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サッカーマガジン 1970年9月号

ワールドカップと日本の進路
16年後、ワールドカップ日本開催は
可能か!?                      (2/4)    

■地道な努力から
牛木 タス通信が最近、ソ連の監督やコーチの座談会の模様を送ってきた。カチャ―リンとか、トルペドが来たときのキャプテンのイワノフとかが出た座談会なんだけれど、やっぱりいまと同じような話で、個人技術としては非常にスイフト・アクションである、速いというんです。すばやい動作と、ボール・コントロールというものが、ソ連は劣っていた。ブラジルは完璧であった。ブラジルのやつらは何でもできたけど、われわれはひとつのことしかできなかったというんです。彼らがひとつしかできないというのなら日本は何にもできないんじゃないかと思うんだけれど(笑)、それだけ反省があって ―― まあ、彼ら、自己批判の国ではありますが ―― 将来のために考え、次の大会なり、オリンピックに、何をしなければならないかしゃべっている。われわれも最も近い目標であるミュンヘンのために、日本蹴球協会として何をしようとしているのでしょうか。実のところ、ロンドン大会の経験というものを、われわれはこの4年間、十分に生かしたとはいえないと思うんです。このことはぼくも、紙の上でいうのはたやすいから、何べんも何べんもサッカーマガジンに書きましたが、あまり実行してもらえなかった。

長沼 画期的な、まあいってみれば、一晩寝て起きてみたら、すばらしい体制ができたとか、選手が生まれたとか、そういうことはあり得ない。むしろ、急がば回れで、一番近道なところからやらなきゃ仕方がないということだと思います。たとえば、ことしの夏のスケジュールなんか見ていただくとわかりますが、現実にいまジュニアが出ている。ナショナル・チームがムルデカ、ユースを韓国に出したい、あるいはできれば大学選抜も……。それにコーチ養成の面でも、検見川でコーチング・スクールをやる。これに平木以下の技術指導委員会のメンバーをできるかぎり加えて、去年FIFAのライセンスをとった人で時間のある人を加えるというふうに、できるかぎりの範囲に、全力をそそいでいるわけです。そしてこれをさらに拡大していく。そのために協会は大きな資金が必要だ。で、そのために、ナショナル・チームが強くなければいけないという、一つの循環があると思うんですけれどね。一つのチームを後生大事に守って集中強化したという時代は明らかにすんでいる。これからは、どうしてあの選手をナショナル・チームに入れたのか、あんなのはジュニアには早いとかいう批判に耐えながら、勇気を持ってやっていくべきじゃないかと思うんです。

牛木 差し当たって、ミュンヘンに出るということにしぼっていいますと、浦和南の松本先生がメキシコへ行ってみて感じたのは、どうも勝てないのは、ひとつは食べもののせいもあるんじゃないかというんです。メキシコの食事では、日本人がギョッとするようなズシリとした肉がでてきてメキシコ人なんかは平気で全部食べちゃう。日本ではふだん選手たちの給料では、それだけのものを食べられない。そういうものを改善していくためには、ソウル大会が終わったあとで、長沼さんがいったように、代表選手の環境を整備してやるというようなことをやらなきゃいけないんじゃないかと ――。

長沼 協会としては、みんながそれを認識して、共通した感覚を持つことが第一です。選手たちが常日ごろ所属しているのはそれぞれのチームですからね。協会が集めたときだけいい食生活をさせても、焼石に水みたいなもので、いわゆるデイリーライフが一番大事ですからね。これは決して、ぜいたくをさせるという意味じゃない。それではスポーツマン本来の意味が失われますからね。そうじゃなくてでき得るかぎりいい環境を与えておいてそして、いままでよりも、はるかに密度の高いハード・トレーニングを課していくというのが狙いですよ。休養不足の体、栄養不足の体できびしいものを課しても、実りはそれほど大きくはないんですね。

牛木 そのため、協会として何をなし得るか、具体的な問題はありますか。選手に対して食費をプラスするとか……。

竹腰 補給ということね。

牛木 そうですね。かれらを一生懸命練習させるために、食費として月に2万円なら2万円、5万円なら5万円を給付して肉を食えというとか……。

竹腰 それはもう、相当大きな問題となるでしょうね。

牛木 それは協会がお金がないというだけではなくて……。

竹腰 そうじゃなくて、日本サッカー界だけでなく、体協のアマチュア委員会なり体協全体なりのね。恐れていては出来ないが、デリケートな問題だな。

長沼 協会でもそれは考えてもらっているのですよ、現実に。現ナマでじゃんじゃんというわけにはどっちにしてもいかないけれど、方法はないか。まあ、かつて現物給付をやりましたね。予算づけもしてもらっているのです。協会の援助が実質的に彼らの血となり肉となるということもあるんですが、精神的なことも大きいですよ。協会が本気でわれわれのことを考えていてくれているということを選手たちが感じなかったらだめなんです。そういう意味でいろいろ考えていて、たとえば、強化の拠点になっている千葉の検見川の利用度から考えて、もっといい休養をとれる状態に、ドイツのスポーツ・シューレとまではいかなくても、一歩近づけるものを作る。たとえば宿舎なり何なりを協会の力で建てるとか考えているんです。

牛木 それはいいアイディアですね。

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