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サッカーマガジン 1976年10月25日号

アジア・オセアニア地域第2組
ワールドカップ予選の日程決まる!

4ヵ国でホーム・アンド・アウェー
  しかし東京では1試合か?
   (2/2)   

2 日程は日本に有利。だが…… 
   ――三つの力−ドに政治の影―― 

 ところで、来春のワールドカップ予選の日程は、日本にとってどうだろうか。 
 「現在の情勢の中では、いい日程になったのではないか。ほとんど日本の希望していたとおりになった」 
 日本サッカー協会の長沼専務理事は、こういっている。 
 日本にとって有利な点は、まず日本の対戦相手をあらかじめ観察する機会があることである。 
 たとえば、日本はイスラエルと対戦する前に、イスラエル−韓国の試合を見ることができる。また韓国との対戦の前にも、韓国−イスラエルの試合をだれかが偵察に行く機会がある。 
 朝鮮民主主義人民共和国のチームだけは、あらかじめ見る機会がない。しかし、これは最初の対戦相手だからやむをえない。だが朝鮮民主主義人民共和国のチームは、あとで説明するように、予選不参加の可能性もある。そうなると、日本は予選開始が1週間遅くなってこれも有利である。日本リーグが終わったあとの準備期間が、それだけ長くなるからである。 
 そのほか、こまかい点でも日本に有利なことがいくつかある。日程を決める会議を東京に誘致して努力したかいが、多少はあったということだろう。 
 今回の日程を決めるについては 「ホーム・アンド・アウェーでやろう」ということに、どの国も異論がなかった。 
 前回のオリンピック予選を「セントラル・トーナメント方式」でやろうとし、ホーム・アンド・アウェーを主張する声に対して「そんなことは事実上不可能だ」とする意見が強かったのにくらべると大違いである。東京でやるはずだったセントラル・トーナメント方式のオリンピック予選の開催権を日本が放棄した昨年10月の苦い経験は、結果的には、いいクスリになったようである。 
 ホーム・アンド・アウェーだから「日本が有利」といっても、ほんのちょっとのことであって、チャンスはほぼ公平であるといっていい。それがスポーツの本来のあり方だろう。
 しかし、オリンピック予選の東京開催返上の原因となったイスラエル問題は、今回もいぜんとして、つきまとっている。 
 イスラエルのチームが日本にきて試合をすることに対して、今回もすでに警察当局では心配しはじめている、という情報がある。イスラエルと対敵関係にあるパレスチナ派のゲリラが襲撃する、というような万一の事態に備えて、国立競技場を完全に警備するのは、事実上不可能だからである。 
 そこで、日本−イスラエルの試合は、地元ではやらない可能性が強い。長沼専務理事も「無理押しはできない」という口ぶりだ。 
 オリンピック予選のときは、日本−イスラエルの試合を韓国のソウルにもっていったが、これには韓国の当局がのちになってサッカー協会に文句をつけたという。したがって今回は、イスラエルとのカードは2試合ともテルアビブに行ってやることになりそうだ。日程を見ると、イスラエルとの2試合は、3月6日と13日の日曜日に、続けてやることになっている。  

日本では1試合だけ? 
 朝鮮民主主義人民共和国のチームはどうだろうか。 
 この国のサッカー協会代表は、9月8日に東京プリンスホテルで開かれた日程会議に姿を見せなかった。アジア・サッカー連盟(AFC)と日本サッカー協会からの通知に対しては回答がなかったし、7月のモントリオール・オリンピックのとき、日本の藤田静夫副会長と岡野俊一郎理事が現地で連絡をとろうとしたが、うまくいかなかったという。 
 そこで朝鮮民主主義人民共和国は、今回のワールドカップ予選には参加しないのではないか、という観測が生まれている。 
 イスラエルとの対戦は、朝鮮民主主義人民共和国にとっても、やっかいな問題である。国際政治の入り組んだ状況の中にあって社会主義国の朝鮮は、イスラエルと国交がないし、簡単に交流するわけにはいかない立場にある。実際に1968年のメキシコ・オリンピックと、1970年のメキシコ・ワールドカップの二つの予選のときは、どちらもイスラエルと同じグループにはいったために棄権している。
  そのうえ、今回は韓国との試合がある。 
 朝鮮半島の中で南北に分かれているこの二つは、もともと一つの国であり、将来は一つに統一されるべきだというのが双方ともの主張である。しかし現実には、二つはきびしい対立の中にある。南北の対戦を、日本の競技場でやってもらおうじゃないか、という案も一部にはあった。しかし、これは双方の内部の問題だから、両方からの依頼でもあればともかく、こちらから持ち出す筋合いではない。 
 朝鮮民主主義人民共和国の内情にも、不参加を推測させる材料があるようだ。 
 これも外部の者が軽はずみな推測をすべきではないが、外貨事情などもあり、最近、国際交流の取りやめが目立っている事実がある。 
 ともあれ、なんらかの事情で朝鮮民主主義人民共和国が不参加となり、イスラエルとの対戦が2試合ともテルアビブで行われることになれば、ワールドカップ1次予選の試合のうち、日本の地元で行われるのは、1試合だけ、ということにも、なりかねない。 
 日本−イスラエル、朝鮮−イスラエル、朝鮮−韓国。この三つのカードが政治の影におびやかされている。それは避けることのできない、きびしい現実である。 
 FIFA(国際サッカー連盟)は、陸上や水泳の国際連盟にくらべると、常に柔軟で現実的な態度をとってきた。しかし、そのしわ寄せは、どこかにくる。 
 今回の場合は、それが日本のグループにきた、といえないだろうか。中近東や東南アジアの回教国は、イスラエルと組み合わせることができない。そういう現実を避けるために、はるか離れた極東の国と組み合わせてきたのである。 
 かりに日本が、当然にアルゼンチンの大会に出られるほど強かったとしたら、あるいは国際サッカーの世界で日本とアジアの地位がもっと高かったとしたら――こんなしわ寄せを受けただろうか。 
 結論を急ぎすぎるのは危険かも知れない。 
 それにしても、日本のサッカーが1日も早くワールドカップのプロフェッショナル・レベルに近づき、国際的な発言力がヨーロッパ諸国なみになることを期待したい。

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