#27
W杯、準備遅れの総決算 (2014/5/30)
ブラジルW杯前年の2013年11月下旬から「牛木素吉郎のビバ!サッカー研究会」の公式サイトに「高橋祐幸のブラジル便り」と題した欄を設けて記事を掲載させて頂いたが、その殆どは新たに建設されるのと大改造・拡張される全12球場と12都市のインフラ整備の工事遅れについて述べてきた。結局多くの施設が一部未完成のまま大会にもつれこむことになって、W杯史上初の屈辱的な「準備遅れ・工事遅れ」となった。最後にその総決算を書いて、これをもってW杯関連記事の投稿は終了することにしたい。
W杯が終わったあとは、2016年RIOオリンピックの準備計画の進捗状況とスポーツ以外の私の旅行紀行文とか交遊録(人脈録)とかの昔噺しなども交えて書き続けることにしたいと思う。
★未完成のまま完工式
球場の完成度から云うと、開幕戦が行われるITAQUEIRAO球場は、大会25日前の5月18日に「こけら落とし」が行われたが、国際Aマッチ級の記念試合ではなく、ブラジルリーグのCORINTHIANS VS FIGUEIRENSEの試合だった。入場者も6万8千人収容キャパに3万人程のコリンチャンス・ファンだけが集まって、未完成ながらの「完成式」となった。やたら欠陥だけが目立って不評の完成式だった。
当日は生憎の大雨に見舞われ天井閉鎖の回転シートロールが未完成だったためにピッチはもちろんピッチに面した部分の観覧席はズブ濡れになるアクシデントに見舞われた。
上下水道工事の不手際だったのか、一部トイレの水の出も流れも止まって混乱が起きた。
また駅やバスターミナルから球場までの通路標識が滅茶苦茶で、観客の行列に困惑・混乱が絶えなかった。
おまけに工事の後始末が終わってなくて、通路のいたるところにセメント塊、 煉瓦欠片、電線、塵屑等々が散乱していて、通行を妨害して危険さえ感じられる程だった。
携帯の電話回線の不足で多くの通信までが繋がらず、不満や抗議の声も聞かれた。
これらの混乱はそのまま大会に持ち越されることになろうが、本番では外国人観客も加わることだから一層の混乱が予想に難くない。
★座席取り付けが終わらない球場も
次に遅れの目立つクリチバ市のARENA BAIXADA球場は、まだ6000席以上の据え付けが残されており、前売りした入場券に問題が起こることも必定と言われている。日本代表の試合会場にもなっているクイヤバァ市のPANTANAL球場などは4万3千人キャパの観覧席の2万席がまだ据え付けが終わっていないから ここでも入場券に問題が起こることは必定である。
雨天時には天井がロール回転式にシートが張りつめられる仮設屋根は、6球場が未完成のままで大会入りとなる。
また電信・通信分野ではITAQUEIRAOとCURITIBAの球場はインターネットのブロードバンドサービスが充分に提供出来ないこと、Wi-Fi(無線LAN)も12球場中6球場しか機能しないと通信相が公表した。
他にもメディアセンター、警備センター、食堂街、商店街、球場内外の照明の不備など、どこもかしこもほころびだらけが目立つ有様である。
8年も前に開催が決まり6年前から始動した工事が、こうした数々の遅れを発生させた原因は、FIFAのVALCKE専務理事に言わしめると、ブラジル政府と全てのオーガナイザー機関・団体・責任者・担当者などの無知と怠慢の所為であり史上かつてない難問ばかり抱えた大会になると嘆いている言葉に尽きる。
★会場都市のインフラ整備も遅れ
大会12都市のインフラ整備はと云えば、12都市全ての空港施設の整備は100%とは言えない。殊にフォルタレーザ市、クリチバ市、ポルトアレグレ市、 ベロオリゾンテ市の遅れが目立っていて、外国からの観客 観光客を困惑させ混乱をおこすだろうと憂慮されている。
ポルトアレグレ球場への大通りとなる工事は未だに請負業者さえ決まっていない。マナオス市などは、球場へのアクセスとなる高架道路建設、周辺の排水工事等は全て大会終了後になると公言して憚らない始末。マナオス空港とサルバドール空港は大雨の都度、排水工事の欠陥かジャジャ洩れになって天井が崩壊したり構内が浸水状態になったりするが、その修復工事も充分な対策が取られていない。その他 両車線拡幅橋梁工事、球場へのアクセス道路と駐車場など交通手段の公共工事。あらゆる関連工事の舗装・塗装・仕上げ工事などなど全ての会場都市のインフラ整備に未完成と欠陥がみられ、大会中にいたるところで問題が噴出するおそれがある。
そんなこんなの問題ばかりが目立つ中でも入場券だけはバカ売れしている。「DA UM JEITO(どうにかなるさ)」が得意のブラジル人は「世紀の大会になる」と信じているようでもある。
★経済効果も当てはずれ
しかしながら、当初の便乗値上げが悪評となったことが祟って、また大会中の治安の悪化が嫌われたりして、当初は予約が取れないといわれたホテルは、実際にはガラ空きで、稼働率が55%に届くかどうかと言われている。
