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サッカーマガジン 1993年4月18日号

ビバ!サッカー

W杯予選、初戦のタイを警戒せよ!

 ワールドカップ予選の第1戦で日本はまずタイと当たる。これは警戒しなければならない相手である。もともと侮れない力を持っているだけでなく、伝統的に第1戦に力を集中してくる国だからである。指導陣も選手も入れ替えて、新しいチーム作りをはじめたというタイの最新情報は!

★第1戦の強敵 
 先日、タイのバンコクに行ったとき、たまたま代表チームのコーチ陣に会った。若手のオリンピック・チームが練習をすると聞いたので、市内のグラウンドに見に行ったら、チームは来なかったが、コーチのグループが来ていて、グラウンドの端で立ったまま、コーチ会議をやっていた。そのコーチ陣の一人が、ぼくが日本のジャーナリストだと知って、英語で話し掛けてきた。 
 「日本のワールドカップ・チームは、どうしているかね?」
 「いま、イタリアに行ってるよ。きょうあたり、レッチェというチームと試合をしてるんじゃないかな」
 「去年の広島のアジアカップのときは、すばらしかったな。今度のワールドカップ予選も、日本のトップは間違いないな」 
 「広島のときは地元の利があったからだ。今度は第2ラウンドはアラブ首長国連邦でやるから、たいへんだ。それにタイを警戒しているよ」 
 「そういってくれるのは、ありがたいが、正直言って、今度は日本とアラブ首長国連邦のトップ争いで、わが国は、三番手がいいとこだね」 
 「いやいや、日本はタイと最初に当たることになったので警戒している。おたくのチームは、伝統的に初戦に強いからな。1984年のロサンゼルス・オリンピック予選をシンガポールでやったとき、タイに第1戦で敗れた苦い思い出がある。その二の舞を演じないように…」 
 といいかけたら、タイのコーチはにやりと笑って
 「実は、それを狙っているよ」

★ピヤポン復帰と若返り
 「ところで、タイの代表はどうなの? 広島で見たとき、なかなかいいと思ったけれど……」 
 広島でタイは、カタールと中国にそれぞれ引き分けて、東南アジアのサッカーが、アラブの国や東アジアに、ひけをとらないことを示した。 
 「いや、第3戦ではサウジアラビアに4−0で大敗した。力の差は明らかだよ」
 しかし、サウジアラビアとの試合は、立ち上がりの4分にパスミスをかっさらわれて先制点を奪われ、そのあとは無理をして攻めに出なければならない立場になったので、逆に大量点をとられたケースだった。だから、この点差でタイの実力を押し量るのは間違っている。 
 「今度は選手もかなり変わるのかな?」 
 「いや、時間がそんなにないからね。主力選手は変わらないよ」  これは、カムフラージュ発言だった。 
 翌々日の現地の新聞を見たら、広島のときのメンバーのなかから、約半数がはずされて、若手のオリンピック・チームから5〜6人が新たに加わると書いてあった。中には16歳の選手もいた。 
 一方で、28歳のピヤポンが復帰している。ピヤポンは、韓国のプロやマレーシアのセミプロで活躍したベテランのストライカーで、2月のキングスカップから代表チームに復帰し、衰えない力を見せていたということである。これは要注意だ。 
 タイのチームは、大きく変わってくるに違いない。

★監督、コーチの混乱 
 2月中旬にバンコクで開かれた恒例の国際大会キングスカップに、地元のタイはA、Bの2チームを出した。Aはワールドカップのための代表チームで、ヘッドコーチは、広島のときと同じドイツ人のペーター・シュトゥッベである。Bはオリンピック用の若手チームで、監督はタワチャイという人だった。 
 大会の最中に、タワチャイ氏が、シュトゥッベ・コーチを厳しく批判する発言をしたらしい。地元の英字新聞に2人の言い分が、でかでかと特集してあった。 
 タワチャイ氏は、7つの会社を経営している新進の実業家で大金持ちである。オリンピック・チームの監督になると、自宅の別棟を合宿所にして選手をみんな引き取って生活させ、1人1日500バーツ(約2500円)の日当を与えて丸抱えにしたという。 
 そのタワチャイ氏の批判は「シュトゥッベ・コーチは、ドイツ式のやり方にこだわって、タイのサッカーの良さを生かしていない」ということのようだ。これは、ぼくも広島で感じたことだから「なるほど」と、うなずけるところがある。 
 キングスカップが終わると、この論争に決着がつき、タワチャイ氏がワールドカップのチームの監督(チーム・マネジャー)になり、シュトウッベ氏は「アドバイザー」という名目で、事実上、コーチ陣からはずされた。ピヤポンの復帰も、若手の登用も、みなタワチャイ氏の方針だという。 
 ところがである。 
 ぼくがバンコクを出発する日の新聞には「シュトゥッベ・コーチを、日本へ行くワールドカップ・チームに加えることになった」というニュースが出ていた。 
 日本にとって、タイは警戒すべき相手である。ただ、指導陣の混乱はタイにとってマイナスの材料かもしれない。


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