮 それからバックの選手は、前にも増して攻撃に出る。それを中盤の選手が下がってカバーする。それがますます、多くなっている。バックが攻撃に出るのも、ただ慢然と出るんじゃなくて、FCケルンのコノプカやハインがやっていたように、自分のやることをはっきりさせて出る。自分の個性というか特徴のあるプレーを裏付けにして出ていく。相手はそれがわかっていても止めようがないという形です。 

牛木 ふーん。 

二宮 それからフィニッシュのかっこうが前とはかなり傾向が変わってきていると思う。外からのセンタリングを大きく逆サイドに振って決めようというのは、もう通用しない。低い、体の高さぐらいのボールを、それもカーブがかかったようなのをゴール前に通して、それに2、3人が食らいつく。相手の鼻先で勝負したり、こぼれ球をねらったり、相手の自爆を誘ったりしている。西ドイツのサッカーの変わり方が、いちばん激しいんじゃないかな。 

牛木 来年のアルゼンチンのワールドカップが見ものだね。 

二宮 ええ。ただね、フォクツがいっていたんだけれども、西ドイツが再び優勝するには、どうしてもベッケンバウアーが必要だ。今年の南米遠征で西ドイツは好成績を残したけれど、あれは親善試合でワールドカップはあんなもんじゃない。ベッケンバウアーを絶対に呼び戻す必要がある。時機を見て、それをシェーン監督に進言するんだ、とフォクツはいっていた。本舞台になれば、やっぱりブラジルが強敵だろうといわれてますね。 

牛木 どうも、貴重な話を、ありがとう。

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