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サッカーマガジン 1977年1月10日号
時評 サッカージャーナル

五輪選手は22歳まで?

FIFAの年齢制限案
 「オリンピックに出るサッカー選手の年齢制限をするって外電がきてるんだけど、これはどういう意味なんだい?」
 新聞社の運動部に出勤したら、同僚の1人からこう聞かれた。
 ことの起こりは、FIFA(国際サッカー連盟)のアベランジェ会長が、11月中旬にローマで行った記者会見である。「経験豊かなベテランが、ルーキーと争うのは好ましくない。オリンピックの他の競技では、たとえば体操のように、年少の選手がおとなにまじって活躍しているものもある。また馬術や射撃では、40歳以上の選手が若手と並んで出場している例もある。しかし、スポーツによって事情は違う。サッカーでは年齢制限が必要だと思う。FIFAは、オリンピックの出場資格を、22歳で制限するよう要項改正を考えている」
 外電によれば、アベランジェ会長は、以上のように語っている。
 ところで、ぼくに質問をした同僚は、この発言の中の「22歳で制限する」という個所に迷わされたらしい。
 オリンピックのサッカーを「22歳以上」の“おとな”の大会にするつもりなのか、それとも「22歳未満」の“ジュニア”の大会にしようというのか、その理由は何なのか――アベランジェ会長の発言のかんじんの部分が、外電の文面では、わかりにくかったようだ。
 しかし、世界のサッカーの“ものの考え方”を知っている人にはアベランジェ発言の真意が、ピーンときたはずである。
 これは疑いもなく、オリンピックの出場資格を「22歳まで」に制限して、オリンピックを「ジュニアの世界選手権」にしようという意図である。
 このような考えが出てきた背景には、オリンピックのサッカーの金メダルが、すでに24年間にわたって東ヨーロッパの社会主義国に独占され続けてきているという背景がある。
 第2次世界大戦のあと、最初の1948年ロンドン大会では、スウェーデンが優勝した。これは大戦の被害を受けた程度が、比較的軽かったことに関係しているのだろうと思う。
 次の1952年ヘルシンキ大会でハンガリーが優勝する。それ以来、ソ連、ユーゴ、ハンガリー、ポーランド、東ドイツと、優勝はすべて東ヨーロッパの国である。
 モントリオールのオリンピックでは、優勝は事実上、東ドイツ、ポーランド、ソ連の3カ国だけで争われた。三つとも東ヨーロッパの社会主義国である。優勝した東ドイツには、クロイ、ホフマン、キッシェなど、銀メダルのポーランドには、トマシェフスキ、シャルマッフ、デイナなど前回のワールドカップの主力がいた。
 東ドイツやポーランドなどの社会主義国にはプロ・サッカーの制度がない。したがって、ここに名前をあげたような事実上プロ・レベルのワールドカップのスターたちが、オリンピックに出てくることができる。
 ところが南米のブラジルやヨーロッパの西側の国では、トップレベルの選手はみなプロになるからアマチュアだけのオリンピックには出られない。そこでオリンピック・チームは、プロになれなかった二線級の選手か、将来プロになるつもりのごく若い選手で編成するほかはない。それではワールドカップ・クラスの社会主義国に勝てないわけである。

サッカーの考え方
 アベランジェ会長の国であるブラジルは、オリンピックには、まだプロになっていない18〜19歳の若手のチームで出場する。モントリオールでは、それでベスト4にはいる健闘を示したが、社会主義国の3強にはやはり勝てなかった。
 そういう事情があるから「ワールドカップに出るような超一流のベテランがオリンピックに出てきて、経験の浅い若手のチームと争うのは不公平だし、おもしろくない」という考えが出てくるわけだ。
 アベランジェ会長のいうFIFAの年齢制限案は、
 @18歳未満のユースーチームの世界一は、新設のコカコーラ・カップ世界ユース大会で
 A22歳未満のジュニアの世界一はオリンピックで
 G23歳以上の本当のトップクラスのチームは「真の世界一」を決めるワールドカップで
 それぞれ争うことにしよう、という趣旨である。
 ここには「オリンピックが世界の最高峰でなければならない」とするような「オリンピック至上主義」の考え方はない。
 また「プロとアマチュアを分離しなければならない」というような偏狭な「アマチュアリズム」の哲学はない。
 その代わりに「本当に強い者はプロ、アマを問わず、強い者同士で争おう」「同じレベルの者は、同じレベル同士で試合をするチャンスを与えよう」という、きわめて実際的な、ドグマにとらわれないアイデアがある。それが、世界のサッカーの“ものの考え方”である。
 ところで、このFIFAの年齢制限案は“オリンピック至上”の日本にとっては都合が悪い。
 この外電が伝えられた翌日、日本サッカー協会の長沼専務理事に会ったら、 
  「以前のようなヤツがいいですな」といっていた。
 以前のヤツとは「ワールドカップ(予選もふくむ)に出場した選手はアマでもオリンピックには出さない。ただし、アジア・アフリカの国は例外とする」という案である。しかし後進国への“特恵条項”をあてにするのは、ちょっと情けないような気もする。


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