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サッカーマガジン 1975年7月10日号

モントリオール予選まであと4カ月!
長沼・全日本監督に緊急インタビュー

「必ずこれまで以上の力を見せる!!」  (1/2)    

 日本リーグの前期を終えて、日本のサッカーはモントリオール・オリンピック予選を目ざし、総力をあげての準備態勢に突入した。あと4カ月! 日本代表チームは、どのようにして選ばれ、どのようなチーム作りをするのか。はたして日本は、オリンピック予選に勝てるのか。 
 日本代表チーム強化の全責任を預かる長沼健監督(日本サッカー協会技術委員長)に、構想と勝算を率直に語ってもらいたい――というのが、このインタビューの趣旨である。

あと4カ月の強化計画
――3段ロケットを打ち上げる 

牛木 モントリオール・オリンピック予選に勝つ自信があるのか、どうやって勝つのか、そこんところを直撃インタビューしたいってわけなんですが、その前に、これからの日本代表チームの計画をお聞きしたい。予定どおり9月下旬から10月上旬にかけて予選競技会が開かれるとすれば、あと4カ月足らずですね。日本リーグの前期が終わったあと、この4カ月は、まるまる日本代表チーム強化のために日程をあけてあるわけですね。 

長沼 まず、6月中旬から下旬にかけて、香港でアジア・カップの競技会がある。これに代表チームが参加する。次に7月末から8月中旬まで約20日間にわたって、マレーシアでムルデカ大会があって、これにも招かれて参加する。この二つのアジアのタイトルマッチで、きびしい試合の経験を積み、戦力を改めてチェックしたいと考えています。この二つのアジアの大会で最低3試合ずつは試合ができる。勝ち進めば、もっとできるわけで合計6〜10試合の経験ができる。  

牛木 アジア・カップには中国、朝鮮民主主義人民共和国など、アジアの強い国のナショナル・チームが参加するはずだから、これは、本当にきびしい試合の経験になりそうだ。

長沼 ムルデカ大会も、他のアジアの招待大会とは違って、どの国もベスト・メンバーのチームを送ると思う。この二つのアジアを相手の試合経験のあとで、8月下旬ごろにできればヨーロッパの高いレベルのチームを招いて日本で試合をする計画です。  

牛木 どこのチームを招くか決まっているんですか。前にスペインのレアル・マドリッドを呼ぶって話を聞いたけど……。  

長沼 レアル・マドリッドは、今年はむずかしいってことですね。向こうのシーズンの関係もあって、なかなか、この時期にいいチームを招くのは困難なようだけど、できればなんとか高いレベルのチームとの試合経験のチャンスを与えてほしいと、これは私のほうから協会にお願いしてるわけです。そして、この間、9月下旬の予選競技会まで最終キャンプをして、コンディション作りをする――とこういう予定です。 

牛木 これまで、オリンピックやワールドカップ予選の前には、ヨーロッパ遠征をすることが多かったんだけど、今度はヨーロッパヘ行く計画はなかったんですね。 

長沼 ヨーロッパ遠征も考えたけれども、今回はあらかじめ予定されていたアジアの大会が二つもあったし――。アジアのチームとのタイトルマッチを大切にしろ、アジアの強豪との真剣勝負で鍛えろという意見は、かねてから牛木さんの主張されてたところだし――。それに大会直前にヨーロッパに行って、十分にコンディションを整えて練習できるかどうか不安がある。練習グラウンドが借りられないようなことでは困るから――。それより検見川のスポーツ・センターあたりに腰をすえて、じっくりキャンプをしたほうがいい。地元で大会をやることの利点を生かすためにも、そのほうがいい。 

牛木 これからの4カ月に、まず前段にアジアの強豪を相手にタイトルマッチの経験を積み、中段で高いレベルの相手との国際試合で感覚をみがき、最終キャンプでコンディションを整えて総仕上げをする――こういう3段ロケットで代表チームを打ち上げる。 

