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サッカーマガジン 1977年3月10日号
時評 サッカージャーナル

高校サッカーの観客動員

テレビ局の大作戦
 正月の全国高校選手権大会は、奇跡的といえるほど大成功だった。前号には首都圏開催について不安な点を書いたけれども、少なくとも今回については、あれは取り越し苦労だったことを認めないわけにはいかない。
 成功の最大の原因が、全国的なレベルアップと、参加した選手たちの真剣なプレーぶりにあったことはいうまでもない。若い高校サッカーマンに、悔いのないプレーを思う存分に展開してもらい、それが白熱の好試合につながれば、それで十分、大会の目的は達せられたといっていい。
 したがって、好天に恵まれてファンが連日、スタンドを埋め、特に準決勝、決勝の国立競技場に大会史上最高の大観衆がつめかけたことは、結構なことには違いないが、いわば成功の“付録”であって、あまり大げさに取り上げるのは適当でないかもしれない。ただあの大観衆が、けっして単なるハプニングではないことを知っているので、その間の事情を紹介しておきたいと思う。
 高校選手権の観客がふえてきたのはここ数年来のことで、大阪で開かれた前回も、約10万人以上の観客を動員している。目に見えてふえはじめたのは昭和46年に民放テレビが全国ネットを組んで中継しはじめて以来である。
 テレビ放映そのものの影響でファンがふえたということも、もちろんあるだろう。しかし、その裏には、テレビ局側の地道で辛抱強い努力があったのも事実である。
 「がらがらのスタンドをバックにしては、どんな熱戦もいい画面にはならない」
 という、テレビ局にとっては切実な要求から、高校サッカーの観客動員作戦はスタートした。
 とはいっても、アフタヌーンショウのスタジオに数10人の奥様方を集めて、なんとなく、ふん囲気をつくるのとは、わけが違う。大阪の長居競技場は2万人、東京の国立競技場は7万人収容のスタンドである。これにかっこうをつけるには、エキストラを動員したくらいでは、どうにもならない。本当にふん囲気が盛り上がってお客さんが自らスタンドに足をはこんでくれるような状況を生み出さなければしようがない。どうしたら、そういう状況を生み出せるか、と聞かれても、ちょっと名案はないだろう。
 それでも、やれることから一つ一つ、やっていこうということになった。
 昨年までは大阪のよみうりテレビが中心になって、社員の中から観客動員にかかりきりになる責任担当者を決めた。その人は11月になると、他の仕事はほうり出してこのことに専念したのだそうである。
 出場校が決まると、それぞれの県の県人会を訪ねて、郷土チームの応援にきてくれるように頼みにいく。入場券の束をもって県人会の幹部のところへ行くと「毎年ラグビーさんのを引き受けさせられてましてね」と、はなはだ歓迎されなかったこともあるという。大阪では同じ時期に、ラグビーの高校選手権大会がある。ラグビーの関係者のほうは、ずっと以前から県人会への働きかけを続けていたらしい。
 この話を聞いて、ぼくはラグビー関係者の熱意と努力に感心もしたし、驚きもした。

少年チームにねらい
 今回の首都圏開催にあたっては東京の日本テレビの選り抜き3人が、同じ仕事を担当した。
 代表校が決まると、北は北海道から南は九州、沖縄まで、3人が手分けして各校を訪ねて、校長先生に「東京まで応援にこさせてください」と頼んで歩いた。
 「夏の甲子園ならねえ」と笑われたこともあるという。それはそうだろう。お正月にわざわざ雪国から夜行バスを仕立てて上京するのはたいへんである。同じ学校に何度も足を運んでお願いし、結局ほとんどの出場校が、人数に多少はあっても応援団を送り込んでくれた。
 このようにして動員できる人数は、もとより知れたものである。広大なスタンドでは、パラパラと豆をまいた程度にしかならない。しかし一粒の麦をまかなければ、のちに多くの実は結ばない。
 「でも、やっぱり少年サッカーにねらいをつけるべきだな」
 担当した3人の最後の結論はこうだったそうだ。
 硬式野球やラグビーと違うところは、サッカーには小学生で実際にボールをけっている少年たちがたくさんいることである。その特徴を生かして作戦を展開する必要がある。
 少年チームの数はつかみにくいものだけれども、調べあげたら東京周辺だけで、連絡先の住所がわかったところが、1500チーム以上あった。高校選手権大会を見にきてくれるよう依頼の手紙を印刷して年末にあて名書きをして腕が痛くなった。速達で出して経費が30万円くらいかかったらしい。
 小学生は入場無料になったが、これはサッカー協会内部で、なかなか賛成を得られなかったと聞いている。10数年前には、日本サッカー協会主催の試合は、引率者のある小学生は原則として無料だったが、いつの間にかむずかしいことになったらしい。ラグビーは“中学生以下”は無料である。
 ともあれ、高校サッカーの成功のかげには、こうした努力があった。数万の観衆の中で、この努力で動員された人数は、ごくわずかだったかもしれないし、テレビ局が自分たちの都合でやったことだといえば、それまでである。しかし天皇杯や国際試合や日本リーグについても、この努力は見習っていいんじゃないかと思う。


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