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サッカーマガジン 1974年3月号

ワールドカップ展望
本大会の組合せ決まる!
前景気盛りあがるワールドカップ!  (1/2)    

優勝はどこか? スターは? みどころは? 激闘の25日間…!
  4年に一度のサッカーの祭典、ワールドカップの開幕も目前!第1次リーグの組み合せも決まった。全世界注目の大会、ワールドカップ '74を占ってみると……

●新しいカップと方式
 興奮と熱狂と競技水準の高さにおいて、オリンピックをはるかにしのぐ世界最高のスポーツ・エベント、世界のプロフェッショナルを国の名誉と競技の名声のためにかりたてる魅惑のチャンピオンシップ――4年に一度開かれるサッカーの世界選手権ワールドカップが目前に迫った。
 2年がかりで全地球をおおって展開された予選に参加したのは90カ国。予選の試合総数は合わせて221試合。それを勝ち抜いた決勝大会出場国が、2月13日のユーゴ対スペインのプレーオフを除いてすべて決まり、1月5日に西ドイツ、フランクフルトの放送コンサートホールで組み合わせ抽選が行なわれた。
 今回のワールドカップには、新しいことが二つある。
 一つは、第1回大会以来の黄金のジュール・リメ・カップに代わって、今度の第9回大会からは、新たに作られた“FIFAワールドカップ”をめぐって優勝が争われること。これは、前回の1970年メキシコ大会でブラジルが3度目の優勝を記録し、規約に従ってこれまでの黄金の女神像は、永久にブラジルの手に渡ったからである。
 新しいトロフィーは、FIFA(国際サッカー連盟)が公募し、53のデザインの中から選んだもので、イタリアのミラノから応募した彫刻家シルビオ・ガザニガ氏(ベルトニ・ミラノエ房)の作品。高さ36センチ、重さ5キロの18金製。2人の競技者が、勝利の喜びに両手を高くあげて地球を支えているデザインである。FIFAは、この新しいトロフィーのために2万ドル(約600万円)をかけた。
 もう一つの新しいことは、決勝大会のトーナメント方式が、前回とは変わったことだ。
 決勝大会進出チーム数は、前回優勝のブラジルと開催地元の西ドイツを加えて16チーム。これを4グループに分けて、1次リーグを行なう。これは、これまでと同じやり方である。
 1次リーグの各グループ1、2位の計8チームが準々決勝に進出して、あとは勝ち抜きのトーナメントが、これまでのやり方だったが、今回からは、この8チームをさらに2グループに分けて2次リーグを行なうことになった。
 2次リーグの2位同士で3位決定戦、1位同士が決勝戦。前回の方式では、決勝大会の試合数は32試合だったが、新しい方式では6試合増えて38試合になる。
 ワールドカップの開会式は6月13日(木)にフランクフルトで行なわれ、ベルリンをふくむ9都市で世界の超一流のプロクラスが技と力を競い、決勝戦は7月7日(日)、ミュンヘンのオリンピック・スタジアム。今後4年間の世界のサッカーの方向が、この25日間で決定するのだ。

