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サッカーマガジン 1990年3月号

いま充実!
ワールドカップを迎える
カルチョ・イタ〜リア!!
           (1/2)    

牛木素吉郎氏、現地でイタリア90組織委理事とイタリア・リーグ会長に特別インタビュー!!

  1990年はイタリアの年である。6月8日から1カ月間、この国で開かれるワールドカップで、イタリアは世界の中心になる。激動の欧州も中南米も、芸術とサッカーの国のお祭り騒ぎの間、一息入れるに違いない。
 地元のイタリア代表チームは、おそらく優勝候補の最右翼である。世界のスーパースターを集めたイタリアのプロ・リーグでもまれた選手たちの活躍が焦点になる。
 先ごろイタリアを訪れた機会に、イタリア・サッカーリーグのルチアーノ・ニッツォーラ会長とワールドカップ・イタリア90組織委員会のパオロ・カサリン競技担当理事にミラノでインタビューして、注目のワールドカップの準備とイタリアのサッカー事情について聞いてみた。
 プロ化をめざし、21世紀のはじめにワールドカップ開催をめざしている日本のサッカーにとって、いま世界の最先端を行くイタリアのサッカーの話は、もっとも参考になるのではないだろうか。

ワールドカップ・イタリア90
組織委員会競技担当理事 パオロ・カサリン氏

イタリア90はテクノロジーの大会

 ――ワールドカップの準備は順調でしょうか? 

カサリン(以下も敬称咯) 練習場、競技場の準備は、スケジュール通り進んでいます。組み合わせ抽選が行われる前に、12の会場都市とその周辺の150の町の宿舎、練習グラウンドなどをすべて網羅した案内書を作って、24チームにあらかじめ配りました。各国チームは、その中から自由に宿舎や練習グラウンドを選んで、現地での準備をすることが出来ます。練習場は、芝生のいいグラウンドがたくさんあります。便利なところがよければ、町の近くも選べるし、秘密練習をしたいと思えば、警備の行き届いた郊外を選ぶことも出来ます。

 ――競技場の工事が遅れているという報道がありましたが……。

カサリン そんなことはない。会場が12都市に分散していますから、それぞれに事情はありますが、すべてスケジュール通りです。ミラノ、ベローナ、ウディネ、ボローニャ、フィレンツェ、ジェノバ、ナポリ、カリャーリは、既設のいいスタジアムがあるので、それを手直しするだけで、内部の改装は終わっています。外側の駐車場や大会の期間中だけに臨時に必要な貴賓席、報道関係の施設の工事が残っているだけです。バリとトリノは新しいスタジアムを建設しましたが、これも間もなく、完成します。ローマのオリンピック・スタジアムとパレルモの競技場は、古いものなので大改装が必要でしたが、これも3月中には終わります。
 
 ――審判については?

カサリン すでにFIFAが40人を指名していますね。この40人が、3月にローマのCONI(イタリア・オリンピック委員会)のトレーニング・センターで体力テストと医学テストを受けます。6月1日に、南イタリアのグループを担当する20人がローマに、北イタリアのグループを担当する20人がミラノに集結します。審判の準備は難しいことはありません。私自身、審判員の出身で、12年間国際審判員を務め、欧州チャンピオンズ・カップの笛も吹いたし、スペインのワールドカップも経験しています。その経験を生かして、きっと満足してもらえると思いますよ。

 ――イタリア・ワールドカップの特徴は何でしょうか?

カサリン 全競技場あわせて260万人を収容するのですが、立見所を完全に追放し、全部座席になりました。これは、いままでのワールドカップではなかったことだと思います。全部の座席が指定席です。それに、ほとんどのスタジアムで観客席には屋根があります。警備がやりやすく、お客さんは安心して競技場に来ることができます。快適、安全なワールドカップを、第一の特徴にしたいと思いますね。

