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サッカーマガジン 1966年6月号

サッカー記録のつけ方

 プロ野球記者が、後楽園球場のネット裏で、スコア・ブックに記入しながら試合をみて、戦評を書いている。そんな風景がおなじみなものだから、サッカー記者も、記者席でスコアをつけながら、試合評を書いているものと思われているらしい。
 実はサッカー記者は、自分ではほとんど記録をとらない。新聞には、メンバーといっしょに、GK、CK、FKの数やシュート数がのっているが、これは記録員がつけて、試合のあとで配ってくるのを、そのまま頂戴しているのである。
 記者は試合中には、主要な得点のチャンスや、チームの戦法、選手の働き、などを観察して、メモをとっている程度である。
 メモもとらず、頭の中に印象を組み立てて、流れるように?試合を書きはじめる器用なやつもいる。

<きまったつけ方はない>
 野球やバスケットボールのような、アメリカ系のスポーツと違って、イギリス系のサッカーやラグビーには、決まったスコアのつけ方はないように思う。
 野球やバスケットボールでは、公式記録員がスコアをつけることは、競技規則によって要求されている。
 バスケットボールで、1人の選手が5回反則をすると退場させられる。その反則の回数は公式記録員がつけている。
 つまり、公式記録は、競技の一部分であり、記録員は、審判と同じように、いなければ試合ができない。
 したがって、スコアのつけ方には一定の様式が決まっている。
 ところが、サッカーはそうでない。
 公式の記録は、レフェリーが得点を自分のノートに書きこめばそれでいい。記録員のつけているスコアは、いわば添えものである。
 サッカーのスコア・ブックも、町の運動具店などに、2、3種類売っているが、どの形のものでないと、いけないということはない。
 現在市販されているものが、非常に便利だともいえないようである。

<なんのために記録するか>
 サッカーのスコア(記録)をつけるときには、何のためにとるのかを考えて、その目的にあった方法を工夫すれば、よいと思う。
 大きく分けて、記録をとる目的は、三つある。
 @報道機関などに資料として提供する。
 A試合のようすを記録に残し、あとで研究の材料にする。
 B自分のチーム、あるいは相手チームの特徴や弱点を調べ、練習方針や作戦をたてる参考にする。

<重要な得点経過>
 前記の三つの目的のどれについても、共通に必要なのは、得点の経過ではないだろうか。 
 図1は、4月17日に名古屋瑞穂球技場で行なわれた日本リーグ第2週、名相銀対八幡の試合で、八幡が同点に追いついたときの得点経過をもとに、作ったものである。

 八幡の宮本選手は、4・2・4の布陣の第2線で、攻撃の起点になる役をはたしていた。だがこのとき、第1線のFWが中盤でボールを受けるため、引きぎみになると、突然中央を割って、第2線から最前線へ飛び出し、下がっていた藤尾選手からの長いパスを受けて得点。名相銀は6人がかりの守備がみな取り残された。
 得点にはならなかったが、八幡はこのあとにも1度、同じような形でチャンスを作っている。 
 得点の中には、偶然に生まれたようなものもある。しかし、長い目で得点経過を集めてみると、そのチームが得点をあげるやり方の特徴が、浮かびあがっている。 
 昨年の日本リーグで、得点をあげた選手の数は、東洋の5人に対して八幡は8人。FBで得点をあげた選手がいるからである。第2線、第3線から飛び出した選手がチャンスを作るのが八幡の特徴になっている。 
 こういうことは、得点経過が記録されていると、統計で分ってくるのではないか。 
 また一般に、コーナー・キックが得点に結びつく率は5%、ペナルティーキックが失敗する率は20%(昨年の日本リーグは21%弱)といわれている。 
 これも、公式記録に得点経過が克明に入ってくれば、正確な統計が作れるようになるだろう。 
 得点経過はこのように重要なのに、現在は日本リーグの記録用紙(図2)にも、記入する欄がないのは妙だ。

 将来は、新聞でも得点経過を、試合評とは別に掲載して、直接試合を見ていないファンにも、サービスするようになるだろう。 
 自分のチームや相手チームを調べるために記録をとる場合には、得点だけでなく、きわどいチャンスやシュートを同じように記録してみてはどうか。CKやGKの数を数えるよりは意味がある。 

<スコアのつけ方>
 日本リーグをはじめ、公式競技会の記録用紙は、主として報道関係へのサービスを目的として作られている。
 市販されているスコア・ブックは、チームのためのものだと思われるが、シュートや得点者を時間の経過を入れて書きこむようになっている程度のものである。
 図3は、ボールの動きを時間の経過とともに追ったもので、どちらが優勢だったのかは分るが、特殊な目的以外には、あまり有効だとも思われない。

 結局、自分の目的にあったものを、自分で工夫するほかないわけだ。
@双方の選手の配置を、実際と同じに(4・2・4なら4・2・4のように)図示することだ。 
A各選手のシュート数を記入すること。 
B得点経過、シュート・チャンスの経過を時間を追って記入する
CチームのGK、CK、FKの総数を数えること。
 以上の4項目ぐらいが、簡潔に記入できる方法があればいい。 
 スコアをつけるときの注意としては、回数をつけていくには、×印で2回ずつまとめていくのがいちばんいい。黒点でつけるのをよくみかけるが、インキのしみと間違える心配があるし、数えにくい。
 正の字型につける方法がいちばん多いようだが、棒に長短があるのは、経験からみて間違いのもとになりやすい。野球などスポーツ一般に用いられている×印が最良だと思う。
 公式試合の記録は必ず2人以上でつけてもらいたい。サッカーは野球と違って、プレーに中断がない。下を向いて記入している間に、次のプレーが進行するから、2人がかりでやらなければならない。
 またひとつのプレーに対して、2回以上の記入をするのはムダである。個人の反則を記録すると同時に、FKの数をつける様式の用紙があるが、反則数と相手チームのFKプラスPKの数は同じなのだからムダである。 
 ところで、このようにして記録したものを集計してみるということにも、また別な楽しみがある。 
 ことしの日本リーグの記録は、報知新聞がいちばん詳細にのせているが、これをもとにして、一般のファンでも、そうとうの記録マニアになることができる。そういうおもしろさについては、機会があれば改めて紹介したい。


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