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サッカーマガジン 1966年6月号

ワールド・カップ予想  (1/3)     

世界最大の大会
 ことし世界のスポーツ界で、もっとも大きな行事は何だろうか。
 それは、疑いもなく、7月にイギリスで開かれるサッカーの世界選手権である。
 「おい、ブラジルはワールド・カップを3回連続してとることができるかね」
 「おれは、固いと思うな。2対1で賭けようか」
 「だけど、こんどはヨーロッパの連中も、ブラジル打倒の秘密作戦をねらっているに違いない。ハンガリーあたりは大穴だぜ」
 「でも、ブラジルの強さは別格さ。あそこは花形ペレだけのチームじゃない。名前を知らない補欠の選手が、いつでもペレの代りを勤められるくらいなんだ」
 パリの裏街で、ベルリンの壁の向こう側で、あるいは戦火におののくベトナムのサイゴンで、人々は明るい話題を、ワールド・カップの予想に求めている。
 国民が、サッカーの世界選手権に無関心なのは、世界中で日本ぐらいのものかもしれない。
 いや、日本でも、サッカー協会が募集した世界選手権見学旅行団の申し込みが、たちまち定員に達したくらいだから、ワールド・カップへの関心は意外に深く、静かに広がりつつあるのかもしれない。
 そうだとすれば、いまやワールド・カップは、地球全部を包みこんでいる。
 サッカーの世界選手権大会は、「ワールド・カップ」と呼んだほうが通りがいい。
 バレーボールなどにも「ワールド・カップ」と呼ばれる大会があるが、外国人が、ただ「ワールド・カップ」といえば、それはサッカーの大会のことであり、その優勝トロフィーのことである。
 優勝トロフィーは、高さ30センチの、純金の女神の像である。
 ことしの3月、この小さなトロフィーが、ロンドンのウエストミンスター・ホールで展示中に盗まれた。
 この事件は、日本の新聞でも社会面に載ったし、週刊誌のニュース・ストーリーにもなったから、ご承知の方も多いだろう。
 3000万円の保険がかかっており、鋳つぶした場合でも300万円の値打ち――という値段もさることながら、世界ファンのあこがれの象徴が失われたことが、ショックだった。
 地元のロンドンが、ひっくり返るような騒ぎだったことはいうまでもないが、ソ連でもブラジルでも、これは相当なニュースだった。
 結局、トロフィーは1週間後に、草むらの中に棄てられているのを、ピックルス(つけもの)という名前の犬が発見して、めでたし、めでたし、となった。
 “つけもの君”は、特大のステーキをごほうびにもらい、ロンドン警視庁は、犯人追及中。「ピックル」には「いたずら小僧」という意味もあるが、このワン公は、いたずら小僧どころか、いまやイングランドの英雄である。
 ともあれ、この盗難事件は、ワールド・カップの前景気を、いやが上にも、あおる結果になっている。
 よく日本の新聞や雑誌には、このワールド・カップのことを「オリンピックに次ぐ大会」と形容している。
 この大会の価値を強調するための表現だろうが、この形容は間違っている。ワールド・カップは「オリンピックをしのぐ大会」なのだ。
 なるほど、参加者の数では、オリンピックのほうがはるかに大きい。オリンピックは100カ国以上4000人の選手役員が参加する。
 ワールド・カップのほうは、本大会参加は予選で16カ国にしぼられるから、参加者は400人たらずだ。
 しかし、参加者の数だけをくらべるならば、日本の国民大会は1万5000人。だけど国体を、オリンピック以上の行事だというだろうか。
 サッカーのワールド・カップが、オリンピック以上だという理由を3つあげよう。
 第一に世界の大衆の人気の点で、オリンピックを、はるかにしのぐ。オリンピックのときに外国旅行をした人は、外国の新聞のオリンピック記事の扱いが、意外に小さいのに驚く。ワールド・カップは文句なくトップ記事である。
 第二に、収入の点でオリンピックをしのぐ。一昨年の東京オリンピックの入場料収入は、12億円だったが、ことしのイングランドの大会は、17億円から20億円に達する見込みだ。
 第三に、これがもっとも重要な点だが、競技水準の点で、オリンピックをしのぐ。サッカーの世界選手権は、プロとアマチュアがともに参加できる、いわゆるオープンの大会だ。アマチュアだけのオリンピックより、はるかに水準は高く、見どころも多い。
 西ヨーロッパや南米からはプロの選抜チームが、ソ連などの共産圏諸国からはアマチュアが参加するが、ソ連などのアマチュアでも、オリンピックに参加するチームより、一つ上のクラスのチームである。
 しかも、2年がかりの激しい予選を勝ち抜いたツブよりのチームがそろうのだから、どのチーム、どの試合をとっても、世界のサッカーの模範とするのに、ふさわしい。名実ともに、世界一の大会なのだ。

試合の組合わせ
 前置きが長くなりすぎた。かんじんの、ことしのワールド・カップの予想に移ろう。
 ことしの第8回大会は、7月11日から30日まで、ロンドンなど7都市に分散して行なわれる。
 第8回大会に最初に参加を申し込んだ国は74カ国。そのうち参加資格のない国が3カ国あり、結局71カ国の参加が認められた。
 前回優勝のブラジルと、開催地元のイングランドは、予選なしで参加が認められるから、69カ国の中から14カ国を選ぶ予選が行なわれたわけである。
 予選は、3〜4カ国ずつのグループを作り、ホーム・アンド・アウェーの2回戦総当り、リーグ戦形式である。
 オリンピックと違って、世界選手権は、本当に強いチーム同士が争う趣旨だから、予選の組合せはレベルの低いアジア、アフリカ諸国からは、1国しか出られないという、苛酷なものになっている。
 本大会に1国でもレベルの低いところがまじると、おもしろくない試合が出てくるし、入場料収入にも響くというわけである。
 この組合せが不公平だと、アフリカの16カ国が棄権するようなこともあり、結局実際には、51カ国が2年がかりで、127試合の予選をした。
 この予選が、また本大会に劣らない人気を集め、世界中で本大会の前景気を高める役を果たすのである。
 本大会は、16カ国を4カ国ずつ4グループに分け、総当りのリーグ戦をする。各組の1、2位が準々決勝に進出し、あとは準決勝、決勝と勝ち抜き戦をする方法である。
 本大会の組合せ抽選は、今年の1月6日、ロンドンのローヤル・ガーデン・ホテルで行なわれ、別記のようなグループ別が決まった。
 ウワサでは、地元イングランドは、やや恵まれた形で、準々決勝進出有望とみられ、優勝候補ブラジルの組は、くせ者ぞろいである。
 フランスのスポーツ新聞「レ・キップ」の予想では、第1組からイングランドとフランス、第2組からスペインと西ドイツ、第3組からはブラジルとポルトガル、第4組からはソ連とイタリアが出てくるだろうという。

世界選手権リーグ試合組合せ
[第1組]イングランド ウルグァイ フランス メキシコ
[第2組]アルゼンチン 西ドイツ スペイン スイス
[第3組]ブラジル ハンガリー ポルトガル ブルガリア 
[第4組]チリ ソ連 イタリア 北朝鮮

 


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