●組み合わせ抽選の裏側
 選び抜かれた16チームの中で、新しい黄金のトロフィーを獲得するのはどこか。それはおそらく、西ドイツ、ブラジル、オランダ、イタリアの4チームの中から出るだろうとみられている。
 1次リーグのグループ分け抽選をするにあたって、FIFAはまず、前回優勝のブラジルと、ヨーロッパ・チャンピオンであり、決勝大会の開催地元である西ドイツをシードした。これは実力からみても、これまでの実績からみても当然であった。
 また抽選の直前に、南米からウルグアイを、ヨーロッパからはイタリアをシードに加えた。イタリアは前回の決勝進出チームであり、最近のヨーロッパで連戦連勝の成績をみせている。これもシードされて当然だろう。
 ウルグアイは、前回ベスト4に残った国であり、初期のワールドカップで2回優勝している。実績からみて、南米のNo.2としてシードされるのは当然であるが、最近のウルグアイは、あまり高く評価されていない。そこでウルグアイのグループでは、オランダの方が有力とみられている。単独チームの選手権であるヨーロッパ・カップで、アヤックス・アムステルダムとフェイエノールトが黄金時代を築いている。そのメンバーがナショナル・チームに編成されて出てくれば、今回のワールドカップに、一陣の新風を吹き込むに違いない。
 1月5日にフランクフルトで行なわれた抽選では、シードのチームをそれぞれのグループに振り分けただけでなく、同じ地域の国が最初から顔を合わせるのを防ぐための作為をした。
 南米と西ヨーロッパのプロを持つ国が4つずつ各1グループ、東ヨーロッパの社会主義国で1グループ。この中には、まだどちらが代表になるか決まっていない「ユーゴまたはスペイン」がふくまれている。スペインは名だたるプロサッカー国であり、その他の社会主義国も、自由主義国のプロと変わらないレベルを維持している。
その他のセミプロないしアマチュアの4カ国で1グループ、以上4つのグループの中から1チームずつを抽選で選んで、1次リーグの組み合わせが決まった。
 2次リーグには1次リーグ各組の2チームずつが進出するが、上にあげた優勝候補あるいはシードチーム以外でも実力の差は紙一重である。2次リーグ進出の可能性が比較的うすいと見られているのは、オーストラリア、ザイール、ハイチの3チームだが、サッカーのボールは、どちらへ転ぶか分からない。この3チームだって、運次第では、優勝は無理にしても、大物を食って2次リーグに出てこないとは断言はできない。

●優勝の最右翼西ドイツ
 イギリスでは、スポーツの大きなエベントについてのブックメーカー(ブッキー)を相手にする賭けが公認されている。ブッキーとは、日本には存在しない公認の「賭け会社」であって、会社側が賭け率を設定してお客さんを集める。
 組み合わせ抽選が終わった直後の「ワールドカップ優勝チーム」を当てる賭けの賭け率は、地元西ドイツが本命で「5対2」であった。これは、西ドイツが優勝すると思ったお客さんが200円賭けると、西ドイツ優勝が決まったときに、賭け会社が500円の配当をするというやり方である。
 ブラジルが対抗で「4対1」、イタリアが3番手で「5対1」、オランダが競馬式にいえば単穴というところで「12対1」だった。
 この賭け率は、大会が近づくにつれて、いろいろな情報(たとえば主力選手の負傷や親善試合の成績)を入れて、刻々に変化するが、この西ドイツ、ブラジル、イタリア、オランダの順は、ほぼ順当に優勝への可能性を示しているようだ。
 西ドイツは、優勝へのあらゆる条件を備えている。
 選手はスターぞろいである。ツブがそろっている。スペインの“レアル・マドリッド”にトレードされて行っているネッツァーを呼び戻してゲームメーカーに使うかどうか、という問題を抱えてはいるが、前回メキシコ大会の得点王ゲルト・ミュラー、中盤のネッツァーあるいはオベラーツ、世界一のリベロといえるベッケンバウアーと並べて、非の打ちどころはないように見える。
 チームの戦術的な面をみても、現在の西ドイツのサッカーは、“現代のサッカー”を代表するものだろう。昨年来日したFCケルンが見せたような、正確ですばやい足わざをチームプレーに生かし、流動的で変化の多い攻めを組み立てるのが、西ドイツのサッカーだ。
 もちろん、地元の利は大きなプラス・アルファである。「地元での大会で絶対に勝つために、西ドイツは、まだ何かを隠し持っているに違いない」と多くの人は考えている。
 この2年間に、ヨーロッパヘ遠征してきたブラジルとアルゼンチンに、ともに敗れたことは、西ドイツの前途にかげっている唯一の暗い材料だが、これさえも「西ドイツは、手の内を隠したのだ」と見る人がいる。
 1954年のスイスでのワールドカップで奇跡の優勝をとげたとき、優勝候補の随一だった無敵のハンガリーに1次リーグで敗れ、決勝で全力を出し尽くした“勝負強さ”の伝統を古いファンは思い出している。
 しかし、この情報化時代に西ドイツが、さらに何かを隠し持っているとすれば、それこそ奇跡に近い。その強さを知られ尽くされているところに西ドイツの弱点があるかも知れない 。


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