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サッカーマガジン 1989年3月号

第68回天皇杯全日本選手権レポート

日産、3年ぶり3度目の日本一
天皇杯から日本サッカーを考える  (2/2)   

外人選手の活躍が目立った
日本リーグが外人選手に頼っている現状を放置してもいいのだろうか?
 ベスト4に進出した日産、ヤマハ、フジタ、全日空、これに準々決勝で日産と引き分けた読売クラブを加えた5チームが、優勝を争う力を持っていた。いずれも今季の日本リーグの上位にいるチームである。今回の天皇杯は、今季の日本のサッカーの勢力分布を、そっくりそのまま結果に映し出していた。
 この上位5チームは、いずれも選手のほとんどをプロとして登録している。つまり日本のサッカーのプロ化への先陣を切っているチームである。
 この現象だけを見て「やはりプロにすれば強くなる」と言うのは、もとより早計だろう。保守的な会社チームのNKKや古河電工が頑張っていたのはつい先頃のことである。プロ化指向のチームの活躍は、たまたま、今季はそうなっているだけ、と言っておいた方が、無難かもしれない。 
 しかし、この5チームの活躍の原動力が外人選手であることは、まぎれもない。 
 ただし、外人の生かし方には、それぞれ違いがあった。 
 日産は、オスカーがチームにとけ込んで守りが安定している。ブラジルのワールドカップ代表だった大スターもすでに34歳、労働量は少なくなっているが、相手の攻めを読む的確な動きと、ボールをとったときの安定感、それに勝負を心得た駆け引きのうまさは貫ろくが違う。前線の木村和も、水沼も、長谷川もオスカーのおかげで守りに不安がないものだから、伸び伸びと個性を発揮している。大物外人が日本のスターを生かしているケースである。 
 読売クラブは、ちょっと事情が違う。ラモスが攻めでは1人で活躍したが、他のチームの外人選手と違ってラモスはブラジルではプロのスターではなかった。若いうちに日本に来て日本で育ち、いま監督をしているジョージ与那城といっしょにチーム全体を母国のカラーに染め上げてしまった。だから読売クは、外人選手のチームというよりも、チーム全体がブラジル風である。 
 外人選手だけを比べればワールドカップ選手のオスカーとサンパウロの少年サッカーから来たラモスでは格が違いすぎる。 
 しかし、準々決勝で対戦したこの両者の試合は、読売クの方がボールを支配して優勢だった。後半21分に三浦−湯田とつないで揺さぶってゴール。これが決勝点になるのではないかと思われた。 
 日産が同点にしたときは、手元の時計ではすでに90分を3分近く過ぎていた。読売クラブがリードした後、逃げ切りを策して時間稼ぎをするのを主審が神経質に注意して、ロスタイムをとったためである。 
 日産の最後の攻めと思われた水沼の攻め込みに対してラモスがファウル。右45度の絶好の位置からのフリーキックを木村和がけり、オスカーが完全無欠のヘディングで決めて延長に持ち込み、日産がPK戦で勝ち上がった。オスカーのキャリアがラモスの奮戦に勝った結果になった。 
 準決勝の2試合は、毛色の変わった外人対決だった。
 日産−ヤマハはブラジル対決。このカードはリーグ戦でもめごとを起こしているが、この試合も荒っぽかった。とくにヤマハのアディウソンが、しつこく抗議をするのはスタンドから見ていて愉快でない。ヤマハの関係者が、試合の後で報道陣に対して「審判がひどい」と不満を述べていたが、審判よりも選手のマナーの方がひどかった。日本のサッカーや審判をなめているような気持が、外人選手にあるのであれば、困ったものである。 
 試合は51分の1点で日産の辛勝。これもオスカーの貫ろくの守りがヤマハの攻めをしのいだ感じだった。 
 もう一つの準決勝、フジタ−全日空はイングランド対アルゼンチンである。 
 この二つのチームが、それぞれブラジル以外の新しい国から外人を連れてきたのは面白い。とくにフジタの石井義信監督が、日本のサッカーに新しい風を入れようという狙いで、コーチともども、イギリスのサッカーの良いところを取り入れようとしているのは、意欲的な狙いである。ただし、現在のところは両チームとも、攻守のかなめに外人を配して、外人に頼った試合をしている。 
 この試合は幕切れに波乱があった。1対1で延長になりそうな状況だったが、この試合も主審がロスタイムを取り、手元の時計では91分になったときにフジタがハインズのドリブルシュートで決勝点を上げた。後半の半ばごろに負傷者が担架で運び出される出来事があったから、このロスタイムは当然だっただろう。 
 ところが、その直後に今度は全日空がゴールした。いや、ゴールしたように見えた。右のコーナーキックからホルヘがヘディング、ポストに当たってはね返ったのをモネールがけり込んでボールはゴールにはいった。しかし最初のシュートの直後に主審が試合終了の笛を吹いて、この同点ゴールは幻に終わった。 
 試合の後で全日空の監督が、報道陣に対して「一連のプレーが終わってから笛を吹くのが常識だ」と不満を述べていた。しかし、これは常識ではない。主審は、自分の時計で時間がくれば笛を吹くのが当然である。ロスタイムをどれだけ見るのかは、主審の専権に属している。監督さんは専門家なのだから、報道陣を惑わすような発言は慎んでもらいたい。
 ところで外人の活躍が目立つのは、円高ドル安のせいで、外国からトップクラスの選手が来るようになったからだろう。読売クラブの場合は、選手のラモスはそうではないが、特別コーチのジノ・サニは、かつてペレとともにワールドカップに出場し、指導者としても数々の優勝歴をもつ有名人である。 
 これほど外人が活躍すると「外人に頼って日本の選手が伸びないんじゃないか」という心配が出て来る。 
 ただし、この国際化の時代に外人選手の締め出しを計るのは無理というものだ。むしろ日本のサッカーに凝り固まらずに、それぞれのチームが、それぞれの企業努力で、いろいろな風を入れて、それを日本のサッカーに役立てるようにした方がいい。 
 そういう意味では、日産のオスカーは、チームを伸ばし、日本選手に新しい可能性を与えている点で一番、成功している。 
 外人を3人に制限しているのも、いまのところ適当だろう。 
 とはいえ、日本人だけのタイトルも一つはあっていい。JSLカップを、外人選手抜きの大会にしてはどうだろうかと考えた。

