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名勝負とぼくの選んだ個人賞選手 (2/4)
(サッカーマガジン1967年1月号) 


名勝負ビッグ・スリー

 いかにアイデアが良くても、試合の内容がつまらなければ、結局はファンに見棄てられてしまう。
 この一年は、前年にくらべて、名勝負、好試合が増えていた。
 三菱重工の杉山をはじめ新人の登場も話題だったし、名相銀をはじめ、下位チームも力をつけていた。
 結果は、東洋工業の二連勝で、東洋の強さが圧倒的だったような印象を残しているが、東洋工業の下村監督は
 「つらいシーズンでした。昨年にくらべてマークされて苦しみました」
 といっている。
 そういわれて、東洋工業の戦いの跡をたどると、なるほど、楽な勝ち方ばかりだったわけではない。
 このシーズンの名勝負ベスト・スリーを選び出してみると
▽八幡―東洋(6月19日・福岡平和台)
▽古河―東洋(11月6日・駒沢)
▽東洋―八幡(11月13日・広島)
 となる。

 ○八幡―東洋戦
 前期の最終日に、福岡平和台競技場で行われた八幡製鉄―東洋工業は、今から思えば、66年度の優勝の行くえを、事実上決定した重要な試合だった。
 八幡は勝ち点1の差で首位に立っており、ここで東洋を破れば、勝ち点の差は3で後期は独走になったかも知れなかった。
 東洋工業の下村監督は、この試合で4―2―4の中盤の2≠ノ、石井を起用した。それまで、このポジションには、新人の二村が出ていた。石井は、内臓疾患で調子が悪いということだった。
 石井が病気だったのは事実である。しかし対八幡戦の前から、すでに石井は使える状態になっていた。それを前期最後のこの試合まで温存したのは、東洋の秘密作戦である。実は日本リーグでは出さなかったが、八幡との試合の前に、韓国遠征のとき石井を使ってひそかにテストをすませていたのだった。
 石井は、マークのしぶとさでは定評のあるプレーヤーだ。その石井が、八幡の切り札の宮本輝紀にぴったりついて、八幡のリズムを狂わせ、東洋は3―0で会心の勝利を握った。
 「まあ、作戦勝ちですかね」
 口かずの少ない下村監督が、平和台競技場で、思わず見せた笑顔が、忘れられない。

 ○古河―東洋戦
 第13週、11月6日に、駒沢で1万5000の観衆を集めた古河電工―東洋工業の試合は、数字の上では、古河が優勝争いから脱落した試合だが、内容からは古河の作戦成功で、シーズン最高の勝負だったと思う。0―0の引分けで、東洋工業は、日本リーグはじまって以来の連続得点記録を、27試合目にストップされた。
 古河電工が、東洋の猛攻を食い止めるためにとった作戦には、二つのポイントがあった。
 ひとつは、フルバックで活躍していた宮本征勝をハーフバックにあげて、小城のマークにあてたことであり、もうひとつは、4人のフルバックのうしろに鎌田を、いわゆるスウィーパーとして配し、1―4―2―3の布陣をしいたことである。
 試合の前日に、サッカー協会の岡野俊一郎コーチは、こう予想していた。
 「問題は小城のマークだけど、ぼくは宮本征勝を当てるのがおもしろいと思うよ。夏のヨーロッパ遠征のときも、マサカツをよくハーフに使ったけど、案外うまいんだ。スウィーパーは置かないほうがいい。中途はんぱにスウィーパーを置くと、かえってかきまわされる」
 この予想は半分当って、半分はずれたわけだ。東洋工業は、カンどころを押さえられ、長沼、平木をくり出した古河のベテランのがんばりにあって、いつもの猛攻のリズムが、ついに出ないままに終った。

 ○東洋―八幡戦
 66年度のシーズン最後を飾った東洋工業―八幡製鉄は、優勝よりも面目を賭けた試合だった。八幡製鉄は9―0以上の大差で勝たなければ優勝できない計算になっており、事実上、東洋工業の優勝は決まったようなものだったからである。
 ただ、東洋は最終戦に勝って胴あげを飾りたいし、八幡は宿敵に一矢を(いっし)を報いてうっぷんを晴らしたいところである。
 八幡の寺西監督は、フルバックの上をハーフにあげて、東洋の小城につけた。そのうえ上は攻撃的に動いて積極的に小城をひきまわした。そのため、東洋の攻撃の起点である小城の攻撃参加が、いちじるしく制約された。この試合で、小城が一本もシュートをしていないことが、八幡の作戦の成功を示している。
 前半9分東洋が先取点をとったが、八幡は23分に、小城のちょっとしたミスを上が拾い、それをきっかけに同点としている。
 実は、ぼく自身はこの試合を見ていない。したがって、この試合が、その前の古河―東洋以上に秘術をつくしたものであったかどうか断言できないのだが、得点経過からみると、この試合が、もっとも白熱した、スリルに富んだものだったようだ。
 後半36分に、東洋がきれいな勝ち越し点をあげ、これが決勝点になったが、八幡は40分に再び同点とすべきペナルティ・キックを得ている。
 惜しいことに、このペナルティ・キックは宮本が左にはずしてしまったが、もし、これが入っていたら、勝負はどうなっていただろうか。
 最後の5分間は、さぞ壮絶な死闘になったに違いない。

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