ショッピングモールなどの大会期間中の売り上げは大幅な落ち込みになるだろうといわれている。客足が落ち、売り上げは平均して11日分の損失だろうと予想されている。
試合の日には、会場都市は休日とする例が多く、外出を控える市民が増えるため、小売業者間では、通常日に比べて5%以上の売り上げ減少になると予想されている。
自動車・家具・建材などは370億ドルの損失になると言っている。ことにW杯効果が大きいと思われていた旅行業界は、国内各地で催される筈のイヴェントやフェスティバルなどが中止になるため、団体予約が激減しホテルもレジャービジネスも旅行業界・観光業界・ホテル業界などはスカスカ状態で、W杯便乗どころかW杯効果など嘘のような大損害になると嘆いている。何故かと云うと今回はFIFAが直接入場券を発売したために、旅行エージェントが試合観戦と観光レジャーなどをパッケージで売ることができなかったからだという。FIFAのやり方も批判されているわけである。
★予断を許さない治安
コンフェデ杯のときにはじまったデモは、その後も収まっていない。
大会期間中にも、大規模スト(騒乱、暴動など)が起こるかどうか予断できない状況である。
5月に入ってからも各地で大きな事件が続いている。バイヤ州では州警軍が給与UPを要求して無期限ストに突入したことで 全州の都市で電化製品販売店、スーパーマーケット等の破壊行為や略奪が相次ぎ、2万5千人を越える「W杯反対」デモが街頭に繰り出した。レシフェ市では1万人の「W杯抗議」デモが暴れまわり、サンパウロ市ではバス会社従業員組合と公立学校の教職員組合の1千500人がデモを展開、首都ブラジリアでは300人を上回るデモがW杯会場となるガリンシャ球場を取り巻いて気勢を上げた。全国7州で3万人を越える争議と混乱が発生したと伝えられている。
リオ州の州警軍などは大会期間中を狙ってスト決行を宣言するなど不穏な空気いっぱいの有様である。
大会が近づくとともに不安と警戒が更に高まることが予想されるが政府と軍部高官は厳重に取り締まると強気発言を繰り返している。
ジルマ大統領は「大会開催地となる12都市の厳戒態勢は絶対に弛めないが、外国から来る観戦者は、この国は明るくて懐の深い国であり国民だと好印象を抱いて帰ってもらえるようにする」と剛軟両面の表現で談話を発表しているが、 内心はビクビクに違いない。10月に大統領選挙があり、W杯が混乱すれば再選がおぼつかないからである。
「ブラジルが優勝しないで欲しい」という声もある。ブラジルが優勝したらジルマが再選されるからという理由でサッカー王国のブラジル人の口から聞けると思えないような言葉である。
W杯工事を利用した政治家たちの汚職垂れ流しを、ジルマ大統領が黙認したことで人気が凋落したことが明らかに窺える。
★日系団体がサポーター支援
日本から来る応援ツアーは2万人とも3万人とも、ブラジルでは言われている。注意していただきたいのは、デング熱の流行である。デング熱の流行は異常な数字をしめしている。2000年代に入って700万件に及んでいるという。とくに日本代表の試合のあるクィアバ レシフェ ナタールの3都市が含まれる北東伯部の地方都市で伝染が拡大しており、病院入院患者が激増しべッドが満杯と云う報道まである。蚊が媒介する病気なので、刺されないように長袖シャツに長ズボンを着用することと殺虫スプレーを持って来ることをお奨めしたい。
サンパウロでは日系5団体(日伯文化協会 日伯援護協会 県人会連合会、日伯商工会議所 日本総領事館)が協力して、日本から来る人たちを支援するための共通のサイトをインターネット上で開設している。
「ブラジル・ワールドカップ日本人訪問者サンパウロ支援委員会」
http://www.bunkyo.org.br/ja-JP/worldcup
そこを開くと、サンパウロ市内に限られるが、治安情報、緊急医療、緊急宿泊相談、観光相談などの支援内容を知ることができる。
城県人会館(011−97107−5185)では緊急宿泊先の紹介だけでなく大会期間中に同会館で「カフェ、おにぎり、みそ汁」のサービスを提供し、屋上に設置したお風呂の利用も出来るようにすると云う。
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以上で「ブラジルW杯にようこそ」の記事送信は一旦終わることにする。
大会中は、牛木先生がブラジルに来て直接取材し、直接サイトに報告されると思われるので、私は先生とは異なる裏話的な特ダネがあれば書くとしても、一応これでピリオドを打つことにする。
W杯終了後に、新たな記事に挑戦したいと思っているので、再会を約して「ヨロシク」「チャオ」
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