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サッカーマガジン 1975年6月25日号
時評 サッカージャーナル

立派なスタジアムは何のため?

各地に設備された球場
 新聞社の運動部で働くようになって20年になる。しがない商売ではあるが、楽しいことの一つは旅をする機会が多いことだ。先日もプロ野球の巨人の北陸シリーズ取材のために富山、金沢、福井とついてまわった。本当はサッカーの仕事のために旅をしたいのだが、最近しだいにサッカーの新聞記事の取材が少なくなって、旅も少なくなった。 
 ところで――。   
 こういうプロ野球の地方遠征について行って、いつものことながら感心するのは、各地に立派な野球場が設備されていることである。 
 今度の北陸シリーズでは、金沢の新しい県立球場に驚かされた。
 金沢の駅からタクシーに乗って15分ぐらい、料金にして片道600円ぐらい。いささか遠い。
 地元の私鉄経営の路線バスはあるが、1時間に2本ぐらいだそうで、交通の便はあまりよくない感じで、巨人の試合の日は、臨時バスを増発するよう手筈していたが、私鉄のストにぶつかってダメになった。 
 したがって、この日に野球を見にきたお客は、みな自家用車か夕クシーだったはずだ。
 金沢の市内を出はずれてから、立派に整備された一本道をかなり走る。そうすると広々とした田んぼのまん中に、こつ然としてコンクリートの近代的なスタジアムがあらわれる。
 日本海博覧会の会場だったあと地に、昨年建設されたという話で、周囲にはこれまた、広々とした駐車場があり、当日は約3000台の車で埋まっていた。これなら私鉄バスのストがあっても、お客さんがやってくるわけだ。 
 この金沢の県立球場を見て、ぼくは昨年のワールドカップの会場だった西ドイツ、シュツッツガルトのネッカー・スタジアムを思い出した。 
 ネッカー・スタジアムも、町を出はずれて、立派な道路をしばらく行ったところにあった。やっぱり平野のまん中に、こつ然として出現し、周囲に、広大な駐車場があった。 
 もっとも規模はいささか違う。 
 金沢の野球場は収容人員2万人あまり、駐車場の収容台数3000である。一方、シュツッツガルトのサッカー場は収容人員7万人、駐車場は約1万台の車で埋まっていた。 
 西ドイツ南部の町でイタリアとの国境に近い。ぼくが行ったのはイタリア−ポーランドの試合があった日で、スタンドの半分はイタリア国旗で埋まり、駐車場の半分はイタリア製フィアットで埋まっていた。スタジアムに行く途中に、フィアットのサービス会社が出張して、故障修理の出店を開設していた。 
 ともあれ、規模と国際性に差はあるけれど、金沢の県立球場もなかなか立派である。硬式野球とサッカーでは、競技人口ではもうサッカーのほうが、多いのではないかと思うが、こんな立派なサッカー場は、地方都市はもちろん、東京や大阪でもなかなかできない。

将来は地元リーグに1万の観衆!
 もちろんいかに立派なスタジア厶があっても、お客さんを集められないようでは、宝の持ち腐れである。北陸シリーズの巨人の試合は、どれもほぼ満員の観衆を集めていた。しかし、金沢や福井にプロ野球がやってくるのは、年に2、3回にすぎない。 
 昨年の秋に日米野球があって、ニューヨーク・メッツが来日したときも札幌、仙台、新潟、富山などの遠征試合について行った。メッツの選手たちは、どの町に行っても立派なスタンドつきの野球場があるのにビックリしていた。
 「ここの地元のチームは何ていうのかね」 
 というのが彼らの疑問である。 
 これだけ立派なスタジアムをもち、これだけ大勢のお客さんを集められるのだから、この球場を本拠地にして、チームがあるに違いない、と彼らは考えるわけである。ところがご承知のように、日本ではプロ野球は全国リーグの12球団だけで、地方にそれをもっていない。 
 日本のサッカーの将来は、日本のプロ野球とは違ったものでなければならないと、ぼくは思う。 
 新潟にも、富山にも、金沢にも立派なスタンドをもち、広大な駐車場のついたサッカー・スタジアムがあっていいと思う。いや、将来はかならず作ってほしい。 
 しかし、それは年に2、3回、巡業してくる日本リーグの試合のものであってはならない。地元のチームが、地元のリーグで試合をして、1万人ぐらいのお客さんを集めるのはあたりまえ――というようになってはじめて日本のサッカーは本物である。


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