長沼 そのとおりです。

どんなチームを作るのか
――ベテランを軸に冒険を
 
牛木 さて、そこで問題は、モントリオール予選に勝つために、どんなチームを作り上げるか、ということですがね。ぼくは日本代表チームのやっているサッカーが、型にはまりすぎているように思う。1964年の東京オリンピック以来、10年以上も似たようなチームをずっと作り続けてきたんじゃないか。クラーマーさんが手がけて東京オリンピックに出た日本代表チームは、それ以前の日本のチームとは、まったく違う個性をもったチームだった。それを1968年までに長沼さんたちが完成させてメキシコ・オリンピックの銅メダル獲得になったわけだけれども、そろそろ新しい個性のあるチーム作りを目ざしてもいいんじゃないか――。 

長沼 メンバーからいえば、今度のモントリオール予選に出るチームは、ベテランが軸になる。だから、これからの準備のテーマはベテランが活躍できるような状態を作れるかどうか、コンディショニングをうまくやれるかどうかにある。最後のキャンプで過不足のないコンディションにもっていき、試合でホストの利を十分に生かせるようにしたい。メンバーの編成からみて、これまでと同じ傾向になって、まったく違う個性のサッカーというわけには、いかないだろうけど……。 

牛木 ベテランというとどういう顔ぶれ? 

長沼 前のほうで釜本、中盤の森、後ろのほうで大仁、落合、川上などでしょう。ただね、近ごろ、こういうことを考えている。いままでたとえばセンター・フォワードというと釜本のことをすぐ頭に浮かべていた。釜本のあと継ぎとして、体格のいい強シューターを求めていた。それがなかなかいなくて、第二の釜本が育たないなどといいがちだった。だけど、それじや、いけないんじゃないか。釜本と違うタイプの個性でも、センター・フォワードとして使って、異質なやつの良さを見いださなくちゃいけないと思っている。 

牛木 そう、そう。外国にだってミュラーのようなのもいるし、クライフみたいなのもいる。 

長沼 それから、残念ながら日本代表チームは、国際試合をやると、自分たちより弱い相手とやるより、強い相手とやることが圧倒的に多い。外国からチームを招待するときも日本よりかなりレベルの高いプロを選んでいる。そのために日本代表チームの試合は、いつも守りを固めて逆襲をねらう型が多い。日本のサッカーは、ディフェンシブで、カウンター・アタックをねらうというイメージになっているかもしれない。しかし本当は、そうでなくなってきているし、今後はますます、違ってこなくちゃいけない。 

牛木 日本リーグの下位のチームには、かつての日本代表チームのサッカーを、ひとまわり下のレベルでやっているのがある。 

長沼 バックで防ぎ、中盤で組み立て、フォワードが攻めるというようなやり方、これではもう通用しない。メキシコ・オリンピックのときのスタイルだ。いまでは、メキシコは古くなりにけりだ。 

牛木 ぼくの注文は、新しいチーム作りに冒険をおそれるな、ということなんだけど。 

長沼 消極的なサッカーをしようなんて気持はすこしもない。釜本に頼るんじゃなくて――メキシコ・オリンピックのときは、そういうやり方をしたんだけれども――釜本をオトリにして点をとる。リベロがどんどん攻め上がる。そういう意味で冒険をおそれないでやりたい。昨年のワールドカップで、ポーランドも、オランダも、それぞれのやり方で、リスクを踏まえて攻撃をしていたと思う。攻めにはいったら思い切って攻める。守備ラインをがらあきにするわけじゃなくて、バックが攻め上がったあとを、だれかが埋めるだろうけれども、攻め上がるほうは後ろを気にせず攻め上がるようにしたい。 

牛木 そういうサッカーを選手たちに理解させなきゃいけない。 

長沼 理解不足のまま予選にはいったら大変ですよ。だけど、いまの選手たちの戦術的理解力は、ひところにくらべると、ぐんと上がってますよ。


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