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サッカーマガジン 1977年1月10日号

日本リーグ’76〜’77
日立微差の首位、三菱も急追! 
碓井得点王争いトップ。躍り出るヤング

新旧激突のつばぜり合いで年を越す
 (2/2)   

古河ストップ、三菱急上昇
新監督はまだ個性を出さず

 今シーズンから、日本リーグ1部10チームの半分の5チームに、若手の新監督が登場した。そのうちの4人は、メキシコ・オリンピックで銅メダルを獲得した日本代表選手の輝かしい経歴をもっている。三菱の横山謙三、新日鉄の宮本輝紀、古河の鎌川光夫、東洋の松本育夫である。 
 この4人の元名選手が、新監督としてどんな手腕をみせるかは、興味の的だった。リーグの日程の4分の3以上を消化したこの時点で、先に結論をいわせてもらえば、新監督はまだ個性を発揮していないと思う。 
 4人の中で、もっとも目ざましく成功しているのは、古河の鎌田監督である。 
 前回6位に終わったチームを、ほとんど同じメンバーで引き継いで、リーグ開幕とともにポンと飛び出しそのまま前半戦は、ほとんど首位を走り続けた。「今年の古河は違うぞ」という感じだった。
 鎌田監督には、いくつかの幸運もあった。
 一つは、川淵前監督が、1974年のワールドカップを見て帰ったあとに描いたチームづくりのイメージが、選手たちの間にしみ通ったところで引き継いだこと。そして理性的だが燃える男であった川淵前監督と冷静でおだやかな鎌田新監督の性格の違いが、この引き継ぎを実らせるのに有効だったこと。さらに宮本征勝コーチというよいアシスタントを得ていることである。 
 もう一つ、もっと早くからチームのエースになるべきだった奧寺が、5月に日本代表チームを引き受けた二宮監督によってナショナル・チームのレギュラーに起用され、ムルデカ大会の得点王になって、自信をつけて帰ってきた。これも鎌田監督の幸運だった。 
 奥寺を左に、永井を右に配置した攻撃ラインによるオープンからの攻めが、昨季新人ながらフル出場して10点をあげた川本に結びついた。 
 しかし、この鎌田古河の勢いも、後半戦にはいってストップした。特に11月7日、干葉の市原で不振の新日鉄に敗れたのは痛かった。若手が多いこと、チームのリーダーである田辺に出来不出来の波が大きいこと、攻撃的なタレントぞろいではあるが守りにまわったときかならずしも安定していないこと、などチームのよい点が、そのまま裏返しに欠点にもなってきた。 
 古河とは逆に、三菱は最初につまずいて、しだいに立ち直ってきた。 
 横山新監督は、シーズンの最初からいきなり新しい試みに挑戦しようとしているように見えた。森をスイーパーに使った布陣が、その一つのあらわれである。 
 しかし、これは明らかに失敗だった。三菱の守備ラインは、大仁、落合、斉藤とリーグ随一の強力メンバーである。そこに森を下げてきたプラスは、それほど目立たなかった。
  逆に中盤からの攻めで、組み立て役の森を失ったマイナスは、大きすぎた。点を取られないが、取ることもできない。シーズンのスタートは引き分け続きだった。 
 大仁をスイーパーに、森を中盤に戻してから三菱は立ち直ってきた。それは、とりもなおさず、横山新監督が、最初の自分の構想を放棄し、ベテランを軸にした手なれた“三菱のサッカー”に戻ったことだった。少なくとも外部からはそのように見える。 
 新日鉄の宮本新監督は「走るサッカー」を、東洋の松本新監督は「激しいサッカー」を掲げているようだ。しかし、成績は芳しくない。 
 この2人が、選手としてやっていたときにみせていた頭脳的で、正確で、ひらめきのあるサッカーに対して、監督としてやらせようとしているサッカーは、見たかぎりでは粗野で、単純すぎる。
  「だいたい、最初はそういうもんですよ。フォワード出身の監督は守備を固めたがるし、バック出身の監督は攻めることが好きだ」フジタの石井監督が、こんなことをいっていた。そういわれれば、当たっている。

