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サッカーマガジン 1977年3月25日号

'76〜'77日本リーグ総評
古河初優勝の原動力は?
“スピードと激しさ”の本当の意味!!
   (2/2)   

寂しい試合内容に終わった3強
 日本リーグの総評にしては、古河のことばかり書きすぎるようだが、もう一言だけ書かせてもらおう。「激しさ」についても、永井は古河の象徴的存在だったように思う。古河の調子のいいときには、永井のディフェンス面での意欲が目についた。西ドイツのゲルト・ミュラーが、自分のとられたボールを追って自陣のゴール前まで戻って取り返した場面を、ワールドカップで見たことがあるが、そういう意地は激しさの原点だと思う。 
 永井がミュラーと同じような意地をみせたプレーを、今季の日本リーグでは見ることができた。 
 永井だけではないが、古河がこのように選手の個性をのびのびと発揮させながら、「スピードと激しさ」というチームの個性を打ち出したところに、今季の最大の収穫があり、未来への芽があるといいたい。 
 もちろん、一方には3強といわれた日立、三菱、ヤンマーの不振のために古河が浮かび上がったという見方もある。古河は三菱に1敗したほかは上位チームには負けていないのだから、かならずしも3強の不振に救われたとばかりはいえないのだが、3強の試合内容に寂しいものがあったのは事実である。 
 碓井、高林の2新人を加えて期待されていた日立は、天皇杯のための中断直前には首位に立っていながら、1月中旬の再開後、坂を転げ落ちるように負け続け、最終的には5位という意外な結果に終わった。 
 天王山とみられた再開第1戦の古河との試合に敗れ、そのショックでたちまち気力を失ったように見えたのは、ふがいないといえばふがいないが、老練の高橋監督にしてみれば、一時は首位に立つところまでもっていったのも、泣く子をだましだまし連れていったようなもので、1度つまずいたらそれまで――だったのかもしれない。「碓井、高林が使えるのは再来年だな、そのときの中盤をどうするかだ」と、あるとき高橋監督はいっていた。今季の日立の中盤は吉田淳、鈴木、平沢。ベテランの平沢に頼って攻めのチャンスをつくっていたが、いつまでもこの3人をあてにするわけにはいかないだろう。 
 1月22日のフジタとの試合では高林を中盤に使い、最終節の鋼管との試合では麻田を起用していたが、いずれも将来へのテストのように思われた。 
 三菱は最終的には2位になったけれども、過去の遺産で食いつないでいるような印象だった。頼りになっているのは、中盤に上がった森、ゴールゲッターとしての細谷、攻め上がったときの落合の3人だけで、いずれも年齢的に盛りを過ぎている。 
 勝った試合では、ベテランたちの手慣れたコンビネーションの良さが出たが、負けた試合では、その限界も感じさせられた。再開後最初の西が丘決戦でフジタに敗れたときが、そのいい例で、森のパスがフジタにほとんど読まれていた。三菱が開拓してきたダイレクト・パスをすばやくつなぐサッカーは、歯車が目には見えない程度ではあってもすりへって、回転がにぶくなっている。 
 ヤンマーは吉村の故障による不振がたたった。弟分のヤンマ・クラブが2部にあがったので「みっともない試合はさせられないから」と1部戦力をさいたのも層を薄くした。 
 殊勲賞は3位にはいったフジタである。日立から白星をあげ、三菱を連破した。 
 カルバリオの進境を軸に外人が主力だが、これも他のチームにない個性を身につけはじめた。外人トリオが残るそうだから、来季は楽しめそうである。

