＃２３
２０１４−ブラジルW杯の負の部分　（2014/4/14)

★大統領選挙にも影響
　 ブラジルＷ杯は、開幕が迫ってもサッカー王国らしい人気が一向に沸騰してこないばかりか、やたら負の部分だけが報道されて、ブラジル・サッカー史上かつてみられなかった国民の冷淡さが重くのしかかっているように見えなくもない。
　 Ｗ杯のあと10月には大統領選挙がある。立候補を届け出て再選に満々の自信のあったジルマ・ルーセフは、当初60数パーセントの圧倒的な人気で、決戦投票なしに再選が決まるものと予想されていたが、３月に入ってからの中間予想では半減の30数パーセントに落ち込んで、まだ２位を離してはいるものの、もしセレソン（代表カナリア軍団）が優勝できなかったら一挙に凋落して落選確実となることは誰の目にも明らかである。いちばん負の材料を背負い込んだのは、ジルマ大統領その人であろう。
　 遅れに遅れを重ねている６球場のうち３球場（サンパウロ、クリチバ、クィアバ）は開幕前に100％完工することは、最早不可能と判断され未完成のまま大会にもつれこむことはやむなしと公然と言われている。

★賃上げストで関連工事も遅れ
　 これに輪をかけて、リオ州の大規模建設工事労働組合が賃金の30％値上げと残業手当の100％支給を要求して全面ストに突入し、他州の組合もそれに同調する気配をほのめかしており、球場の仕上げ工事のストップはもちろん、各都市の都市改造・アクセス道路拡張・都市機能整備などあらゆる関連工事が中断し、開催12都市全ては「危険・工事中」の立て看板だらけでのスタートになることは確実とみなされている。
　 開催都市でインフラストラクチャーの工事遅れが最も厳しく指摘されているのはベロオリゾンテ国際空港とフォルタレーザ空港で、どちらも乗降客たちは工事現場に張り巡らされた仕切りテントの幕の合間を縫って歩かされることになるだろうと言われている。先週工事現況視察のため、ベロオリゾンテ空港を訪れたジルマ大統領は自ら遅れを認め、大会までには絶対に間に合わないことまでも認めている。
　 球場建設現場では既に10名の事故死が発生し、現場周辺の住民は強制立ち退きをさせられ、公立病院では約４千床のベッド不足で病院の廊下は（ただ死を待つだけの）患者が累々と横たわっていると言われ、公立小中学校では予算削減で教師がいなくなり、昼食支給も不足して生徒数が激減している。

★経済効果に疑問符も
　 Ｗ杯が決まった当初、ブラジル政府は球場の建設費用は10億ドルの税金を費消するに止めると国民に公約していたのに、今では既に50億ドルを突破せんとしていている。
　 全ての「しわ寄せ」が国民の生活をもろに脅かしていることに国民の怒りと抗議の声はエスカレートするばかり。それを抑止・鎮静化させるための機動隊の大幅増員、治安対策予算の増額が行われている。
　 国民の言論・表現の自由までも奪われんとしていることなど、国民の負の重荷はあまりに大きい。
　 Ｗ杯は２兆億ドルを越す経済効果があると吹聴されていて、政治家や利権屋どもが経済効果を先取りして「にんまり」していたが、最近の多くのアナリストたちの計算によれば、360万人の旅行者が払う航空機、貸し切りバス、レンタカー、TAXI、ホテル、食品、飲料など限られた範囲の企業にＷ杯効果をもたらすだけで、深刻な交通渋滞、抗議活動発生のほか、大会期間中に鉱業、鉄鋼をはじめとする殆どの産業は活動が損なわれるので、逆にショッピングモールや商店街への出入りは減って、獲らぬ狸の皮算用はせいぜい５千億ドルから１兆億ドルに届くかどうかさえ危ぶまれるといわれている。一般国民には経済効果など何も実感できないままＷ杯は数々の汚点だけをさらけ出して終るだろうとさえ囁きはじめられている。
　 最近のFOLHA DE SAO PAULO新聞（ブラジルの最大紙）の世論調査によれば……Ｗ杯による効果はあると思いますか？とのアンケートに「無い＝55％」「有る＝44％」と、サッカー王国の国民が史上はじめてサッカーへの評価を引き下げている。ブラジル人が最も熱狂・興奮・歓喜に膨れあがる筈のＷ杯に「Ｎｏ」を突き付けたのは、国民の意識革命と言えるのではないか。


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