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サッカーマガジン 1974年5月号

特別座談会
朝鮮の4.25チームを迎えて       (2/4)    

チュチェのサッカー
牛木 朝鮮側の日本チームに対する感想をうかがったわけですが、日本側からみてピョンヤン4.25チームの印象はどうですか。

岡野 全員、どうして、こんなに同じような選手がそろったのかと驚いたね。これはいい意味でね。みな同じような考えでプレーしている。チームの意思が統一されている。スピードとボール・コントロールがハーモニーを持っている。どうして、こんなふうに同じタイプの選手が揃っているのか、これはちょっと不思議に思った。

長沼 私はピョンヤン4.25チームは、経験を持った選手が非常にチームの中で効いていると思う。1966年のワールドカップに出場したフォワードのヤン・ソングク選手、バックのカン・ボンチル選手などですね。サッカーは若い選手がベテランのキャリアで巧みに使われたときにうまくいく。現在の日本代表チームの問題点の一つは、これなんですが、ピョンヤン4.25チームは、ゲームの中でベテランのキャリアか生きていましたね。とくにヤン・ソングク選手によって作り出されたスペースに若い選手が飛び込んでくるのが目立った。

岡野 中盤のキム・ジョンミンとパク・ジョンフンが良い選手だ。日本代表との試合は中盤で決まった。

牛木 ピョンヤン4.25チームは、3月10日の日本代表との試合に全力を注いだようですね。

リ・チャンソン監督 われわれのチームは、自分の能力を基本的に発揮したと思います。日本チームは技術的にボールタッチや瞬間的なプレーにいいものを持っていました。ただ肉体的な準備が不足していたんじゃないでしょうか。

リ・ハンボク責任指導員 現代のサッカーは肉体的な準備がよくなければなりません。われわれのサッカーの原則は、よく走ること、正確にけること、そして巧妙な戦術を駆使することです。この原則にのっとって準備をします。そのための時間の配分と順次性(重点的配分)を考えます。

牛木 ピョンヤン4.25は、午前、午後と1日に2回ずつ練習しましたね。日本に来た外国チームで、こんなに練習熱心だったチームはない。

リ・ハンボク責任指導員 肉体的準備は、日本にくらべると良かったんじゃないかと思う。われわれは、サッカーの練習をするのに民族の特質をいかに生かすかに頭を使います。ヨーロッパにくらべて、良いところは伸ばし、遅れているところを強化してゆく。朝鮮民族は敏捷性にすぐれ、下半身が強い。ですから一つの動作を速くすること、下半身を強固にすることに練習の重点を置いています。

牛木 年間を通して、どれくらい体力トレーニングをしていますか。

リ・ハンボク責任指導員 年間では10〜20パーセント、冬季は25〜30パーセントくらいです。1日に2時間半練習するとすれば、毎日30分の肉体的練習を取り入れます。われわれのサッカーを世界的水準にあげるには、90分間、攻撃と防御をくまなくやれる力と忍耐力が必要で、それを身につけるために努力したいと思っています。

牛木 「ピョンヤン4.25」の特徴は、せんじつめれば、やはりスピードでしょうね。選手の中で100メートルを11杪台で走るのは何人くらいいますか。

リ・ハンボク責任指導員 今度日本に来た17人のうち、100メートル12秒台が4人くらい。残りは全員11杪台です。

岡野 しかし、このチームの良さは、ただの速さではないね。あるボールが動いたところで、選手の一人一人が、どこに行くべきかということを、よく理解しているところにある。

リ・ハンボク責任指導員 競技の勝敗の基本は技術的なものの他に精神的なものがある。何の目的で試合に望むか、何のためにボールをけるか、を選手たちがどのように理解しているかが大事である。われわれはキム・イルソン(金日成)主席の配慮にどうして報いるかを考えています。練習一つにしても、集団プレーのことを考えるのは「一人は全体のために、全体は一人のために」という教えに従っているのです。

岡野 まったく、その通りですね。選手が技術を見せびらかすためにプレーするのでは全体のためにならない。それが「4.25」チームにはまったくない。それから試合を見ていて、予想外に楽しかったのは、試合ぶりが形だけのフェアプレーでなかったことだな。たとえばフリーキックをとられたときに、簡単には下がらない。そんな場面もありましたね。

リ・チャンソン監督 むしろ日本では少なかったですよ。ヨーロッパなんかで試合をすると相手がやりますから、こちらも、そうフェアにばかりはなれないときがある。しかし、日本では、日本のレフェリーが非常に公正で、また日本の選手もフェアですから、うちの選手たちにも、あまりみにくいことはするな、と注意しました。

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