代表するコンビが獲得したタイトル
 2月6日の最終日に、東京の国立競技場で三菱−ヤンマーの試合があり、静岡県の清水競技場で日立−鋼管の試合があった。前日に古河の優勝がすでに確定していたから、この2試合の興味はヤンマーの釜本と日立の新人碓井の得点王争いにしぼられていた。
 “鬼のロクさん”こと、日立の高橋監督は口では厳しいことをいいながらも、内心では碓井に得点王をとらせてやりたい、という温情をもっていたらしい。碓井には「思い切ってやれ」とだけいったそうだ。 
 日立−鋼管の試合は意外にも鋼管の4−1の快勝で、碓井は1点もとれなかった。一方、ヤンマーは釜本が2点をあげ、3−2で三菱を破った。釜本ががんばるとヤンマーは強い。前節に碓井と釜本はともに13点で並んでいたのだが。この2点で釜本の3年連続、6度目の得点王が決まった。 
 碓井にもチャンスがなかったわけではない。前半9分に右から菊池俊の送ったパスを、ニアポストの前で受け、自分でかわして得点しようとしつこく粘った。後半34分には後方からのパスを受け、振り返りざまに左足でけったシュートがバーをかすめた。自力で点をとろうという意欲が、ありありと見えた。 
 釜本に13得点で並ばれたとき高橋監督は「いまの程度の碓井が得点王になられちゃ困る。得点はみな他の者におぜん立てしてもらって入れたものだ。いまの日本で、自分の力で点をとれるのは釜本だけだよ」といっていたという。それをきいた碓井が「なにくそ、おれだって自力で入れてやる」と意地を出したのだったらおもしろい。サッカーはチームプレーではあるが、個人の意地や執念がチームの役に立つゲームでもある。 
 釜本の最後の2点はオフサイドくさかったという説がある。2点目は釜本自身がバックの残っているのを視野に入れ、オフサイドでないことを確認しているらしいが、1点目はこれも釜本自身が「オフサイドじゃないかと思った」という。もちろん線審がいちばん見やすい位置にいるのだから、判定そのものに問題はないと思う。ただ興味深かったのは釜本が「オフサイドを恐れないくらいの気持でやらなけりゃ点はとれない」といっていたという話である。これは将来に残る釜本名語録のうちの一つになるだろう。 
 碓井のほうは試合のあと、ガックリきたようすで「やっぱり、一度消えるべきだったかなあ」と後悔とも反省ともつかぬことをいっていた。 
 「一度消える」というのは、中盤でボールにさわってから一度は離れて相手守備陣の関心の外に消えて、最後にゴール前にあらわれて意表をついたシュートをねらうことである。 
  それも一つの手段ではあるが、釜本に得点王をとられたからといって、たちまち弱気になって、そんなせりふを吐いたのだったら困りものである。あくまでも自力で相手ディフェンスをたたき破る気概を持ち続けてほしい。 
 アシスト王は、前に書いたように古河の永井がとった。得点王といい、アシスト王といい、これはたんなるジャーナリスティックな呼称であって、サッカーは全員のスポーツではあるが、釜本−永井はまさに現在の日本のサッカーを代表するストライカー・コンビであるといっていい。 
 さて最後に、ぼくの選んだ日本リーグの表彰者をあげて締めくくりとしよう。プライベートな誌上表彰で、残念ながら賞状、賞品は差し上げられない。 
 東京に住んでいるため見た試合が東日本に限られている。 
 見たかぎりの日本リーグでの試合のプレーぶりを基準にした“偏見のある選考”であることをお断りしておくが、今季のリーグの特徴をある程度、浮き彫りにできる顔ぶれだと思う。

▽最優秀監督 鎌田光夫(古河)
▽リーグ最優秀選手 永井良和(古河)
▽殊勲選手 桑原隆(古河)
▽敢闘選手 平沢周策(日立)
▽技能選手 カルバリオ(フジタ)
▽最優秀新人選手 石井茂巳(古河)
▽ベストイレブン 田口光久(三菱)、荒井公三(古河)、横谷政樹(日立)、清雲栄純(古河)、斉藤和夫(三菱)、田辺暁男(古河)、藤島信雄(鋼管)、平沢周策(日立)、永井良和(古河)、釜本邦茂(ヤンマー)、奥寺康彦(古河)
▽その他の注目された選手(いろいろな意味で) 須佐耕一(古河)、木口茂一(古河)、落合弘(三菱)、森孝慈(三菱)、古前田充(フジタ)、セイハン比嘉(フジタ)、マリーニョ(フジタ)、碓井博行(日立)、高林敏夫(日立)、ジャイロ(永大)、山出実(東洋)

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