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サッカーマガジン 1993年5月1日号

94米国W杯アジア1次予選F組直前レポート
日本のライバル、4カ国の近況を探る
強敵UAEの戦い方は?         (1/4)    

 さあ、ワールドカップだ。4月8日から日本で始まるアジア地区1次予選・グループFは、アジアのチャンピオンである日本が本当の力を試される正念場である。他の4カ国も、それぞれの狙いと思惑をもってやってくる。
 アラブ首長国連邦(UAE)、スリランカ、バングラデシュ、タイと駆けめぐって、現地取材で集めたホットな情報をレポートする。

アラブ首長国連邦(UAE)
■砂漠の彼方のキャンプ
 アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビから、砂漠の中を車で走り続けた。砂漠といっても鳥取の砂丘のような砂ではなく、ところどころに枯れた濯木の張りついた土の平原が行けども行けども続いている。
 4時間近く同じ風景の中を走り続けて、やっと彼方に山脈が見えてきた。砂浜がそのまま盛り上がった丘の連なりで、草木は何も生えていない。その巨大な土くれの塊を越えると海岸に出た。そこがUAE代表チームの合宿しているホールファッカーンだった。砂漠の半島を横断して反対側の海岸に出たらしい。沖合に浮かんでいる巨大なタンカーを40隻までは数えることが出来た。
 「ここは背後に山があって海を望むいいところだからね。キャンプ地に選んだんだ」
 新しい近代的なホテルのレストランでアハマッド・アルセイド氏が話してくれた。頭から白い布を被ったアラブの衣装で髭を生やしている。
 「監督」と紹介されたが、日本式にいえば、強化本部長といった役職らしい。 
 「UAEは決勝大会進出に野心を燃やしている。ここで2週間トレーニングをして、日本へ行く前にはマレーシアでキャンプをする予定だ」
 日本をライバルとみて、似たタイプの韓国に練習試合を申し込んでいたらしいが、これは断られた。この辺のかけひきは虚々実々だ。

■ピエチニチェク・コーチ
 UAE代表の新コーチはアントニ・ピエチニチェクである。 1982年のスペイン・ワールドカップのときにポーランド代表の監督として3位になった実績がある。
 「あのときの私のチームはラト、ボニェク、マティシクとすばらしい選手が揃っていて最高だった」 
 「UAEのチームは?」 
 「今度の私のチームもなかなかいい。ベテランのアドナン・アルタルヤニとカリード・イスマイルは、すばらしいスターだし、若い選手は、まだ伸びる素質がある」
 「昨年の広島アジアカップでは守りを固めて逆襲に出る戦法だった。逆襲速攻は、もともとはポーランドのお家芸だね」 
 「いや、コーチによって、それぞれやり方があるし、相手のタイプや試合の状況によっても違う」 
 広島のアジアカップのときの監督は旧ソ連のロバノフスキーだった。広島では日本と最初に当たって0−0の引き分け。その後も悪くなかったのだが、同じアラブの国のサウジアラビアに0−2で負けたのが、厳しい批判の材料になって、ロバノフスキーは契約期間を残したまま解任され、この国のアルワハダ・クラブの監督をしていたピエチニチェクが代わりに起用された。 
 「代表チームを引き受けてから、時間がなかったから今回は選手も大幅には変えられない。ただ第2ラウンドは地元になるから……」 
 日本での第1ラウンドは守りを固め、「地元の第2ラウンドで勝負」というつもりのようだった。

■体力は日本より上
 暑さを避けて陽の落ちるのを待ちナイター照明のもとで練習が始まった。コンディション作りの体操やボールを扱う様子を近くで見ると、広島での試合でチームとしてみた印象とはかなり違う。身体の柔らかさ、筋肉のバネの強さ、テクニックの巧みさはなかなかである。体力的に日本の選手より上だという気がした。
 これで、ピエチニチェク・コーチの手腕が発揮されれば、日本にとって容易でない強敵である。
 広島のときは、黒人の選手が数人いて要所要所で、いいプレーをしていた。この国の人口のうちアラブ人は約30%で、かなり古くからインド人をはじめ、いろいろな人種が入ってきていたという。黒人選手も最近の移入ではなく、この国に生まれ育ったということだった。いろいろなタイプがいるのは、うまくまとめることが出来れば有利な条件である。
 サッカー協会のあるドバイに戻ってから、スポーツクラブのスタジアムを見せてもらった。石油のお金がじゃぶじゃぶ余っている国だから施設は立派だ。王族がオーナーで、選手をお抱えにしてリーグ戦をやっているが、入場料をとらないのが普通だという。2月にドイツのバイヤー・レバークーゼンが来て代表チームと親善試合をしたとき、0−2、1−3で2試合とも負けだったが、UAEの唯一のゴールをあげた選手は、ご褒美に四輪駆動車を2台もらったそうだ。
 ワールドカップ予選に勝てば、とんでもない賞品や賞金が出るのだろうか。
(取材協力MONI MATHEWS)

 


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