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サッカーマガジン 1993年1月17日&2月7日号

ビバ!サッカー

高知大旋風に学ぶ

 11月の全日本大学選手権大会で、地方の国立大学の高知大が、関西と東海のリーグ優勝校を倒す大活躍を見せた。高校のスターを集めた有力校が人材を生かせないでいる中で、高知大旋風は大学サッカーへの新しい教訓である。

☆大商大を破る大殊勲
 ここ10年以上、大学のサッカーには、ほとんど絶望していたのだが、今回の大学選手権の1回戦で高知大の試合ぶりを見て、ちょっと明るい気持になった。
 1回戦で高知大の試合を見たのは偶然である。見る機会の少ない関西と名古屋の対戦を見ようと、中京大−天理大を見に行ったのだが、これは、ひどい試合でがっかりだった。ところが、第2試合で高知大が、関西ナンバーワンの大商大を破って、それを埋め合わせてくれた。
 高知大が1点をあげると、大商大がすぐ同点にする形が続いて4−4で延長戦。最後にPKで高知大が突き放したのだが、高知大の試合ぶりは、なかなかだった。
 大商大は国見高のストライカーだった中口雅史をはじめ、全国から優秀な素材を集めている。かたや高知大は地方の国立大学で、そう思うように選手が来るわけではない。しかし選手の能力を生かしたサッカーをした点で、高知大が上だった。
 高知大の攻めの中心は1年生の湊和仁である。前年の全日本ユース選手権で勝った徳島市立高の出身で、小柄だが、テクニックがあり、判断がいい。しかし、ワンマンチームではなく、湊のセンスのいいパスに応じて、他の選手ものびのびと走る。宮崎北高出身で3年生の日野文貴がハットトリックを演じた。
 四国代表として5年連続9度目の出場だが、勝ったのは、これが初めて。試合後、野地照樹監督兼部長は涙を抑えきれなかった。

☆準決勝の2失点
 高知大は、2回戦では東海ナンバーワンの中京大に2−1で逆転勝ちした。前日の両チームの試合ぶりからみれば、順当な結果である。
 準決勝では、関東大学リーグ4位の早大に3−1で敗れたが、この結果を見て「やっぱり関東のレベルには歯が立たなかったか」と思うと、それは違う。試合内容は決して見劣りしていなかった。敗れたのは、厳しく、こす辛い試合に慣れていなかったためである。 前半23分の最初の失点は、守備的に下がっていたラインからのクリアを、早大の中盤の原田に拾われて、いきなり30メートルの弾丸シュートを決められたものである。関東でも、めったに見られない見事なロングシュートだったから、不運といえば不運だった。しかし、高知大のクリアが小さかったためもあった。これは、このスケールのサッカーに慣れていなかったのが一つの原因だろう。
 前半37分に2点目をとられた。これは致命傷だった。後方のフリーキックを、早大にすばやく蹴られたのが、つまづきの第1歩で、試合慣れしていれば、早大の攻めを遅らせる駆け引きが出来たところである。
 もたついている間に、フリーキックを受けた上野がドリブルで中盤を攻め上がった。
 これも、こす辛く止める手があっただろうが、そのままフリーでドリブルさせてしまった。 
 上野は、高知大のゴールキーパーが前に出過ぎているのをみて、これまた30メートルのシュートを放った。このゴールキーパーの油断は、やはり厳しい試合に慣れていないせいだっただろう。 
 この2失点の場面を除けば、高知大の方が、いいサッカーをしていたと、ぼくは思う。

☆能力を生かすサッカー
 高知大の試合ぶりをみて、いろいろなことを考えた。
 一つは、ボール扱いのいい若者が至る所にいることである。高知大には、関西や九州からも学生が来てはいるが、国立大学だから優秀な選手ばかりを集めるわけにはいかない。それでも、みんなが、しっかりと自信を持ってボールを扱っている。これは少年サッカーの普及で、技術のある素材が全国のどこの地域にもいるからではないか。
 とはいえ、並みの選手ばかりでは 「いいチーム」は出来ない。核になる選手が必要である。 
 実は、高知大学には特別体育科があって、1年に1人だけは推薦入学で選手をとることが出来るらしい。もちろん高校のスター選手は、東京や大阪の有名校に行ってしまうが、宝石の原石を見分ける目があれば、1年1人の枠の中で「有名でない名選手」を入れることが出来る。 
 そういう核になる選手の能力を100%生かし、それによって他の選手の能力も十分に引き出すことが出来れば、高知大学のような活躍が出来るのではないかと考えた。 
 逆にいえば、高校の有名選手を推薦入学で、何人も入れている有名校は、何をやっているのか? ということでもある。 
 高知大が「こす辛いことを覚えれば、もっと強くなる」などというつもりはない。むしろ、のびのびと能力を発揮し、しかも規律あるサッカーをしている良さを、これからも伸ばして欲しいと思っている。


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