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サッカーマガジン 1977年10月10日号
時評 サッカージャーナル

PK戦―是か、非か

抽選に代わるもの
 今季から日本リーグで“PK戦”を採用するんだそうである。2部では第1節の日産−古河千葉戦で、すでにその第1号が行われた。
 「リーグでPK戦をやる必要があるのかね。どういうつもりなんだろうね」
 PK戦採用のニュースを読んで、知人がぼくのところに苦情をいってきた。しかし、これは日本リーグ当局が勝手に決めてやっていることで、当方はもちろん、いっさい関係がない。
 「ぼくも個人的意見としては反対だな。リーグは、ほかにもっとやらなきゃならないことがあるはずだ」
 勝ち抜きのトーナメントだったら、引き分けの場合、次のラウンドに進出するチームを決めるために、PK戦をやらなければならない場合もある。しかし、総当たりのリーグでは、引き分けを引き分けのままにしておいて、いっこうに差しつかえないはずである。
 PK戦の方式が登場したのは1970年からだ。それ以前には、勝ち抜きトーナメントで引き分け試合があった場合には、抽選で次のラウンドに進出するチームを決めていた。本部席で二つの封筒を用意しておいて、主審かトスをして両チームのキャプテンに、その封筒を引かせる。1956年のメルボルン・オリンピック予選の日本と韓国の試合が1勝1敗となったとき、抽選で日本がオリンピック出場権を得たことがある。
 二つの封筒の中には、白紙がはいっていて、たしか一方には「次回に進む」と書いてあったはずである。単なる○印のような記号のときもあったかもしれないが「勝ち」とは書いてなかったはずだ。
 というのは、サッカーの試合そのものは、あくまで無勝負であって、抽選はただ、便宜上、次のラウンドで試合をするチームを選ぶため――という建前だったからである。抽選で勝ち負けを決めたわけではない。
 当時、新聞に試合の記録をのせるとき、ぼくはスコアの隣にただ「引き分け、抽選」とだけ書くことにしていた。新聞社では、ぼくたちの書いた原稿に、まずデスクが目を通し、ついで整理部の人たちが見出しをつけるわけだが、デスクや整理が「抽選勝ち」という言葉を使うと、よく文句をいったものである。
 PK戦は、この抽選に代わるものとして採用されたものだ。したがって、PK戦で試合の勝ち負けが決まるわけではないと考えるのが本当だろう。
 サッカーの競技規則の本の最後のほうに、このPK戦についての指示が載っている。それには。次のように書いてある。
 「引き分け試合の場合に、勝ち抜き戦の次の段階に進むチームを決めるときや、トロフィーを受けるチームを決める必要のあるときに、抽選に代えてペナルティ・スポットからのキックを実施する…」
 「このキックは、試合の一部とはみなされない」
 これを読めば、日本リーグでPK戦の方式を採用するのは、FIFA(国際サッカー連盟)の提案による指示の趣旨に反していることは明らかだろう。リーグ戦では次回に進出するチームを決める必要はないからである。
 また、日本リーグの採用する方式では、PK戦を、サッカーの「試合の一部」とみなしている。
 というのは、PK戦の採用にともなって勝ち点制度も手直しをして、90分の試合時間内で勝負がついたときには、勝ちチームに勝ち点4を与え、PK戦で勝負のついたときには、勝ちチームに勝ち点2を与えることになっているからである。
 以上のようなわけで、ぼくのような中年以上の年齢の人間には、日本リーグでPK方式を採用することには、かなり抵抗がある。

NASLの方式
 ただし、あまり保守的な感覚でだけものごとを考えると、進歩を妨げる。だから、下村新総務主事のリーダーシップで、日本リーグが何か新しいことをやろうとしたことを、むやみにとがめだてしてブレーキをかけたくはない。むしろ、どうせやるなら、もっと思い切った手を打ってもらいたかった、と思うくらいだ。
 PK戦の採用は、おそらくアメリカのNASL(北米サッカー・リーグ)でやっている方式をヒントにしたのだと思う。
 NASLには、引き分け試合はない。同点で終わるとサドンデスの延長戦になる。先に得点したほうが勝ちというやり方である。
 15分(7分半ハーフ)の延長戦でも、けりがつかなかったときには“シュート・アウト”という独特の方式で勝負を決める。これは35ヤード(32メートル)の地点からのドリブルシュートでゴールキーパーと勝負をし、PK方式と同じようにして決着をつける。
 この方式は、先に述べた競技規則の本についている指示の趣旨を、日本リーグのPK戦採用と同じように無視して、なおいっそう徹底している。
 毒食わば皿までで、サッカーをショウアップし、観客を喜ばせようという精神は、いっそ小気味いいくらいである。
 だが一つ、付け加えておくことがある。それはNASLの独特の勝ち点(ポイント)方式である。
 NASLでは、勝ちチームには6ポイントを与える。そのほかに、3点を限度として、得点1点ごとに1ポイントを加える。つまり5対2の試合の場合、勝ちチームは6プラス3の9ポイント、負けチームは0プラス2の2ポイント、となるわけである。
 ぼくは、PK戦よりも、むしろ、このゴール・ポイント制を日本リーグに採り入れるべきだと思う。消極的な試合を防ぎ、攻撃的なサッカーを奨励するには、ゴール・ポイント制のほうが効果的だと思われるからである。
 日本リーグは今度のPK戦採用にあたって、以上のようなさまざまな事情をよく調べ、多くの人の話を聞いて決めたのだろうか。
 ぼくには、どうもそのようには思われない。もっと大事な改革を棚上げして、手っとりばやい思いつきだけを具体化したのでなければいいが――と心配している。


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