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メキシコとそのあとは……
竹腰理事長に協会の方針をきく (2/3)
(サッカーマガジン1968年4月号)


専用サッカー場の建設を進める

―― アジアの巡回コーチをしているドイツのクラーマーさんが最近、FIFA(国際サッカー連盟)の公報にのせている報告に、こんなことを書いています。アジアのサッカーを向上させるには、近くの目標と、将来の目標がある。近い目標の第一は、まずその国の代表チームを強くすることである。しかし、将来の目標についても、いますぐに実現に向かって第一歩を踏み出さなければならないというんです。
 日本にとって “近い目標” はメキシコで勝つことだというわけですが、“将来の目標” についての具体的なプランも、ことしの日本蹴球協会の事業計画にははいっている。これは非常に注目すべきことだと思います。そこで “将来への計画” の具体的な内容をきかせてください。

竹腰 クラーマーさんは、日本でも同じような忠告をしたんだけれども、日本はアジアのほかの国にくらべても、困難な事情が多い。ほかの国では、サッカーがもっとも盛んなスポーツで、グラウンド難というようなことは考えられないんだが、日本では東京に専用サッカー競披場ひとつない……。

―― それでは専用サッカー場建設計画のほうから……。具体的な予定地とか、予算があるんですか?

竹腰 はっきりメドのついた予定地があるわけじゃないし、協会に何十億という建設費の準備はありません。しかし、まったく雲をつかむような夢に向かって進もうとしているのでもない。とりあえず協会の役員の一部に、サッカーのOBや支持者である専門家を加えて、準備委員会を作りましたが、近々各界の協力を得て、サッカー競技場建設委員会が発足すると思います。そうなれば具体的なプランを、次第に明らかにできるでしょう。
 いまのところ、東京の都心部、まあ山手線の周辺ぐらいのところに、収容人員約4万人でナイター設備のあるものを目標にしています。
 国立の陸上競技場、ラグビー場、体育館、プール、スケート場、ボートコースがすでにあるのだから、国立のサッカー場があっておかしくないと思っています。しかし、実現には関係者の努力とともに世論の支持がなければいけません。
 わたし個人としても、東京オリンピックの機会に、東京にサッカー場を残せなかったことが、生涯の恨事にならないように、この間題に全力を傾けるつもりです。

―― グラウンドのことは、東京に専用競技場を作ることとともに、一般の人たちのサッカー場不足を解決することも考えていかなければいけませんね。サッカー場の委員会は、両方について審議してもらいたいと思います。


コーチ制度をしっかりと

―― 次に、将来のための計画で、いちばん基礎になるのは、コーチ制度だと思うんですが……。

竹腰 コーチというものは人を教えるのが仕事だから、それだけの能力があり、教育を受け、自分でも勉強してもらわなくてはならない。またそれだけの能力を持った人には、協会でチャンスを作ってあげて、コーチの資格を保証してあげようじゃないか、ということです。OBがただ自分の経験だけで、後輩のところへ口を出すのでは、むやみに棒をもってたたく、ぐらいのことしかできなくなってしまいます。サッカーがそれだけ高度になっているわけです。
 小学校を卒業したからといって小学校の先生になれるわけではない。教育系の大学で専門訓練を受け、免状をもらわなければ、世間は学校の先生として信用してくれないでしょう。サッカーのコーチも、同じように権威のある資格制度を確立しようということです。こういうスポーツのコーチ検定制度は、外国には以前からあるものです。

―― 日本では具体的には、どういうふうにして始めますか?

竹腰 技術指導委員長をしている長沼健君(日本代表チーム監督)が、2月中旬から勤め先の古河電工の深いご理解によって、1年間、サッカーのために自由に働いてもらえることになったので、この期間に、じっくり準備をして、43年度から実施したい。これは急がなければならないが、やるからには、最初から、内容をきびしくして、いいかげんでないものにしたい。
 これはこれからコーチをする人のためのテストであって、これまでに功労のあった人を表彰する勲章ではないのです。だから乱発するわけにはいきません。具体的な内容は、これから立案して、クラーマーさんにも相談することにしているが、サッカーの経験のある人を対象に講習会を開いて、講習の済んだ人にテストを受けてもらったうえで、ライセンスを出すことになるでしょう。
 講習とテストは、実技と学課の両方をふくんでいて、実技のほうは、プレーをやってみせるだけの技術と、教えるテクニックということになる。学課のほうには、コーチとして必要最少限の生理学、心理学、救急法などの知識と応用がふくまれることになるでしょうね。名選手だというだけでは、コ一チの資格はないし、学者だから名コーチになれるのではないわけです。

―― すばらしいアイデアですが、実施には、かなり抵抗があるでしょうね。現に名選手だったというだけでコーチの座についている人がいるだろうし、サッカーの経験のない高校の先生が、チームを高校選手権優勝にまで育てたというような例がありますから……。

竹腰 協会のテストを受けない者は、サッカーを教えてはいけないと、いうのではないのです。だから、現在コーチをやっている人、業績をあげている人が困ることはないはずです。ただ、協会の公認コーチの資格を持った人なら間違いない、というふうに世間に認められれば、将来はライセンスを持った人をコーチにたのむチームがふえてくるだろう。また、これからの若い人は、勉強してコーチの資格をとろうという気になるだろうと思います。
 だからコーチ制度を作る以上は、はじめから、きびしい内容のものにしたいと、話し合っているわけです。コーチ制度が軌道にのれば、少年たちから一流選手まで一貫した方針で正しいサッカーを指導することができるし、協会に専任コーチをおいて、各地域を回らせることもできます。その中からプロ・コーチが出てくる可能性もあります。

 

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