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サッカーマガジン 1982年2月号

フラメンゴが圧勝。世界一の座に
リバプールはいいところなし
頼みのダルグリッシュも不発に終わる   (1/2)

 プロサッカーの世界一は、南米ブラジルのフラメンゴだった。12月13日、東京の国立競技場で行われた世界クラブ選手権トヨタ・ヨーロッパ・サウスアメリカ・カップは、南米代表リオデジャネイロのフラメンゴが、欧州代表リバプール(イングランド)を3−0で破って、初のカップを手にした。南米代表のタイトルは4回連続、過去20回のうち12回、南米の勝利となった。
 試合は一方的だったが、天才ジーコの多彩なひらめきを軸にしたフラメンゴのサッカーが6万2千の観衆を魅了し、前回にまさる大成功だった。「最優秀選手」には、3ゴールすべての起点になったジーコが選ばれ、新たに設けられた「足のいいやつ賞」は、2ゴールをあげたヌネスに与えられた。

最優秀選手賞はジーコが獲得
 黄金に輝く伝統のインターコンチネンタル・カップを受け取ると、ジーコは、そっとくちびるを寄せてキスをした。世界一の喜びが、そのつつましい仕草に、精一杯に表現されていた。
 バックスタンドでは、赤と黒の応援旗1千本が打ちふられ「メンゴー」「メンゴー」の大合唱だ。
 トヨタ・セリカが贈られる最優秀選手賞が「ジーコ」と発表されるとまた、割れるような拍手と歓声。ジーコは、なんだかすまなさそうな顏をして、チームメート一人ひとりに握手してありがとうをいい、頭をたたかれて祝福を受けた。
 「勝利はみんなの力です。サッカーでもっとも重要なことの一つは、まわりに、いい選手がいることですから……」
 試合後の記者会見でも、ジーコは謙虚にチームメートを立てていた。 
 だが、フラメンゴのエースがジーコであり、この日の勝利の立役者がジーコであることに、だれも異存はないだろう。
 暖かい日和に恵まれて正午キックオフ。立ち上がりは、どちらも慎重なプレーぶりだった。タイトルをかけた大事な試合では、最初の15分間は無理をせずに相手の出方を見るのが、ふつうのやり方である。 
 リバプールは、4−4−2の布陣で、4人の守備ラインの前に、中盤の4人が下がってきて、もう一つ守備ラインを作った感じで守りの網を張っていた。ジーコが前線に攻め込んできたら、網をしぼって抑え込もうというわけである。 
 だが、フラメンゴは、その裏をかいた。ジーコは無理に前へ出ようとせずに、中盤深く下がってくる。そして、相手の守りの網の外側で、最初の仕事をした。 
 12分。中盤ハーフライン付近でパスを受けたジーコは、相手の守備ラインの裏側へ浮き球の縦パスを送った。守備ラインとゴールキーパーのちょうど中間に落ちる絶妙のパスだった。ただ一人、前線に残っていたヌネスが走り出て独走シュート。フラメンゴの1点目がはいった。 
 リバプールの守備は、二重のラインになってはいたが、横一線だった。そのラインが、ジーコたちが下がっていくのにつられて、そのまま前へ出かかっていた。そのために、ゴールキーパーとの間にスペースがあいていた。それを見逃さずに、その間にパスを落としたジーコの判断と、その判断を以心伝心で感じとって走り出た、ヌネスの動きがぴたりと合っていた。  

前半で勝負あり後半は無理せず
 15分たたないうちに、弱点をぐさりとついた。その1点が、フラメンゴの完勝、リバプールの完敗の原因になった。
 リバプールは、出鼻をたたかれて闘志をくじかれただけではない。早ばやと1点を取られたために、攻めに出なくてはならなくなり、守りの網をしぼるのが、難しくなった。今度はジーコが、前線に進出するチャンスが生まれて来た。
 33分の2点目は、ブラジルのお家芸である、ゴール正面からのフリーキックである。 
 ま正面、約25メートル。リバプールは守りの壁を作った。守る側から見て、左側に4人を並べて、片側のコースをふさぎ、あいている右側をゴールキーパーが守る。さらに、そのサイドのポストの外側に、2人を立てた。
 これは、左右とも壁の外側を、カーブで巻いてすみへ来るキックに備えたものだろう。 
 左側の4人の壁と、右外の2人の壁の間に、フラメンゴのヌネスがはいりこんで、ゴールキーパーのボールへの視野をふさいだ。そしてジーコがキックする瞬間に外側へ逃げた。ジーコは、低いゴロの強烈なキックでそのあとを打ち抜いて、ゴールキーパーの正面にたたきつけた。
 ゴールキーパーが胸に当てて前へ落としたのを、リコが走り込んでシュート、もう一度はね返ったのを、今度はアジリオが押し込んだ。 
 守る方には、壁を巻いてカーブしてくる、ブラジル得意のキックに対する強い警戒心があった。ジーコの低い強キックは、その裏をかいて、ゴールキーパーのファンブルを誘った。 
 3点目は、またもジーコの絶妙の縦パスである。 
 41分、ジーコが右サイドへ縦に出し、ヌネスがオフサイドぎりぎりのところで抜け出した。ドリブルで進み、相手のディフェンダーが内側から追ってきて、タックルしようという寸前でシュート。ゴールキーパーが出かかっていた逆をついて、遠い方のすみに決めた。試合のあとの記者会見でジーコは「あのゴールはヌネスのテクニックをほめるべきだ」と話していた。 
 3−0になって、勝負は前半で決まったようなものである。 
 後半のフラメンゴは、もう無理をする必要はなく、リバプールの反撃を危なげなく防いだ。 
 長身のセンターバックのマリーニョとモゼルの動きがよく、高いボールもヘディングでほとんど抑えた。

 


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