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サッカーマガジン 1993年2月21日号

第71回全国高校選手権
変革の「予感」も…
「国見の時代」へ
7年間で3回目の優勝  (1/3)     

 「熱血監督」小嶺監督率いる国見の優勝で幕を閉じた第71回全国高校選手権。7年連続出場で3回目の優勝と「国見の時代」の幕開けを改めて感じさせられた。同時に、名門・帝京が早々に敗退、古豪・山城が復活、ゾーンディフェンスで新しい方向を示した南宇和など、新しい時代の到来を「予感」させられた大会でもあった。

ドリブルが生んだゴール
★小嶺監督の新しい涙
 国見高の選手たちが表彰台の上でこぶしを振り上げたとき、小嶺忠敏監督は指で目頭を押さえた。高校サッカーを指導して25年、島原商のときから数えて冬の高校選手権に監督として出場19度目、国見に移ってから7年連続の出場で3度目の優勝。この46歳の熱血監督は、勝つたびに涙を押さえることが出来ない。
 小嶺監督の涙には年とともに新しいものが加わっている。
 かつては「九州勢を全国のレベルに」が願いだった。ついで「首都圏や静岡の有名校を倒して優勝を」が悲願となった。日本ユース代表の総監督を兼ねるいまは「高校で勝つと同時に、未来にはばたく選手を育てる」ことが課題である。その一つ一つを達成するたびに「子どもたちがよくやってくれた」と、新しい涙がこみあげてくる。
 新しい目標、新しい課題を追うために、小嶺監督は常に新しい努力も積み重ねてきた。
 大分県を含む九州で、少年サッカーを育てる組織的な努力をした。
 島原半島の端にいると、強いチームとの試合経験に恵まれない。そのためにバスを買い、自分で運転して練習試合の相手を全国に求めた。
 「蹴って走るサッカーでは、これ以上伸びない」といわれたとき、技術のサッカーは、どんなものだろうかと、自費で南米のブラジル、アルゼンチンへ見に行ったこともある。
 常に外の声に耳を傾け、新しいものに目を向けてきた。それが「国見の時代」をもたらした原動力だった。

★準決勝での新布陣
 今度の高校選手権の最大のヤマ場は、準決勝の国見−武南だった。これが「事実上の決勝戦」だった。
 1月7日。国立競技場。雨。
 国見は、この大会で新しい布陣を試みた。(図1)
 準々決勝の米子東との試合では、トップに長身の井上と運動量の多い上玉利の2人を立てていたが、準決勝では井上だけを最前線に残した。
 右サイドから2年生の田尻、左サイドからキャプテンの三浦が進出し、永井は中盤で自由に動く。
 守りは、中盤の底を大浜、元田の2枚にし、最終ラインは読みのいい宅島を軸に4人である。
 この布陣の狙いは、ドリブルの得意な選手を生かすことにある。
 両サイドに進出する三浦と田尻はともに足技がいい。ドリブルを生かしてサイドから崩そうという狙いは明らかだった。 
 永井はドリブル突破が得意なだけでなく、パスのセンスも抜群だ。ここが攻めの起点である。 
 試合は、武南が前半に1点リードしたが、国見は後半に3点をあげて逆転した。後半10分の勝ち越しゴールは、左サイドへの展開から、三浦のドリブル、永井のドリブルが効いた攻めだった。 
 永井は、前半は比較的、前に出ていて厳しくマークされていたが、後半は下がり目になって、再三、いいパスを出した。選手それぞれの個性を生かした布陣と作戦が成功しての大逆転だった。

★決勝戦の2ゴール
 決勝戦。1月8日。晴れ。
 国見の布陣は同じだった。
 山城は、徹底したマンツーマンで守りを固めた。国見の攻めを、どこまで、しのげるかが焦点だった。山城の懸命な守りで緊迫したゲームにはなったが、形勢は一方的だった。
 前半25分に国見が1点目。右サイドにボールが出て、田尻が急加速したドリブルで振り切って食い込み、ニアポストぎわに鋭く出したパスに井上が飛び込んでスライディングして押し込んだ。
 後半13分に2点目。三浦が右ラインぎわから、2人をドリブルでかわして持ち込み、相手の守りの間をついて左足で25メートルの見事な弾丸シュートを決めた。
 2点とも、山城が懸命な守りでクリアしたボールを中盤で拾って、すぐサイドへつないだところからチャンスが生まれた。
 相手は、反撃に出ようと前へ出掛かっており、味方は後へ守りに戻ろうとしている。だから個人で突破するドリブルが効いていた。
 1点目の場面で、相手のクリアを拾って最初のパスを田尻に出した元田は「とったらサイドに出せといわれていた」と話している。
 「サイドからドリブルで」という狙いの成功は明らかだった。
 国見には、1メートル83の井上に合わせた放り込みもあり、永井からのタイミングのいいスルーパスもあった。
 いろいろな攻めがあったが、決めてになったのはドリブルだった。

★「球離れ」が悪かったか? 
 試合後の記者会見で、ある一人の記者が「国見は球離れが悪かったのではないか?」と質問した。
 小嶺監督は「ドリブルが好きな選手が多いので、ツータッチ・ゲー厶の練習をしつこくやったんですが…」と答えていた。
 この小嶺監督の答は、事実ではあっても核心ではない。核心は「しかし欠点を殺せば、長所も死んでしまうので…」という別の答えの方にある。 
 ドリブルが好きで巧みな子供を育てたのは、九州の少年サッカーの功績である。そういう選手を集めて強いチームを作ろうとしているのは小嶺監督の新しい試みである。 
 みなが好きなドリブルばかりしていては、高校サッカーで勝つチームは出来ない。だからツータッチ・ゲームなどで、すばやくパスを出す能力も養ってはいるのだが、足技の良さも生かさなければ選手は伸びていかない。 
 今回の国見は、ドリブルの好きな選手を生かして成功した。 
 しかし同時に、個人の戦術能力を生かすためのプレーでも、もっともすぐれていたチームだった。 
 パスを受けて次のプレーにすぐ移る体のこなし、味方がボールをとったときに、パスを受けやすい場所に走り込む判断力など、みなが優れていた。「球離れが悪い」という批評は当たっていないと思う。 
 それに加えて鍛え抜かれた運動量があった。国見は、もっとも優勝にふさわしいチームだった。

 


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