混戦を抜け出すのは?
1月中旬に大宮、西が丘決戦 

 日立、三菱、古河が横一線に並びこの3チームだけにしぼられてきた日本リーグの優勝争い。この中から抜け出すチームは、どれだろうか。 
 「再開すぐに日立さんとぶつかりますから、これに勝たなければチャンスはないと思っています。負けたらダメです」 
 古河の鎌田監督は、年内最後だった三菱との対決に敗れたあとに、こう語った。 
 1カ月半の中断があけて、古河−日立のカードは1月16日に埼玉県の大宮である。古河はこれに勝てば、勝ち点で日立に並び、得失点差でふたたび追い抜くことになる。そのあとの対戦相手は下位の東洋、永大、トヨタ。油断はできないにしても、優勝の望みは一気にふくらむ。 
 逆に古河は、日立に負けると勝ち点の差が4と開く。残り3節でこの差を埋めるのは絶望的だ。古河にとっては、1月16日の大宮決戦が最大のヤマ場だ。 
 日立と三菱には、ほかにも難敵がいる。目下4位につけて上位をうかがっているフジタである。 
 三菱は再開初日の1月15日に、東京西が丘サッカー場でフジタと対戦する。そして次の節、1月22日は同じ西が丘で日立がフジタと対戦する。このフジタのからむ西が丘の2連戦は、優勝争いに大きな影響をもつものになりそうである。 
 フジタは、ブラジル育ちのカルバリオ、マリーニョがよくがんばる。今シーズンのフジタは奇妙に雨にたたられて、9試合が泥んこ試合だった。「ブラジルの足わざに泥んこは不向き」と考えるのが常識だが、フジタの外人は雨を気にしなかった。岩井監督によると「もともとは不得意なんだけど、あまり雨ばかり降るから、雨の試合に慣れちゃった」のだそうである。
 西が丘の芝生の状態はいまあまりよくない。
 1月中旬の東京のグラウンドは、泥んこになりがちだが、それがフジタのからむ三菱、日立の西が丘決戦に、どうひびいてくるだろうか。
 残り4試合のカードをみると、三菱はあまり有利でない。最終節の2月6日に、国立競技場でヤンマーとの対戦を残しているからである。再開後に一時トップに立っても、最後まで楽はできそうにない。 
 ヤンマーの3年連続優勝の望みはすでにほとんど消えてしまった。しかし、釜本の威力はいぜん破壊的である。不運もあったし、チームのバランスも崩れていたが、このままなすところなく終わるとは思えない。最後の土たん場に、ライバルの三菱を引きずり降ろそうと意欲を燃やしてくる可能性は十分ある。 
 三菱の相手には、がんばり屋の鋼管も残っている。ヤンマー戦の1週間前、1月30日の国立競技場である。 
 今季の鋼管は引き分け数の新記録をつくっているが、劣勢の試合を守りに守ってやっと引き分けたという内容ではない。田中監督は「ほとんどの試合が、もう一歩で勝てるというところなんですよね」と、勝てないのが残念という口ぶりだった。選手一人ひとりの力は、藤島を除いて他のチームよりよいとはいえないが守りにまわったときに全員がよくがんばる。 
 ゴールキーパーがミスしたあとを、バックがゴールの中にはいり込んでいてけり出した場面が、これまでに何度もあった。 
 それでいて、守り一方ではない。複雑で巧妙な攻めはないが、藤島を軸に中盤では成田が、ウイングでは汐崎が、思い切りのよいプレーを見せる。若さがあって、三菱にとって油断のできない相手である。

試合内容は悪くない
終盤の4週に盛り上がりを期待 

 今シーズンの日本リーグの試合内容はけっして悪くない。むしろ例年より充実しているし、見どころも多い。そのわりには、スタンドに熱気の乏しいのが気になるが、これは主として運営を担当しているリーグの委員たちの問題で、監督、コーチや選手たちのせいではない。 
 今季の試合内容のいい点は、ちょうど新旧交替期にさしかかっていて、旧勢力の円熟と新勢力のフレッシュさが両方楽しめることだろう。 
 旧勢力の円熟は、チームのスタイルとしては、立ち直ってきた三菱に代表される。三菱の急上昇は、横山監督がひとまず、二宮監督時代の手慣れたスタイルに戻して立て直しをはかったところにあるからである。 
 11月28日の対古河戦。三菱が前半にあげた先制の2点は、どちらもコーナーキックからだった。最初は逆サイドに大きくけって、後方から斉藤がシュートし、ゴールキーパーの前に走り込んだ関口のかげを通ってゴールインした。 
 2点目のコーナーキックは、ニアポストの前へ通した近めのライナーだった。細谷がアーセナル・ゴールをねらう形で走り込んでシュートし、そのシュートの前に関口がさらに飛び込んでけり込んだ。 
 どちらも、昨季までの三菱が得意としていたパターンだった。 
 森−細谷を軸にするすばやいパスによる速攻や落合、斉藤の攻め上がり。守りにまわったときは、前線から順次追い込んでいって後方のバックにボールを奪わせるディフェンス。こういう三菱の攻守のスタイルは、監督は新人だけれども、旧勢力を代表するものであり、三菱が優勝するとすれば、その原動力になるだろう。 
 日立は、旧勢力を代表するベテラン監督が新勢力を巧みに伸ばしている。指導者は旧、選手は新と旧のミックスだ。古河は、若い選手にのびのびとやらせてチームをまとめており、指導者も選手も新勢力の代表といえるだろう。 
 碓井、奥寺、永井などの若い選手が、個性を十分に発揮させてもらっているのも、今季の日本リーグの見どころである。碓井のほかに東洋の山出などの新人も活躍しはじめているし、永大のジャイロ、フジタのカルバリオのような外人の若手のプレーも楽しめる。 
再開後あと4節の激闘に盛り上がりを期待したい。

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