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サッカーマガジン 1977年5月25日号

二宮・全日本監督に新生全日本の構想をきく
モスクワを目ざして燃えあがれ!
   (2/2)   

釜本はどうなるのか 
牛木 トップは永井、奥寺だけど、フィニッシュに決定的な破壊力のあるストライカーが欲しいね。そこで釜本の問題なんだが、代表チームからは退くという話も根強い。そこのところをぜひ聞きたい。 

二宮 ええ。釜本とは、この1年間つき合ってきて、ぼくが完全に彼を理解しているかどうかはわからないけど、次のように思っている。第一に彼は本当にサッカーが好きな男だということ、第二に日本のサッカーに対して非常に情熱をもっているということ。だから日本のサッカーを強くしたいと真剣に考えている。そのために自分自身が必要かどうかと……。

牛木 そこに釜本の悩みがあるし、日本のサッカーの悩みがある。

二宮 それから彼は、いい意味で負けず嫌いだ。いい意味でのプライドをもっている。しかも頭がいいから、いろいろなことを総合して幅広くものを考える。そういうようなわけで、いまの釜本の心境としては「若手になんとか自分を追い越してもらいたい」というのが一つ、本心だろうと思う。しかし同時に「あいつらに負けられるか」という気持もあるだろう。この二つの気持が交錯して結論的ないい方をすれば、若手に対するはがゆさがあると思う。 

牛木 日本のサッカーの課題は、釜本を追い抜く若手が出てくることだから、釜本の考えと日本のサッカーの利害はまったく同じわけだ。 

二宮 そこでいま釜本に「いま若手が伸びてこないから、もう1、2年がんばってくれ」というようなもののいい方をするのはバカげている。若手をなんとか、この1年くらいのうちにメドをつけなければならないが、そうしたうえで、それを確固たるものにするために、ここで釜本にもうひと味加えてほしい。そういう意味で釜本に、さらに一役買ってもらいたい。そういうことでないと、釜本自身も納得したものにならないだろう。 

牛木 というのは、釜本にコーチ兼選手というような立場にいてほしいということだろうか? 

二宮 ここで代表チームから引退すると結論づける時ではないと思う。この1年くらいのうちに、若手ないし中堅に見通しをつけなければならない。釜本を追い越す選手が出てくるのは、まだ夢物語だけれども、はがゆさが消えるくらいのところまで一人前にしなかったら、日本代表として納得できるチーム編成にならない。いままでも実際にそうなんだけど、この夏のヨーロッパ遠征にコーチ役のようなことで行ってもらうことができるだろうと思っている。 

牛木 釜本自身は疲れを感じているのではないだろうか?

二宮 もちろんヤンマーの試合、日本代表の親善試合、強化のためのスケジュール、タイトルをかけた試合、と全部につき合っていたらたいへんだろう。タラタラとやっていくのはだめで、充実した選手生活を送るべきだろう。だから何にでも釜本を引っぱり出すということじゃない。国際試合で釜本が出ないことがあっても、けっしてわがままじゃない。しかし、いま結論を急ぐ必要はない。  

かっと目を見開いて 
牛木 
ところで今回ワールドカップ予選で使った顔ぶれの中から、釜本以外のベテラン選手は退いて、若手が多くなるだろうと思うが、新たに若い人を加える可能性はあるだろうか。 

二宮 それはもう十分にありますよ。夏のヨーロッパ遠征には、マラハリム・カップに出たBチームの中からも、テヘランのアジア・ユース大会に出たチームからも新しい人を加えたい。テヘランのユース大会をわざわざ見に行くのも、そのためですよ。 

牛木 マラハリム・カップに行った鎌田監督は、GKの佐藤(古河)と前のほうでは堀井(ヤンマー)がいいといっていたね。ボールが渡ったときに、相手にボールをとられる心配がないと、安心して見ていられるのは、まず堀井だといっていた。日本代表の候補ぐらいになって、いまだにボールをもてるか、もてないかが基準になっているようでは心細い。ボールをもつテクニックはみなもっていて、体力や戦術的能力で差がつくくらい層が厚くなきゃあという意見もあるけどね。 

二宮 技術、体力、戦術といってもサッカーという競技を通じて、試合の中で使える能力でないと困るんですよ。西ドイツへ行って合宿しているときに、アマチュアの強いチームとやってわれわれは完勝したんですよ。そのチームは一流のプロとやっても、いい勝負をするチームです。ところが、われわれは、プロのトップクラス、たとえば1FCケルンに歯が立たない。日本には、まだ本当に自分自身のものをもっている選手が少ない。そういう選手はオール・オア・ナッシングで、弱い相手には力を出せるが、ぐんぐんプレッシャーをかけられるとなにもできない。きちっとボールを扱えること、個人の戦術能力に、まだ大きな差がある。 

牛木 そういう能力をどうやって身につけさせるかだけど。 

二宮 一つは国際経験、一つはふだんのトレーニングで、両面作戦じゃないといけないでしょう。日本代表チームとしてのトレーニングはほとんど2対2、3対3、あるいはスモールゲームでの、実戦的な対敵動作のはいった練習です。

牛木 若い田嶋とか碓井とかは、国際試合でのプレッシャーをはね返せる選手に育ってもらわないとね。 

二宮 釜本がゴール前でせっている写真集とか、釜本の足の傷の拡大写真を作って、みんなに配りたいくらいのもんですよ。ストライカーというのは、こういうもんだってことがわかると思いますよ。釜本がゴール前でせり合っているとき、かっと目を見開いている表情は根性まる出しですよ。相手は身を挺して守ってくる。足をけずられるくらいの覚悟はいりますよ。それをはね返して、相手を踏んづけてでもゴールをねらう気迫と技術が必要だ。目のらんらんとした輝きが違う。これは守るほうにだっていえることで、ゴール前のピンチに眠ったような目をしているようではダメだ。 

牛木 モスクワ予選までには、まだ十分に時間がある。いまユースくらいの選手でも代表になる可能性は十分にあるんだから、現在はちょろちょろと出はじめた程度の希望でも、2年後には大きく燃えひろがらせることができるはずだ。がんばってください。

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