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サッカーマガジン 1977年5月25日号

二宮・全日本監督に新生全日本の構想をきく
モスクワを目ざして燃えあがれ!
   (1/2)   

 日本代表チームの次の目標は、モスクワ・オリンピック予選だ。そしてそれは、1年前に就任した二宮寛監督の定めたチームづくりの最終目標である。 
 ワールドカップ予選を終わるまでのこの1年間はいわば“二宮全日本”の試運転であったといっていい。試運転の結果によって古い部品をとりかえ、設計を変更し、次の2年のうちに新しいチームを完成させなければならない。 
 モスクワ・オリンピック予選に臨む日本代表チームは、おそらく現在は25歳以下の若い選手で構成されることになるだろう。それはどういう顔ぶれだろうか? そのとき釜本は? テヘランのユース大会を見に行く直前の二宮監督をつかまえて胸のうちを聞いてみた。   

1年前と変わったか? 
牛木 ワールドカップ予選の結果は残念だったけど、二宮監督にとってこれは初めてのタイトルをかけた試合だったし、チームを引き受けて1年足らずだから、結果はやむをえなかったと思う。それよりも、次のタイトルマッチであり、二宮全日本にとっての目標であるモスクワ・オリンピック予選に向かって日本代表チームをどうつくっていくかという今後の抱負を聞きたい。  

二宮 モスクワ・オリンピック予選の前に来年はアジア競技大会がありますね。このアジア大会はどうなんですか? できそうなんですか? 

牛木 うーん。いまむずかしいところでね。現在のところはタイのバンコクで開催することになっているんだけど、参加各国が開催費の一部をそれぞれ分担して寄付する約束がある。この寄付がなかなか集まらないんで、タイのほうがお金がこなければやらないといっている。だから中止になる可能性もある。見通しをつけにくい状態なんだけど、開催されるとすれば来年の12月だね。  

二宮 オリンピック予選よりも前になるわけですよね。  

牛木 多分ね。だけどアジア大会があるかないかで、オリンピック予選への取り組み方が違ってくるの? 

二宮 違うと思いますね。アジア大会があるとなれば、これも無視できない。これからの日本代表チームの強化は、今年の夏と来年の夏のヨーロッパでの長期合同トレーニングが骨になると思うんですが、来年の後半にアジア大会があるとすれば、そこでアジアのタイトルをとれるだけの力をつけることに目標を定めなきゃいけないでしょう。アジアで勝てないでオリンピックを目ざすというわけにはいかんでしょう。 

牛木 モスクワ予選の組み合わせがどうなるかは、来年にならないとわからないが、オリンピックにはアジア・オセアニアから3チーム出られる。組み合わせによっては、オリンピック予選よりもアジア大会のほうがきびしい試合になるだろうな。それはそれとして、とりあえずワールドカップ予選の結果を踏まえて、これからの日本代表チームは……。 

二宮 その前に、こっちからお聞きしたいんだけど、牛木さんなんかは、最近の日本代表チームをどうご覧になっていますか。1年前と変わったところがあると思いますか。

牛木 うーん、どう見てるかといわれてもなにしろワールドカップ予選で、ぼくたちが見ることのできたのは日本と韓国の1試合だけだったからね。選手一人ひとりのことはよくわからないのが正直なところだけど…。ただ戦力としては、以前にくらべて目立って上がっているとは思えないね。しかし、やり方やチームのムードは変わってきた。これは一つは二宮監督の個性がかなり出ているということで、たとえば選手の使い方にしても、昨年のムルデカ大会以来、藤島を守備的ハーフにして中盤の底で使ったり、釜本を第二線に下げたり、今度のワールドカップ予選で落合をスイーパーに使ったようなところに、二宮らしさというか、監督の才気を感じたな。結果が良かったかどうかは別だけど。 

二宮 ふーん。 

牛木 それからチームのムードでいえば、選手の個性が、のびのびと発揮される傾向が見えてきた。ムルデカ大会の得点王になった奥寺なんかそうだし、最優秀選手に選ばれた永井でも、表彰は古河での活躍が対象になって受けたわけだけれども、日本代表チームの中でも長所が生かされて活躍しているように思う。まあフォワードや中盤の選手は、こういうふうに目につくんだけど、守備ラインのほうはよくわからない。落合をスイーパーにまわしたところなんかに、実は不安が隠されてたんじゃないかと思っていたんだが…。  

守りに手がかりができた
二宮 
ちょっと今のお話とは裏腹になるかと思いますが、ぼくは守備のほうは手がかりが見えてきたような手応えなんですよ。正直いうと、1年前に日本代表チームを引き受けたときには、どこから手をつけていいのかわからない状態だった。大部分の選手は、もうかなりの年齢になっている。これを若手に切りかえるのに、どうやっていくのか非常に問題だった。だけど1年たった現在は、これから3年ないし5年先のことを考えたとき、ディフェンダーのほうには見通しがついてきた、という気がちょっくらする。 

牛木 なるほど。具体的にいうとどういう選手が? 