 ――現代のワールドカップは、競技場に来る人だけでなく、世界中のファンのことを考えなければならないと思いますが……。

カサリン その通りです。テレビの中継が地球の隅々にまで試合の様子を即時に伝えます。だから、世界中から集まる報道陣は、地元の大会と同じように、迅速、正確にニュースを送らなければなりません。そのために、今回はプレスセンターは競技塲のすぐ隣に大きなものを用意します。そこでは、大型コンピューター、パソコン、ビデオなどの最新機器を使ってプレス・サービスをします。FIFAのスポンサーのほかに、地元では、自動車はフィアット、航空会社はアリタリア、鉄道はFS、通信はオリベッティ、SET(通信衛星)、SIP(電話)が全面的に協力してくれます。というわけで、イタリア・ワールドカップの第二の特徴は、テクノロジーのワールドカップということでしょうね。

イタリアの戦いは組織委の注目の的

 ――イタリアらしい特徴は?

カサリン ワールドカップは世界の大会ですから、試合そのものにイタリアらしいものはありえません。そこで試合の前に、ショウなどを見てもらう計画をしています。イタリアは芸術の国ですからね。これは見てのお楽しみということになりますが、第三の特徴はショウだとだけ言っておきましょうか。有名な映画の監督に依頼して、会場の12都市を紹介する10分間くらいの、短い映画を作っています。これは試合の前にテレビで使うことも出来ます。世界中の人がいながらにして、イタリアの全会場を知ることが出来るわけです。

  ――運営でむずかしい問題は?

カサリン ワールドカップは、12の都市に分散して行われるので、全部の会場で同じような運営をするのが難しいと思います。それぞれの都市が、自分たちの特色を出して、いい大会にしようと努力しますが、一方で、世界各国から来るチームやファンや報道陣が、戸惑わないように、みな同じように待遇しなければなりません。そのバランスが難しいと思います。

 ――組織委員会では、どれくらいの人たちが働いていますか?

カサリン 準備期間中は、12都市で7000人が働いています。そのうち4000人は専任で、3000人はボランティアです。これは全国のサッカーの審判員の組織が役に立っています。全国にサッカーの審判員が3万人いるんです。その中には、有給のプロもいるし、ボランティアもいます。その人たちが動員されているわけです。国内のシーズンが終われば、もっと多くの人に協力を求めることが出来ます。

 ――入場券の売れ行きはどうですか。

カサリン 国内向けは組み合わせが決まる前に、ほぼ半分が売れました。指定の銀行(BNL−ラバロ・ナショナル銀行)で、現金引き替えで予約券を渡し、切符の現物は5月に引き替えます。開幕試合や決勝戦は、もちろん売り切れですが、会場ごとに3〜5試合セットにして売っている分も、最終的には、ほぼ売り切れるだろうと思います。最低10ドルから150ドルまでで、平均50ドル程度です。海外向けの切符は、ホテルとパッケージにして、ノバンタ(90)・ツアーという旅行会社を通じて、各国の旅行会社へ売り出されています。ホテルの値段があがるのが問題なので、ホテルの料金は、すでに凍結されています。報道陣のためには別に6千室確保してあります。
 ――大会の経費は?

カサリン 先ほどあげたイタリアの協賛各社は1社80億リラ(約600万ドル=約8億4千万円)ずつ出してくれています。これが合計で4500万ドル(約63億円)ほどになります。政府からの補助金は、400億リラ(約3億ドル=約420億円)です。既設のスタジアムの手直しを含めて、組織委員会の運営費はこれでまかなえる見込みです。他に入場料収入やFIFAが扱う協賛企業の広告収入、テレビ放映権収入などがあって、これは参加チームにも分配されます。

 ――地元イタリア代表の活躍の見通しは?

カサリン 地元が勝ち進めば、大会が盛り上がりますから、組織委員会としても無関心でいられませんね。いまのイタリア代表チームは、3年程前に新しいチームを作って、ワールドカップをめざしていっしょにやってきましたから、みな一つのチームのように仲良くなってチームワークはいい。すばらしいチームです。優勝の可能性も十分あると思います。選手の名前をあげると守りの中心のバレージがすごくいい。注目してほしいと思います。その他、ビアリ、ドナドニ、ゼンガなど、いい選手が揃っていますよ。


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