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サッカーマガジン 1966年6月号

ワールド・カップ予想  (2/3)     

ワールドカップの見どころ

ブラジルの3連覇なるか
 今年のワールド・カップの見どころを、3つの点にしぼってみよう。 
 第一は、ブラジルが3回連続優勝の偉業をなしとげて、純金のジュール・リメ杯(優勝杯の正式名称)を永久に自分のものにすることができるか。
 第二に、開催地元のイングランドが、サッカーの母国としての誇りと名誉を、この大会で回復できるか。
 第三は、華麗な得点能力を誇る南米の攻撃型のサッカーと、守備偏重に陥りがちなヨーロッパ守備型サッカーの、どちらが世界の主流を占めるだろうか。
 この3つが焦点である。
 まずブラジル3連勝の可能性について。
 この大会の規則では、この4年に一度の大会に、3回優勝した国には、黄金のカップが永久に授与されることになっている。
 そして、こんどの大会では、ブラジルとイタリアとウルグァイに、この栄誉を獲得するチャンスがある。
 ウルグァイは1932年と1950年の2回、イタリアは1934年と1938年の2回、それぞれ優勝している。ブラジルは1958年と62年に連続優勝し、今回も優勝候補の筆頭、史上初の3回連続優勝とともに、黄金の女神像を永久に獲得する望みは、非常に大きい。
 ブラジル・チームのメンバー22人は、6月22日に正式に決まるが、現在45人の候補選手が選ばれている。
 そのうち過去2回の世界選手権を経験しているのは7人、58年大会に出ているのが2人。残りの36人は新しい顔ぶれだ。
 「ブラジルはサッカーの国だ。タレントは選ぶのに困るほどいる」
 “オ・ゴルド”(ふとっちょ)と呼ばれる団長のフェオラ氏は、108キロの巨体をゆすって自慢している。
 しかし、ブラジルの“人間国宝”ペレ選手を欠くことはできない。これは明らかである。
 ペレは、いま世界で“もっとも価値のある”スポーツ選手である。58年にブラジルが独特の4・2・4の布陣で世界選手権をとったとき、ペレは17歳の天才少年としてデビューした。
 あれから8年。ことしのペレは25歳になり、彼のあげた得点は700点を越えた。昨年の11月には、ブラジル・リーグの試合で、ひとり8点をあげる離れわざをやっている。
 「黒い真珠」「王様」というのが、ペレのあだ名だ。すでにサッカー一本でかせぎあげた億万長者であり、ブラジルが手離すことはあり得ない国民の偶像だが、かりに国際的トレードに出せば、7億円の値打ちはあろう。
 黒い、かもしかのような足、変化とスピード感が、ラテンの音楽にのったような、リズムのある足わざ、正確でカンの鋭い判断力。
 この3月に、5年越しの恋がみのって20歳の小学校の先生と結婚したばかり。サッカー選手としては、もっとも油がのり、円熟したところだ。
 ペレの活躍は、ことしのワールド・カップの最大の見どころであり、ブラジル3連勝のカギである。
 ブラジルの強味の一つに、世界選手権のために、国中が一致団結して、熱狂的な応援をしていることをあげなければならない。
 アルゼンチンでは、最近選手たちが「世界選手権に出るために、もっとボーナスを出せ。出さなければ、代表を辞退する」といい出して、騒ぎになっている。
 ブラジルは、前回優勝したとき大統領が、キャデラックを1台ずつ選手にプレゼントしたくらいで、選手に厚く報いているし、こんな騒ぎは、国民感情が許さない。
 ブラジルのスポーツ委員会は、3年前からワールド・カップの準備を進めている。大会開催地のイングランドの気候を専門家が調べ、よく似た気候の都市とグラウンドを練習場に選んだ。
 イギリス風の食事に選手たちを馴れさせ、選手の健康管理に、200人もの医者や心理学者などを動員した。
 これは一例にすぎないが、こういった周到な準備ぶりを見ると、ブラジル連勝の望みは濃いように思われる。

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