7月19日(火)
▽ A組リーグ(ウェンブレー)
ウルグァイ 0(0−0 0−0)0 メキシコ
▽ B組リーグ(シェフィールド)
アルゼンチン 2(0−0 2−0)0 スイス
▽ C組リーグ(リバプール)
ポルトガル 3(2−0 1−1)1 ブラジル
▽ D組リーグ(ミドルスボロ)
北朝鮮 1(1−0 0−0)0 イタリア
ブラジルが2敗し準々決勝進出は絶望的となった。8年にわたったブラジルの王座は崩れ、ペレは「世界最高のサッカー選手」という称号を失うときがきたようだ。ペレに代わってポルトガルのオイセビオが、世界の最優秀選手ということになるだろう。
ブラジルのフェオラ・コーチは、メンバーを9人も入れ替えた。奇跡を期待した絶望的な試みだったが、これが無残な失敗だった。その上、前半30分にペレの負傷が悪化、サポーターでひざを固くしばってプレーを続けなければならなかった。
しかし、ペレの負傷の前に、ポルトガルはすでに2点をあげていた。前半15分、シモエスがヘディングで先取点をあげ、26分にオイセビオが2点目を追加した。ブラジルは後半25分、RBリルドが1点を返したが、ポルトガルは38分オイセビオがダメ押し。
ポルトガルの選手はベスト・エイトに残れば、1人25万円のボーナスをもらえることになっていたが、この日の試合ぶりは、25万円では安すぎると思われるくらいすばらしかった。ポルトガルの役員はいう。「前半でブラジルは、もはや今までのような強敵ではないことが分った。ペレが健在だったにしても、少なくとも引分けにはしただろう」。
ブラジルの本国では、リオやサンパウロの市民が悲報を聞いて憤慨し、フェオラ・コーチの自宅にはデモから守るために警官隊が配置されたという。一方ポルトガルのリスボンでは、街は群集であふれ、夜っぴいて花火を打ち上げて喜びに酔ったと伝えられる。
この日、もうひとつのセンセーションは、北朝鮮がイタリアを破ったことである。東洋からただひとつ出場したこのチームは、ヨーロッパではあまりに知られていなかった。大会前には「1点でもあげれば上出来」といわれていた。
それが、ワールド・カップを過去2回も獲得しているイタリアに勝とうとは――。「1950年の大会でアメリカがイングランドを破ったとき以来の大番狂わせだ」と外電はいっている。
殊勲の1点は、前半42分朴斗翼のあげたものだが、北朝鮮は後半にも追加点を目ざして実によく戦い、イタリアを圧倒していた。地元観衆の圧倒的な声援も彼等を勇気づけた。北朝鮮の小柄な選手たちは、リスのように機敏に走り続け、短いパスをつないで攻撃を変化させ、すばやくシュートした。イタリアは、主将のブルガレリが前半34分に負傷で退場、攻守のつなぎ役を欠いたのが痛く、選手たちは移り気なラテン気質の悪い面をまる出しにして、やる気をなくしていた。
ウルグァイはメキシコと引き分けて準々決勝を確定したが、試合ぶりは冴えなかった。前半は劣勢を予想されていたメキシコが押していた。なおメキシコはゴール・キーパーに37歳のカルバヤルを起用、彼はこれで5回のワールド・カップ本大会に出場するという大記録を作った。4年後の大会は、彼の地元のメキシコだが、そのときにも彼の姿を見ることができるだろうか。
アルゼンチンは、引分けでもよいというような試合運びで観衆の非難を浴びたが、後半実力通り2点をあげて楽勝した。
この日で、ソ連に加えてウルグァイ、アルゼンチン、ポルトガルの準々決勝進出が決定、メキシコ、スイス、イタリアは望みを絶たれた。
7月20日(水)
▽ A組リーグ(ウェンブレー)
イングランド 2(1−0 1−0)0 フランス
▽ B組リーグ(バーミンガム)
西ドイツ 2(1−1 1−0)1 ブルガリア
▽ D組リーグ(サンダーランド)
ソ連 2(1−1 1−0)1 チリ
組別リーグが終り、ベスト・エイトが決まった。ブラジルの敗退と北朝鮮の進出が、やはり大きな波乱であったといえよう。準々決勝の顔ぶれは、西ヨーロッパ勢3、共産圏3、南アメリカ2で、一応地域的バランスを保っている。
この試合をした8チームのうちソ連のほかは、それぞれ準々決勝進出をかけていたが、イングランドとハンガリーは、楽な相手と立場に恵まれており、ほんとうに重要な試合は、西ドイツ対スペインだけだった。
この試合は、これまででいちばんの好ゲームであり、90分の試合中、ボールは、双方のゴールからゴールへと往復し、双方の選手たちは果敢で、判断力に富み、スピーディだった。スペインが22分先取点をあげたが、ドイツはわずかに優位を保ち、37分と後半38分によくチャンスをものにして勝った。スペインも若手の起用で、変化のある攻撃を見せていた。
イングランドは、9万2500の地元ファンの声援を受け、ロジャー・ハントが前後半に1点ずつをあげてフランスを破った。ハントはこれで今大会3点をあげ、オイセビオ(ポルトガル)、アルチーム(アルゼンチン)と並んで得点王争いのトップ。本大会の得点王には100万円の賞金が出ている。
ソ連は補欠選手をくり出し、レギュラー9人を入れ替えたが、一糸乱れぬチーム・ワークには、いささかの狂いもなかった。
実によく訓練されたチームといえよう。チリも善戦したが、ソ連はポルクジャンが2点をあげ、チリをマルコスの1点に押さえて勝った。このソ連の勝利で北朝鮮の進出が決まったのだが、D組リーグはツブぞろいで、最下位になったチリもベスト・エイトに残っておかしくない実力があり、イタリアも調子の波に乗っておれば、下馬評通り優勝候補のひとつだったろう。
ハンガリーは前半14分、ブルガリアのアスパルホフに先取点を奪われた。しかし前半43分ブルガリアの自殺点でタイにしたあと、すぐ1点を追加して、あっさり逆転。後半8分にベネが3点目をダメ押しした。
もしこの試合でブルガリアが勝っておれば、ハンガリー、ブラジル、ブルガリアの3チームが1勝2敗となり、総得点と総失点の比によって、ブラジルが準々決勝に出る可能性も、わずかにあった。
しかしハンガリーの逆転勝ちでブラジルの最後の希望も断たれたのだ。(了)
準々決勝組合わせ
イングランド − アルゼンチン
ソ連 − ハンガリー
西ドイツ − ウルグァイ
ポルトガル − 北朝鮮
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