二宮 たとえば今度のワールドカップ予選シリーズで、はっきりと成長を示したのは石井ですよ。ヨーロッパヘ行ってやった西ドイツのプロとの試合でも、韓国、イスラエルとの試合でも、かなり守備力がついてきた。それから清雲は、昨年までの力では、相手を抑えきるストッパーにはなれないと思われた。それで、ムルデカ大会でも試合には使わないで外から見させて勉強させた。これが良かったと思う。いまは応対に幅が出てきた。がむしゃらだけでなくて、粘っこい守りができるようになった。斉藤は応対という面では、いちばんやれる選手だし、横谷あたりも自分の課題をつかんだという感じ。藤島も問題点は多いにしても、ディフェンス面でやれる男ですよ。こういうふうに、ちょこ、ちょこと、後のほうではやれそうな選手が動き出した。これがこの1年の大きな変化だと思う。守備ラインに、ちょっととっかかりができてきた。 

牛木 若い選手が伸びてきたのは明るい材料だね。だけどスイーパーはどうなの。ワールドカップ予選では落合をまわしたけれど、彼は31歳で、もうこれからの選手ではない。それに、たしかに落合をスイーパーにまわしたのはアイデアだったけど、実際の試合では、そのための弱点も出たんじゃないだろうか? 

二宮 それはね。まだ、ちょろ、ちょろと手がかりが見えたという程度ですから……。やりくり算段をして、使える選手をかぞえるときに、前は片手の5本の指で十分かぞえられたものが、いまやっと両手が必要になったというところですから……。まあリベロの問題にしても、もしかしたら横谷あたりが将来は役に立つかもしれないという希望はある。ボールはきちっともてるし、足も速いから、中盤の底ぐらいをどんどん経験していけば、2、3年先のリベロとして考えられるんじゃないか。1対1になって絶対に抜かれないような勉強をしていかなければならないが、日本代表チームのリベロの候補者の1人といえますよ。  

中盤の西野への期待
牛木 
中盤では、ワールドカップ予選で西野を終始使っていたね。イスラエルで釜本が負傷でフルに出られなかったためもあるだろうけれど……。

二宮 故障者がいたから穴埋めに使ったということではないんですよ。どんどん使い込んでいきながら成長させなければと思っているんです。 

牛木 西野は高校生のときから将来を期待された素材だけれど、中途半端に日本代表にはいったり、はずされたりしていたね。使うべきかどうか、議論の分かれる選手だった。 

二宮 ぼくは、どんどん使っていくべきだという考えです。かけがえのない素質をもっているんだから。使い込みながら、きびしい要求にこたえられるように育ってくることを期待したい。 

牛木 そうだね。 

二宮 西野に対して、もっとディフェンスをがんばってくれ、というような要求が、チームの中から出るんですよ。それはまあ当然なんですね。ただ、この間チームを解散するときに、次に5月に集まるときまでに、自分のチームに帰って何を勉強してくるつもりか、ということを一人ひとり呼んできいたんです。そしたら西野が「ディフェンスを勉強してきたい」という。 

牛木 なるほど。 

二宮 そこで、「それは違うんじゃないか」といったんだ。西野に期待しているのは最終的には、中盤でしっかりボールがもてて、いいパスがさばけて、そしてそれがフィニッシュにつながることなんだ。そういう能力に期待してるんだ。そこんところを考えてほしい。たしかに今度のワールドカップ予選で西野はよくやってくれた。期待以上だった。しかし半面、考えてみろ。いったい何本シュートしたんだ? 何点とったんだ? 西野のパスからいくつの得点が生まれたんだ? 

牛木 それはないよ。日本は1点もとらなかったんだから。 

二宮 大きな問題は、まず自分の好きなこと、得意なことで、どれだけやれたかなんだ。それに早稲田大学のチームに戻って、そういっちゃなんだけど、どれだけディフェンスの効果的な練習ができるだろうか。 

牛木 相手がヘボじゃ練習にならない? 

二宮 まあ、しかし、1人をはずしてシュート、というような練習なら早稲田の中でもできるだろう、とこういったわけです。 

牛木 特徴を殺したらなんにもならないからね。 

二宮 日本代表選手として、ディフェンスができなくては話にならないし、そのことを頭から離してはいけないが、それにしても、自分自身のプレーをつくり出すことが第一である。西野に行けばシュート、それは必ずゴールのワクに向かって飛ぶというような選手になってほしい。そこんところを混同しないでもらいたい。 

牛木 韓国との試合で、西野はタックルされるとすぐ転んでいたね。 

二宮 あとでテレビのビデオを見せて検討させたんですよ。いつも同じようにひっかけられて転んでいる。 

牛木 二度あることは三度ある? 

二宮 勝負はそれでは困るんで、二度とその手は食わない、というようじゃなくては……。筋力も鍛えなくてはいけないが、ボールのもち方でね。相手を引き寄せすぎるんですよ。彼のスケールからいえば、間合いをスケールアップすれば、パスを出せるところが、もっとたくさん出てくる。試合をやらせながら、それを学ばせてやりたい。イスラエルとの試合では、あれだけのプレッシャーをかけられながら2人、3人をキュッ、キュッとはずしていったプレーをやったですよ。やれば能力はあるんだけど、ふだんの練習のスケールでは国際試合では通じない。そこのところを頭の中に入れておいてもらいたい。 

牛木 中盤で他の若手は? 

二宮 前田には、自分のスケールをひろげるサッカーを考えてもらいたい。パスしたあとの動きが小さいが、大きく引っぱって、30メートルくらい走って、そこで方向を変えたところでボールをもらう、というような工夫をしてほしい。機敏でスタミナがあるから使える可能性がある。  


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