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サッカーマガジン 1966年12月号

【座談会】
アジア大会に日本はいかに戦うか
 (4/4)    

活躍する選手は誰か

牛木 日本選手の中でいわば東南アジア向きというかね、そういうのは誰だろう。

岡野 東南アジア向きね、やっぱり釜本なんていうのはいいでしょう。向こうではほとんどヘッディング・パスだろう。

浅見 速さという点でもそう、東南アジアくらいどうってことないんじゃないかな。

岡野 それで東南アジアの連中って非常に、おれたちはからだが小さくてスタミナがないんだと思っちゃって、みんなコンプレックスみたいなもの持ってるんだ。だから釜本みたいに大きいのがぱっと出てくると、やっぱりこれはいかんと思うんだね。

高橋 釜本なんか、得点源としては非常にいいと思うんですよ。それからぼくは、小城なんかいいと思うな。あれだけの馬力と、大きさも必要だしね。それと彼のプレーは、あんまり細かくやらないでしょう。向こうさん、細かいプレーには割合なれてるからね。だからそういうのをちょっと吹き飛ばしたようなプレーをしてくれれば、有効じゃないかと思うな。

岡野 やっぱりダイレクト・パスが一番強いでしょう。

浅見 向こうじゃ自分が持ってこちょこちょ、こちょこちょやって、自分ができないとなるとパスをポンとやる。

牛木 東南アジアの連中は、未だに足わざにこだわる傾向があるんですか。

岡野 そう。足わざとパスと。

高橋 マレーシアがばかに早くから4・2・4の形をとったでしょう。あれだってほんとに4と2と4と、横にはっきりしているんだ。たいへんな4・2・4だよ。(笑) ああいう調子でしかやれないということは、戦術的には相当弱いというか……

岡野 たとえばインドネシアの選手なんか、能力からいったらすばらしいものを持ているんだ。あとはスタミナをつけることと、戦術的にちょっと工夫したらたいへんなものだと思うんだ。それがあれくらいしかできないというのは、何かそこらへんに一つの諦観があって、われわれにはこのサッカーしかできないんだ、という考え方があるんじゃないかな、という気がしたんだ。

高橋 インドネシアのコーチと話をしたんだけど、とにかくプレーはいくらでも教えられるというんです。しかしタクティックになってきたら、いくらいってもなかなか理解してくれない。非常に教えにくい。それからスタミナの問題は、途中までしぼるとみんなけがしちゃう。この二つはトレーニングしにくいといってたよ。あのへんの人たちは、みんな多少そういう共通点があるんじゃないですか。

岡野 逆にいえば、そこがぼくらの衝くところなんだ。

牛木 どうも話を聞いてると、今度の座談会は楽観ムードが支配しているんで、(笑) ちょっと心配になったね。

岡野 ぼくは楽観しているんじゃないんだよ。いまのままで、ああ軽く勝ちますといった意味の楽観ではない。ただ勝つだけの力はあるはずだということなんだ。


先取点とれば勝てる

牛木 ぼくはムルデカの前に、イスラエル、ビルマはこわいんじゃないかと思っていたんだけれどもね。

岡野 ああ、ビルマはもちろんこわいよ。だけどインドよりは合性がいいと思う。合性というのは問題だからね。

高橋 インドのようにスピードを持ったのとか、パキスタン。とにかく常識とすれば、ここにバックがいるから、ここにはこないというようなところに、ぽーんとボールを出して、もつれ込んでくるようないき方をされたら、ちょっと理論的なぺースでいきにくくなるからね。そこをさっさっといなしていけば、理論的なこっちのペースでやれるだろう。

牛木 台湾なんかどうかな。あんまり話題に出なかったけど。

岡野 やっぱりいいチームだと思うよ。

牛木 アジア大会に2回優勝してるし。

浅見 かけひきがうまい。

岡野 ただあの暑さでもって、スタミナがどのくらい続くかね。台湾の連中はスタミナないもの。

浅見 あきらめが早いし。

岡野 だから勝つ最大の要素は先取得点をあげることですよ。

牛木 ただ日本のチームで非常に不安な点があるとすれば、いまの1軍のチームはちょっと、チャンピオンシップをかけた勝負というようなことから離れてるだろう。東京オリンピックのあとやってないわけだから。取りこぼしというのは、そういう経験の不足というものから起こってくることが多いから、アジア大会で取りこぼせないということになってくると、一発たいへんが起こるということがあり得るんじゃないか。強い相手とせり合ったとき、先敢点取れればいいけれども、取られたときだね、問題は。

岡野 やっぱりいまのチームに必要なことは、精神面の強さですね。で、試合に対する精神的な問題で二つあるわけだ。一つは上がるということ。一つは崩れたときに建て直すという強さ。この二つがあるんだけれども、最初の上がるという面では全然心配してない。東京オリンピックの前の晩でも、選手はぐーすか寝ていたからね。グラウンドヘ行っても平気だった。ただ崩れたときの建て直しの面がちょっと気になる。それにはチームの中に中心になる選手がいることが必要なんだ。そういう選手が最後まで出られるかどうか。たとえば八重樫とか、そのへんがチーム作りの一つのポイントだね。

牛木 八重樫はアジア大会に対しては、相当張り切ってるね。もうそろそろ選手生活も第一線としては終わりに近づきかかってるから。

浅見 さっき話題が出なかったけど、杉山なんかどうなの。

高橋 杉山もあれでけがさえしなければ、ぼくは絶対だと思う。

牛木 あれだけ走れるというのは、東南アジアにはいないだろう。

岡野 いないですね。

牛木 ではこのへんで。

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