筑波大は善戦だったか?
大学が日本リーグに勝てないのはやむをえないが、内容に問題がある!
 天皇杯の決勝大会出場は32チーム。日本リーグ1部12チームは地域大会を経ないで出場し、残り20チームが地域大会を経て出て来る。今回、地域大会から出てきた20チームのうち大学は7チーム、その中で2回戦に進出したのは、初戦で北信越のYKKと当たった駒沢大だけだった。
 スコアをみると大商大は新日鉄と競り合って4対3の1点差、同志社大は日本リーグ1部の住友金属と延長のすえ2対1の点差と惜敗もある。1回戦は各地に分散して行われるので、試合を見ることは出来なかったが、内容はどんなものだったのだろうか。
 横浜の三ツ沢球技場で行われた日産対筑波大の試合は2対0だった。これを「筑波大の善戦」と書いている新聞もあった。おそらく試合の後で日産の加茂監督が「いやあ、大健闘されました」と言ったのを真に受けたのだろうが、内容は筑波大の松本光弘部長が「完敗でした」と話した方が当たっていた。
 筑波大はテクニックのある選手を揃えている。日本代表のスイーパーの井原正己、全日空入りが決まっている田口禎則がよく守っていたし、攻めでは読売クラブ入りする鋤柄昌宏が独特のドリブルの突破を見せていた。体力的にもよく鍛えられていて、大学勢の中ではいいチームであることは間違いない。
 立ち上がりは乱暴なくらい激しい当たりで日本リーグで連勝を続けている大物を倒そうという意気込みも見せていた。しかし、前半のシュートは0である。
 よく走るし、ボールをつなぐこともできる。しかし敵のゴール前へ行くまでにボールは日産の守りの網に、からめとられてしまう。日産の守りが巧みだといえば、それまでだが、筑波の攻めにも問題があった。
 ボールを味方が取ってドリブル始めたとき、前線でパスを受けようと前へ走り出る選手はいるのだが、ボールをキープしている選手に近づいて助けによる選手がいない。そのために、ドリブルをしている選手は敵に囲まれ、前方に大きく出すほかにパスのコースがなくそのパスも相手に読まれて横取りされてしまう。
 もちろん、これは大げさな書き方だが、日産に比べると攻めの組み立てが、いかにも単調だった。
 筑波大は、いい環境に恵まれ、優れた指導者をたくさん持っている。にもかかわらず、個人の戦術能力が十分に開発されていないのは、なぜだろうか、と考えた。考えられる一つの原因は、筑波大の指導者が、筑波からしか出ないことである。
 筑波大の監督、コーチになる人は皆、筑波大の出身者であり、筑波大の先生である。外の空気がはいって来ることがない。
 そのために、一生懸命努力しても、自分たちが慣れ親しんだ考えの外に出ることがなかなか難しい。それが大学のサッカーの枠を破れない原因ではないだろうか。
 日本リーグのチームでも、会社チームでは同じようなことがある。監督、コーチは同じ企業の中から選ばれよそから来ることはまれである。
 しかし、現在の日本リーグの上位チームは、外国から選手を呼んだり、コーチを招いたりしている。
 日本のチームの間での監督、コーチや選手の移動も、まだ限られた範囲ではあるが、行われるようになってきた。
 プロ指向のチームと大学や会社チームとの差は、こうして次第に大きくなって行くのではないだろうか。
 もちろん、大学チームには、年齢の制約がある。18歳から22歳くらいまでの選手だけで構成するチームが、年齢制限なしのチームに対抗するのは、はじめから無理がある。筑波大が日本リーグの上位チームに勝とうと思うなら、大学サッカーの制度そのものを変えなければ無理かもしれない。
 しかし、それにしても日本の大学のトップレベルにいる筑波大の型にはまったサッカーは、芸がなさすぎるのではないかと思った。
 この筑波大対日産の前に同じ三ツ沢競技場でヤンマー対札幌大があった。これは8対1の大差だった。
 しかし、実はこっちの試合の方が、ずっと面白かった。
 始まって2分にコーナーキックのセットプレーでいきなり点を取られたのは、こういうプレーに慣れていない地方の大学チームにとっては気の毒だったが、それでも、めげずによく頑張った。
 面白かったのは、守備ラインを思い切って前へ上げるオランダばりの集中守備を試みて、前半はかなり成功していたことである。
 大差になったのは後半はじめの連続失点でゴールキーパーが、がっくりしてしまったためだった。 
 ともあれ、大学のサッカーをどうしたらよいかは、関係者が思い切った発想の転換を試みて考えなければならない。そうでなければ、日本のサッカーのレベルは、いつまでたっても上がらないだろうと思う。

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