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サッカーマガジン 1977年5月10日号
時評 サッカージャーナル

あまり知られていないこと

 知っているようで知らないことがあるし、わかってもらえているようで案外理解されていないことがある。そういう話の中から、近ごろ気のついたことを、いくつか拾って紹介しておこう。

最優秀選手とは
 1976年度の年間最優秀選手に古河電工の永井良和君が選ばれた。このことは先刻、ご承知のとおりである。
 この「最優秀選手」は全国のサッカー担当記者の投票で決め、記者会からトロフィーを贈るものでサッカー協会が表彰するものではない。このことが案外、知られていない。新聞記者の中にさえ知らない人がいて「サッカー協会が最優秀選手を発表した」という記事が出たこともある。これは間違いである。
 ところで今回の投票では永井君が42票を集め、次点はヤンマーの釜本邦茂君の33票だった。この数字を見て、ぼくは釜本君に集まった票数の多いのに驚いた。そして「ははあ、これは最優秀選手という呼び方のせいだな」と気がついた。
 14年前にこの投票をはじめたころは、「日本のフットボーラー・オブ・ザ・イヤーにあたる優秀選手を選ぶ」という説明を加えてあった。関西の大谷四郎氏や賀川浩氏の意見で、わざと“優秀選手”という言葉を使い、“最”の字をつけなかったのである。しかし、どうも言葉のすわりが悪いので、いつの間にか「最優秀」に定着してしまったようである。
 イングランドの「フットボーラー・オブ・ザ・イヤー」にあたるものであれば「そのシーズンを代表するような活躍をしたサッカー選手」ということになるだろうと思う。今回の場合、日本代表チームには目ざましい業績はなかったから、古河電工の2冠獲得の花形として話題になる活躍をみせた永井君が「その年を代表した選手」に選ばれたのは当然である。
 しかし、永井君と釜本君とを比較して、どちらがサッカー選手として“最優秀”であるかとなると話は違ってくる。そういう基準で選ぶと日本の現状では、毎年、毎年、釜本君を表彰しなくてはならないかもしれない。
 釜本君に多くの票が集まったのは「最優秀選手」という名称にも原因があるのではないだろうか。

静岡学園への評価
 昨シーズンの話題の選手が永井君だったとして、話題の“チーム”を選べ、といわれたら、ぼくは古河電工ではなく、全国高校選手権で決勝に進出した静岡学園に一票を投じたい。「キックとスピード」ばかりを強調するチームが多い中で「もっとドリブルをしろ」「もっとゆりくり攻めろ」といい続けてきた井田監督のユニークなチームづくりは、大げさにいえば日本のサッカーの歴史を変えるものになる可能性を秘めていた。
 この静岡学園のサッカーに対する評価も、あまり知られていないことの一つではないだろうか。
 日本サッカー協会の公認コーチたちが集まって「コーチャーズ・アソシエーション」という連絡組織をつくり「SCA」という機関誌を出している。その第3号に高校選手権についての座談会が掲載されているが、日本の有名な指導者が静岡学園のサッカーをどう見ているかが浮き彫りにされていておもしろい。非常に素人くさい編集の雑誌で、14ページにわたる座談会に小見出しが一つもない、という調子だけど、それだけに出席者の考えをナマの形で知ることができる。
 静岡学園のサッカーのプラスの面を話題にして前向きの評価をしている人が多いのだが、その評価の仕方には、かなりニュアンスの違いがある。日立の高橋英辰氏などは「静岡学園のやり方は非常に示唆に富んでいる」と述べているが、なかには井田監督のねらいをよく理解していないんじゃないかと思われるような発言もある。
 それはそれで悪くない。いろいろな意見を交換して理解が深まるものだからである。ただ残念なのは、この座談会の掲載されているのは、限られたグループのための機関誌だということだ。情報はできるだけ多くの人に行きわたるようにし、また多くの人が自由に手に入れられるようにしてこそ役に立つ。
 静岡学園のサッカーについての討論を、サッカー協会の広報雑誌でとりあげられるようになれば、すばらしいと思う。

日本サッカー後援会
 昨年の暮れに「日本サッカー後援会」が発足したのは、知っている人も多いだろうと思う。年間会費法人5万円、個人1万円で、日本サッカー協会の財政を援助しようという組織である。
 日本のサッカーを援助するための会であるがら、まず協会の加盟のチームを通じて入会を呼びかけるのが当然である。ぼくのところにも、出身校のサッカー部から、OBへの入会呼びかけがくるかと思って心待ちにしていたがこなかった。そのうち年度末が近づいだから、やむをえず、自分で協会の事務局へ行って入会申込みをした。後援会についても、一般には案外、知られていないんじゃないだろうか。  
 後援会の会員証には英文で「ジャパン・サッカー・サポーターズ・クラブ」と印刷してあった。
 イギリスで「サポーターズ・クラブ」といえばふつう、ファンの会のことである。プロの各チームごとに、アーセナルやスパーズの「サポーダーズ・クラブ」がある。募金のための団体に、この英語の名称はにあわないような気がしたが「英国人にもきいてみたけど、これでいいといった」とのことだった。本当にこれでいいのかどうか、だれか教えてください。


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