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サッカーマガジン 1975年7月10日号

モントリオール予選まであと4カ月!
長沼・全日本監督に緊急インタビュー

「必ずこれまで以上の力を見せる!!」  (2/2)  

代表チームの顔ぶれは?
―― 若手にチャンスは十分にある

牛木 ところで、代表チームの顔ぶれは、ベテランが軸になるということだけれども、実際のところ、どんな編成になるんでしょうか。準備の第一段である香港のアジア・カップに、釜本が行かないという話だけど――。 

長沼 釜本については、ヤンマーの鬼武監督ともよく相談した結果、アジア・カップは断念することにした。日本リーグの最初の試合で右ひざをやられたのが、まだ良くなっていない。リーグの試合も麻酔をうってやったことがあるという話だったから、無理して連れてって、元も子もなくしたら何にもならないから、ということで――。したがって香港のアジア・カップは、いまのところ東和の渡辺をセンター・フォワードにしたオフェンスをやってみることになると思う。 

牛木 ネルソン吉村も故障で行けないということだし、そのほか、これまで軸になっていた顔ぶれでは、守備ラインの小城、山口、ゴールキーパーの横山が欠けているけれど――。

長沼 横山は病気で日本リーグの前期の試合をずっと休んでいたから、香港のアジア・カップは当然、無理だった。トレーニング開始の時期がさらに遅れるようなら、オリンピック予選でも断念するほかはないでしょう。小城も山口も、リーグの試合には出ていたけれども体調が十分でない。吉村と釜本の場合は、オリンピック予選では、もちろん主軸として考えています。 

牛木 そうすると、主軸に考えているベテランというのは、釜本と森で、後ろのほうは川上とか落合とか中堅のベテランだ。 

長沼 大仁もそうですね。 

牛木 東京オリンピックのときには、大会の年になってからの海外遠征で、当時はまだ大学生だった釜本や森がぐーんと伸びてきてレギュラーの座を奪った。あんなふうに、若手がぐーんと出てきて、ベテランを追い抜く可能性はないでしょうか。 

長沼 外国のように、17、8歳の個性的プレーヤーが、トップ・レベルに出てくるというようなわけには、なかなかいかないけど、新しい顔ぶれが出てくる可能性は、かなりある。ゴールキーパーでは、横山不在の間に三菱で穴を埋めた田口が目ざましい活躍をしていたし、韓国の朴大統領杯に行ったジュニア・チームでヤンマーの垣内がよかったという報告を受けている。守備ラインでは、三菱の斉藤和、日立の横谷など必ずしも新顔とはいえないけど、若手ががんばっている。法大の前田もいい。香港の大会は、あらかじめ22人を予備エントリーしてあって、その中から18人にしなければならなかったから、こういう若手を入れられなかったけれども、オリンピック予選のメンバーにはいってくることは十分考えられますよ。 

牛木 うしろの方のプレーヤーが多いな。 

長沼 問題は中盤から前のほうですね。ゲームメーカーとしては森、吉村、センター・フォワードに釜本がいるわけだが、そのほかがまだ十分でない。中盤の攻撃的プレーヤーとしては奥寺が伸びてきたし、荒井もいる。ディフェンシブ・ハーフの藤島は、気が強くて最後は身体を張って守ってくれるというので信頼されているが、上背が問題だ。フォワードは高田、藤口、永井、今村といるけど、まだもう一つというところがある。みな、それぞれ伸びてきてはいて、高田もいいセンタリングをするようにはなっているが、やはり中盤から前は、これから何とかしなくちゃならない。

出場権獲得の可能性
―― 勝って監督の座を退きたい

牛木 それでは最後に、オリンピック予選の勝算をおききしたい。強敵はイスラエルということだけれど、日本で予選を開催するについては、イスラエルの問題が引っかかりになった。反イスラエルの過激派グループに襲撃されたら、たいへんだということで――。この問題は、完全に解決したわけじゃないでしょう。 

長沼 100%安全だということは、だれにもいえないでしょうね。だけど関係方面と折衝しているほうの話では、見通しは、しだいによくなっているということで、なんとか日本でやれるでしょう。2グループに分けて試合をするなど、イスラエルの出る試合数を少なくするとか、入場するお客さんに、多少ごしんぼう願って、空港でやってるような荷物検査などをすることになるかもしれないけど――。 

牛木 ぼくは、警備に莫大な経費と労力をかけるような無理をしてまで、日本で大会を引き受けるべきではないという意見をもっていた。いまでも、それは変わらないが、どうしてもやるのであれば、万一の事故がないように万全を期してもらうほかはない。それからこれはあまり正々堂々とした意見とはいえないが、無理して開催して地元で日本が負けるのを見たくない。負けるなら、どこか遠くで負けてもらいたいと……。白状すると、そんな気持もあった。 

長沼 ほかの人にも、そういうことをいわれたな(笑い)。強引にもってきたけど、これで勝たないわけには、いかんなと。しかし日本代表チームとしては、地元の利をもちたいが、いかなる犠牲を払っても地元でというようなことは考えていなかった。むしろ、どこでやっても勝てる力をつけるのが本当だ。 

牛木 ぜひ、そうあってもらいたい。さて、このグループは、日本、韓国、台湾、フィリピン、南ベトナム、イスラエルの6チーム。このうち南ベトナムは、ああいう状況だから参加する可能性は少ないだろうと思う。いずれにしても日本の強敵は韓国とイスラエルの二つ。このライバルを日本代表チームの監督として、どう評価するか――。 

長沼 韓国は強敵だけれども、日本より必ずしも上だというわけじゃない。昨年の日韓定期戦で勝ったからといって楽観しちゃいけないが、実力は五分五分だと思う。日本でやる試合では、六分四分とまではいかないけれども、五・五分くらいで日本が有利だと思う。

牛木 イスラエルは?

長沼 イスラエルには、ワールドカップ予選でも、昨年のテヘランのアジア大会でも日本が負けている。アジアの中では超一流で弱いわけがない。日本との間に差があることは事実でしょう。四分六分の差だと思うが、その二分をどうするか。率直にいって、この差を埋めるものは大和魂ですよ。 

牛木 激しいプレーを望む声が強いけど。 

長沼 実際に。日本代表チームは、これまでに見せていた力以上のものを出す可能性をもっていますよ。火事場のバカ力ではないけれども――。ベテランたちは、これが最後であると、ひしひしと感じている。次のオリンピックに出られるとは、もちろん思っていない。最後の力をふりしぼってモントリオール・オリンピックの出場権を獲得します。 

牛木 勝つにせよ、敗れるにせよ、この予選は、日本のサッカーの転回点になると思うな。代表選手の世代の交代ということだけじゃなくて――。この予選のあとに日本のサッカーが新しくやらなければならないことが、たくさんある。 

長沼 そのとおりですね。私も、この予選を最後に日本代表チームの監督を退いて、新しい仕事に取り組みたい。 

牛木 予選に勝ってモントリオールの出場権をとっても――ですか。 

長沼 もちろん、勝って退くつもりです。モントリオールの本番は、新しい体制で戦えるでしょう。

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